〈絵本さんぽ〉吉祥寺 Main Tent 誰かが手にした絵本を次の人へ「それぞれの大切な思い出がつまっている」

(2024年5月25日付 東京新聞朝刊に一部加筆)

絵本さんぽ

 魅力的な絵本の店を記者が訪ね、紹介します。

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絵本の古本屋「Main Tent」の店内=東京都武蔵野市で

サーカスのテントに迷い込んだよう

 絵本専門の古本屋「Main Tent(メインテント)」。オーナーの名前が「フランソワ・バチスト氏」と知り、興味を持って訪れた。吉祥寺駅北口から徒歩10分ほど。店先でライオンの親子のぬいぐるみが出迎える。店内は赤と白のカーテン、猿のシャンデリアなどが飾られ、サーカスのテントに迷いこんだようにドキドキした。

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猿のシャンデリア

 オーナーの本名は冨樫チトさん(47)。フランスの童話「みどりのゆび」の主人公・チト少年にちなんで、両親が名付けたという。物語の冒頭で、チト少年が教会でもらった名前がフランソワ・バチストだ。

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オーナーのフランソワ・バチスト氏こと冨樫チトさん

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フランス童話「みどりのゆび」

「絵本を卒業することなく生きてきた」

 絵本好きの両親の元で育った冨樫さんは、「絵本にはゴールがなかった。どれだけ読んでも、美しい絵本がたくさんあって、卒業することなく生きてきた」と話す。2015年2月にオープンした店には、約5000冊の国内外の絵本が並ぶ。いずれも、一度誰かが手にしたもの。「大切にしてくれるところに渡したいという思いで、遠方からも買い取りの依頼があります」

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壁一面に絵本がずらりと並ぶ

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海外の作者の絵本も

この店の絵本は一冊一冊が必ず違う

 新刊の書店とは異なり、「この店には同じ絵本があっても、一冊一冊が必ず違う。それぞれ子どもたちの大切な思い出が詰まっている」という。本来なら捨てられるような子どもの落書きが残った絵本も並ぶ。

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児童書も豊富に取りそろえている

 冨樫さんは、ダンサーとしても活動。打楽器などの音色を口で表現するヒューマンビートボックスとともに絵本の読み聞かせをするユニット「カーテンアケロ」としても、全国の小中学校などを回っている。

大人が絵本と再会する瞬間何度も

 「絵本はマトリョーシカ人形の内側のようなもの」と冨樫さん。外側は大人でも、内側にはさらに小さな人形があり、子どもの頃に育まれたものがずっと変わらずに存在する。

 「大人が絵本と再会し、子どもの頃に読み聞かせをしてくれた親の体温や声、匂いを思い返すシーンを、何度も見てきた。まるでタイムマシンのようです」 

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「よい絵本は世界中でわかちあおう」と冨樫さんが書いたメッセージが貼られている

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幼い頃に読んだ絵本とも再会できる

Main Tent

住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町2の7の3

電話:0422(27)6064

平日午前10時半~午後5時、土曜午前10時半~午後5時半、日曜祝日午前10時半~午後6時。水曜定休

冨樫チトさんおすすめの1冊

書影

クリスマスまであと九日-セシのポサダの日 作・マリー・ホール・エッツ、アウロラ・ラバスティダ 訳・たなべいすず

 まもなくクリスマス。メキシコではクリスマス前の9日間、毎晩どこかの家でポサダのパーティーが開かれます。小さな女の子セシは、初めてポサダのお祭りをしてもらえると大はしゃぎで…。

おすすめポイント

 僕にとって良い絵本とは、文章に出し切れないものを絵で描いている作品。文章で「悲しい」と書くとき、「悲しい」という言葉の前には彩り豊かないろいろな感情があります。一つの言葉にした時点でフリーズドライのように固まってしまう感情をもう一度溶かす力が、良い絵本にはあると思います。

 限られた色だけで表現されている、このメキシコの絵本もそんな一冊です。僕の娘の名前は、この本の主人公の「セシ」から取りました。

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