男性は育休を取ればいいわけじゃない 大切なのは「復帰後も子育てしながら働けるか」〈パパたちはどう生きるか・4〉

大久保謙司 (2024年5月6日付 東京新聞朝刊)

ワッペン

 本来はやるのが当たり前なはずなのに、父親が育児をすると世間から「イクメン」と特別視されてきた日本の社会。「当たり前」の実現がなお道半ばの状況で、かわいいけれど手のかかるわが子とともに、パパたちはどう生きていくのか―。自身も昨秋に第1子が生まれたばかりのさいたま支局の記者が、埼玉県内の先輩パパたちを訪ねる連載。今回は支援側の専門家に聞きました。

産婦人科医・産業医 平野翔大さん(30)

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育児中の父親たちは「支援が必要な存在」と説明する平野さん=東京都豊島区で

 男性の育児休業取得率は2022年度時点で、まだ2割に届きません。何が阻害し、社会にどんな影響を及ぼしているのか。育児に携わる父親に向けた情報提供に取り組む一般社団法人「Daddy Support(ダディーサポート)協会」(東京都豊島区)の代表理事で医師の平野翔大さんに聞きました。

取得率が上がっても、実際は

-国の調査では、2022年度、育休を取得した父親の割合は17.13%。前年度より3.16ポイント上昇したものの、約8割の母親との開きは大きく、依然として低迷しています。

 妻の出産後8週間以内に取得できる「産後パパ育休」制度が2022年にスタートするなど、取得へのステップが進んだ部分はあります。ただ、長時間労働を求める従来の働き方が見直されない限り取得率が大きく伸びるのは難しく、伸びたとしても真に父親が子育てする状況にはならないでしょう。

-なぜでしょう。

 国や企業が掲げる取得率の目標は、育休を取らせさえすれば達成できますが、実際に育児を担うこととイコールではありません。育休中に本当に育児をしているか。さらに最も大切なのは、仕事に復帰してからも子育てしながら働けるのか、です。

 よくあるのが、育休を終えた男性が職場で「もうフルタイム勤務で残業も大丈夫だよね」と思われること。父親と母親でできる世話の違いは母乳を与えることぐらいで育児は続いているのに、仕事復帰したとたんに男性には残業ありきの業務計画が立っていたりする。

 そのひずみは、妻の働き方に影響します。夫婦が同時に育休を取得し、夫が先に仕事に復帰する場合を考えてみてください。夫が残業続きで当てにできなくなれば、残された妻はワンオペ育児を強いられ、仕事復帰の際は短時間勤務を選択するなど働き方をセーブせざるを得なくなる。「2人で育児をしたい」と願っていたはずなのに。

長時間労働を解消しなければ

-どうすればよいでしょうか。

 仕事に全力投入するか、キャリアを諦めて育児をするか、の選択を迫るような働かせ方をやめること。長時間労働を解消し、時々の状況に応じ柔軟に働き方を調整してキャリアを築ける社会に変えていく。

 国が育休取得の促進を企業などに求める背景には、人口減少による労働力不足があります。育児や介護などを抱えていても働ける環境づくりが求められていますが、企業には「上からの要請」ととらえられ、育休取得率は重視する一方で長時間労働の見直しが進まないという問題が起きています。

 ただ、育児をする父親が増えることは、働き方の多様化や女性の活躍など社会に劇的な変化をもたらします。停滞した社会にブレイクスルー(劇的な進歩)を起こすために重要なことだと認識するべきです。

-育休の取得を考えている人へアドバイスは。

 何となく「取ろうかな」ではなく、夫婦で十分に話し合い、子育てをプランニングすることが大切です。「この時期は父親が1人で育休を取れば母親が働ける」「この時期は世話が大変だから2人で取得する」というように、夫婦間の負担の分担を考慮して決める。そのような考え方を、社会的にも浸透させる必要があります。

育休中「ほとんど家事育児をしない」父親が36.4% 育児で精神的に不調になる父親も

 東京都豊島区は2月、2歳未満の子どものいる区内の父親を対象に調査を実施。育休中でもほとんど家事や育児に時間を割いていない父親が36.4%。一方、育児中に気持ちの落ち込みなど精神的な不調を感じたという回答も半数近くに上った(いずれも速報値)。

 子どもが1歳になるまでの育児で「つらい」など否定的な気持ちを感じたという回答も半数弱あり、頻度は「ときどき」が29.8%、「たいてい」が10.1%、「いつも」も5.4%あった。

 負担や不調を感じても、多くは行政などに相談していない。自由記述欄には「育休中の父親同士で話せる場がほしい」「男性参加不可の育児イベントが多い」などの声が寄せられた。「3カ月健診に行った時に『なぜお母さんが来ないのか』と不思議がられた」と男性の育児への理解の乏しさを指摘する声もあった。

 調査を担当したDaddy Support協会の平野さんは「育児中の父親も支援の対象という認識が必要。妊娠や出産に関係する役所の部署などに支援の場を増やしていくことが今後重要になる」と提言している。

 調査は回答率47.4%、有効回答は1546件。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2024年5月6日

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  • かにたま says:

    育休を取得することへのフォーカスに終始している記事が多い中で、その後の働き方へ焦点を当てている点で、私の考えと近いものを感じました。

    私が勤める外資系金融企業でも、女性管理職や男性育休取得者のインタビューが社員向けサイトで頻繁に取り上げられています。最近では女性が働きやすい企業ランキングでかなり上位まで食い込んでおり、人事や広報部門の鼻息は荒く感じられます。

    しかしながら、10年近くこの会社に勤めていて、今までの同僚や上司(ほとんどが男性)の意識に多少の変化はあったのかもしれませんが、行動はさほど変わっていないと感じます。

    妻も近い業界で働いており、現在6歳と1歳のこどもを育てています。私の1日は、5時から朝食と妻の弁当、夕食を準備し、洗濯物をたたみ、下の子を保育園へ送って出勤、妻が上の子の送り及び二人の迎え、その直後に私が帰宅し、風呂に入れ、下の子を寝かしつける、日によっては、その後食料や雑貨の買出し、といった流れです。妻の仕事が立て込んだ時は私が迎えに行き、二人の寝かしつけまでします。

    こういった話をする相手が会社にいません。

    育休はいいことですが、子育て中はスポットの頑張りはかえって迷惑です。燃え尽きることは許されません。日々60~70点の結果を365日出し続けることが求められます。会社には(世の中には)、育休とらなくていいから(取得するなら夫婦交互がよいのでは)、夫婦ともども「定時」で帰ることをもっと推奨してほしいです。

    理想的な姿を求めるのではなく、持続させるべき現実的な姿を、結婚前から、出産前からイメージして備える方が重要なのではないでしょうか。

    かにたま 男性 30代

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