幼児教育の父・倉橋惣三の今こそ伝えたい教育理念 「子どもは自発的な遊びで資質を伸ばす」 研究者らが協会設立
イベント開催や伝記の出版計画も
現在のお茶の水女子大の付属幼稚園長だった倉橋は遊びや生活を重んじた。子どもは「自ら」育つ存在だとして、自発性を促す保育論を立てた。その視点は、現在の保育所保育指針や幼稚園教育要領にも反映されている。親や保育者に向けて、子どもとの向き合い方を伝えた著書も多い。
倉橋の理念と語りを受け継ぎ、新たな実践の場をつくろうと「倉橋惣三協会」は昨年6月に発足、今年から本格活動する。倉橋の孫である倉橋和雄さん(71)=文京区=や、区立お茶の水女子大学こども園の宮里(みやさと)暁美園長ら約10人が加わった。今後、倉橋の人柄や保育論を分かりやすく伝えるイベントを開き、保育現場の研修も支援する。伝記の出版計画もある。
倉橋を研究してきたお茶の水女子大の浜口順子教授=保育・児童学=は「保育や幼児教育の専門家でない人にも加わってもらい、就学前教育のあり方を考える場をつくりたい」と話す。
倉橋惣三(くらはし・そうぞう)
静岡県出身。小学生のときに母と2人で上京し、浅草で少年期を過ごす。東京帝国大では心理学を専攻。1910年に東京女子高等師範学校(現・お茶の水女子大)講師に。1917年には教授となり、同校付属幼稚園主事(園長)に就く。1948年に日本保育学会を設立し、初代会長。著書に「育ての心」「幼稚園真諦」など。
「大人の都合で子どもを理解していないか」 浜口順子お茶の水女子大教授に聞く協会設立の狙い
小学校以降の「学ぶ意欲」につながる
-なぜ今、「幼児教育の父」として知られる倉橋惣三を見直すのでしょう。
日本社会では乳幼児期の育ちがいかに大切か、ということが十分理解されていません。ですが、大正、昭和初期から幼児教育の重要性を説いていたのが倉橋です。
中でも強く言っているのが、この時期の遊びの重要性。幼児期の遊びや教育は、小学校以降の学習につながるかどうか、という視点から語られがちですが、幼児期に必要なのは、自分からやりたいと思う不定型の遊びをたくさんしておくこと。それは小学校以降で大切な学ぶ意欲にもつながります。自発的な遊びの中から子どもの資質を伸ばしていくことを訴えた倉橋の指摘は、今の子育てでも大切だと思います。
-保育所や幼稚園などで倉橋の教えは生かされていますか。
倉橋が繰り返し説いた「子ども一人一人を見る」というのは、今も保育現場でのキーワードです。これも、小学校以降の「集団の中の個」という概念とは違い、ありのままの子どもを、人と比べたりすることなく、その子として尊重するということなのです。
現代の子育てに悩む人たちに響く言葉
-大人の役割とは。
自発的な遊びには、自由とともに、子どもが安心して遊び始め、集中していけるような環境を用意することが大事。倉橋は、大人が子どもを自分の思い通り動かそうとしていないか、自分の都合で子どもを理解していないか、子どもを低く見るような高慢さはないか、とも問うていて、今子どもと向き合う私たちも考えさせられます。
ですが近年、日本の保育現場は規制が緩和され、施設の面積や保育者の配置が不十分な施設もあり、保育者にも余裕がありません。子どもの遊びを深めるためには、子どもと触れ合う時間以外に、先生同士が話し合ったり、考えたりする時間も必要だが、なかなかできていません。研修や文化的な素養を高める体験も大事だが、そうしたことが重視されていないことも大きな課題です。
-協会は何を目指して活動していきますか。
倉橋の優れていたところは、現場の保育者や親の心に響く言葉でその理論を伝えていること。100年以上前に幼児教育の充実に尽くした倉橋の言葉は、現代の子育てに悩む人たちにも響くものだと思います。社会全体で幼児期の子育てを大切にする機運を高めていくために活動していきたいです。
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「子供が次の社会の土台(基盤)になる」ことを社会人全員が認識すべき、との印象をつよく持ちました。過去数十年の日本の社会の移り変わりをふりかえると、防災や国防などの整備については、まことしやかに国の予算が計上されてきたとおもいますが、「子供が育つ環境」については見通しを失なっているようにおもえます。幼児教育を百年前に提唱した倉橋惣三のような人物の足跡には今まで以上に光を当て、世の中に報道されることを期待します。『一日三食を満足に取れない子供たち』や『子供同士のいじめ』、『成人の子供に対する虐待』をみても今の社会は病んでいます。
宮坂公啓 2021/03/26