保育士の給与10.7%引き上げ 保育士に届いていない実態をどう見る? 三原じゅん子大臣に聞いた

 保育士の処遇改善のため、2024年度分の人件費が10.7%増額されています。東京すくすくが2月に記事【保育士の人件費10.7%引き上げは始まっています 本当に給与に反映される? 園の収支「見える化」の効果は?】で紹介したところ、現役の保育士たちから続々とコメントが集まっています。いずれも「もらえていない」という後ろ向きな内容が目立ちます。4月1日に開かれた三原じゅん子・こども政策担当相の閣議後会見で、こうした声が上がっていることについて聞きました。
写真 会見する三原じゅん子・こども政策担当相

閣議後会見に臨む三原じゅん子・こども政策担当相=こども家庭庁で

 東京すくすくに保育士たちから寄せられた声は、厳しい現状を訴えています。

 「年度末に調整金が出ると言っていたので頑張ってきたけど、やはり期待は大ハズレ。どういう調整なのかさっぱり分からない。長く貢献してこれは無い。モチベーションは上がらないし、責任ばかり増える日々。新年度は始まり、国の政策は現場に反映されず、また働く事になるのか」

 「処遇改善10.7%について、1円も保育士には渡りません。法人に確認すると払うつもりは無いとの事でした。理由は保育園の利益が少ないからだそうです。処遇改善1、2、3も少額しかいただけません。週の半分は遅早番勤務、土曜日保育、休暇対応の職員がいないギリギリの職員数、つらいです。モチベーションは下がりっぱなしで新年度が始まります」

 その中の一人で、連絡先を添えてくれた保育士さんに話を聞くことができました。伺った内容を踏まえ、1日午前に開かれた閣議後会見で大臣に質問しました。

記者 3月末で保育士を辞める方が、園の経営者に24年度の引き上げ分を給与に反映してもらえないかと尋ねたところ、「うちは支払うつもりはない」と言われたそうです。それでも食い下がると「5月にはいくらか払うから、それまで残るなら払う」と言われたとのこと。保育士に引き上げ分が行き渡っていない事例がある現状について、どう受け止めますか?

三原大臣 人事院勧告を踏まえた処遇改善の効果は、現場で働く保育士の賃金改善に確実に行き届くようにすることが必要です。このため、各自治体を通じ、迅速かつ確実に一時金などにより賃金の支払いにあてることや、次年度以降の給与表、給与規定等の改訂に取り組んでいただくことを要請しているところです。

昨年度実施した10.7%の処遇改善は、令和6年4月からさかのぼっている分でありますことから、令和6年度に保育園に勤務されており、3月末に退職する職員も対象になりうるものであります。

 三原大臣は、たとえ3月末で退職したとしても、今回の人件費10.7%引き上げは対象になると明言しました。さらにこう呼びかけています。

三原大臣 各園での個々の職員の給与は雇用形態・勤務勤続年数・職責等はじめさまざまな事情を踏まえ、各園、または法人の給与規定等に基づく契約によって決定されるものであり、必ずしも保育士全員の給与が一律に改訂通り上がるものではございません

記者 先の保育士は、正規職員で勤続年数も十分であることから、いくらかは改善分を給与に反映されてしかるべき保育士だと考えます。こども家庭庁は、人件費が十分に保育士に行き渡るようにするため、園の収支の見える化も始めますが、数々の経営者による不正を見てきた保育士からすると、制度の穴を簡単にかいくぐるのではないかと話しています。

 保育士の給与は園の経営者の裁量によるため、東京すくすくに寄せられる声で多いのは、「国が直接、保育士の口座に一時金を支払ってほしい」という願いです。これについて、在任中に検討していただけないでしょうか。

三原大臣 経営状況の見える化では、施設・事業者単位での経験年数、役職に応じた基本給、手当や賞与を含めた年収目安などのモデル給与、人件費比率、職員配置状況などの経営情報を公表・分析するものです。保育所等の給与状況や人件費比率を明らかにすることによって、保育士等の求職者にとっても職場選択やキャリアの検討を支援する効果も期待しています。

 その上で、保育の公定価格は、保育所等に在籍する子どもの数に応じて保育に要する費用を支給するもの。保育士の給与は雇用形態・勤続年数・職責などに応じて事業者において決められるものです。

 保育士の口座に国が直接支払うのは、保育士の雇用形態・勤続年数・職責等に加えて、現場での勤務態度などの勤務評価がさまざまな中で、どのような方にどのような金額を支給するかという対象や金額に関する課題、また当該事務を実施するにあたっての体制やコスト等の課題などさまざまな論点があると考えており、今の公定価格の枠組みとは別にこのような仕組みを設けることは困難と考えています。

 いずれにしても、現場のみなさんに処遇改善の効果が行き渡ることは重要であると考えておりますので、しっかりと取り組んでまいりたい。自治体に対して、改めて事務連絡にて処遇改善が現場の保育士にしっかりと届くように要請を行って参りたいと思っています。

 こども家庭庁は「いずれは、公定価格の引き上げ分が人件費として保育士に行き渡っていない園がどれくらいあるのか、調査をしていく必要がある」との考えを示しています。

 「支払うつもりはないと言われた」という保育士を取材した記事は、専門家の見解を交えて後日公開する予定です。園によっては、支払うための手続きに手間取っていることも考えられます。勤め先の園へ、引き上げ分はいつ頃どのような形で支払われる見込みなのかを問い合わせてみた上で、ぜひ下記の記事のコメント欄「すくすくボイス」から現状について教えていただけるとありがたいです。
34

なるほど!

35

グッときた

703

もやもや...

275

もっと
知りたい

すくすくボイス

  • 匿名 says:

    この前まで、私立保育園、幼稚園の監査業務をしてました。処遇改善加算は、まるで機能していません。こんな分かりづらい制度では、園の経営者も担当者も、大臣自身も理解されることは無理だと思います。

    処遇改善加算というのは、通常の給与体系の中での昇給に加えて、処遇改善加算をされるものです。毎年の昇給と処遇改善加算は、はっきりと、明確に区別されるものです。それを最低限理解し、処理されなければなりません。

    それに理事長を兼ねた園長が、最高額の処遇改善加算額をもらうとか、理不尽なことも許している制度です。面倒でも、国からあるいは市町村から直接に支給でもしないと、解決しないし、税金、公金がこんなに曖昧に、いい加減に使われてしまっていることに呆れてしまいます。

     男性 60代
  • 男性園長 says:

    どうも10.7%という数字が独り歩きしているようです。施設の収入が10.7%増えるわけではなく、保育士の給与が10.7%増えるというわけでもありません。

    「10.7%の改善」とは、入所児童の保育単価(年齢で変わります)のうち、「人件費分」の単価が10.7%増額されるというものです。おおまかに計算してみると、この増額分は施設収入の7%くらいになるようです。これを職員で配分して、社会保険料と所得税を引くと、手取り額は改善前給与の5%くらいになります。ですから「5%くらいしか給料が上がっていない」という方は、それが適正額です。「良心的」な経営者と言えるでしょう。

    男性園長 男性 50代
  • 娘が保育士 says:

    娘が保育士をしています。給料が上がるどころか、給料が何故か下がり…今年度も下がってます。しかし、今年度に入る前に11名保育士が辞め、入ったのは6名。前年度もやめた人数の半分以下にあたる2名のみ入ってきてます。

    明らかに人数が足らず、娘は前年度担任と加配の兼任をしました。残業代もつかない(これは園が悪いけど)…園そのものにお金が無いから、お給料が少ないのでは無いか?と…もっと根本からの見直しをして欲しいですね

    娘が保育士 女性 50代
  • がらがらどん says:

    非常勤ですが、今年度から担任してます。時給は、昨年度から¥10上がって、¥1090です。山梨県です。そんでもって、この土日は、書類整理に追われてますが、時給が出るはずもなく、タダ働きです。

    こんな状態、何年続けられるかな?議員の給料を少し分けてくれるだけで、かなり良くなると思うけど。

    がらがらどん 女性 50代
  • えりさち says:

    個人に振り込むのは簡単でしょう。園から所属職員の10.7%分の金額とマイナンバーと個人の振込用の口座番号をを国へ申請。国から直接振込。その後監査で所属数と申請書類が実際の給与と合っているか書類確認。超簡単!?

    えりさち 女性 50代

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