第4子パパ初育休~口唇裂の子を迎えて(4)待ち受ける手術 意外な「私もそうでした」

山口哲人 (2018年1月24日付 東京新聞朝刊)

「私もそうでしたよ」に勇気 医師から励まし「必ず治る」

写真は手術から約3カ月後。手術痕も薄くなってきた=東京都内の自宅で

手術から約3カ月後。手術痕も薄くなってきた=東京都内の自宅で

 昨年7月の第4子の誕生に合わせ、育児休業を2カ月間取得したのは、私(37)が上のきょうだい3人の面倒を見ることで、妻(37)が口唇裂(こうしんれつ)のある三男に集中して付き添えるようにするためだった。とはいえ、赤ちゃんはかわいい。私も6年ぶりの入浴や、哺乳瓶での授乳に挑戦した。

口が完全に閉じない 授乳は一苦労

 苦労したのが授乳。口の右上が鼻の近くまで裂け、内側の歯茎も割れている。口唇裂の子は、口の中の上部も裂ける「口蓋裂(こうがいれつ)」を併発するケースが多い。その場合は自力で飲むことができず、胃にチューブを挿入すると聞く。うちの赤ちゃんに口蓋裂はなかったが、口が完全に閉じないので授乳は大変だった。


〈前回はこちら〉(3)妻が「鬼」になったのは、私のせいだ


 一生懸命おっぱいや哺乳瓶に吸い付くが、唇の隙間から空気が漏れ、うまく飲めない。疲れて眠るが、満腹ではないからすぐ泣きだす…の繰り返し。出生時に3750グラムあった“大型新人”は、10日後に約100グラム減っていた。通院時には看護師から「起こしてでも飲ませて」と厳しく指導された。裂けた上唇をとじる手術を10月に控え、全身麻酔に耐えられるよう、少しでも体重を増やさなければならない。

専用の哺乳瓶でこつつかむ 体重5キロに 2カ月半で初手術

 口唇裂の赤ちゃん用に、特殊な哺乳瓶がある。値段は張るが、数種類を試すうちに飲みやすいものが見つかった。授乳中に眠ろうとする時は、かわいそうだけれど足の裏をくすぐって寝かさない。赤ちゃんが吸い込むタイミングに合わせて哺乳口を強く搾り、一吸いでたくさん飲ませるというこつもつかみ、毎回たらふく飲ませた。

 かくして体重は5キロを超え、生後2カ月半で無事に手術を受けた。縫合された口元は血がにじみ、麻酔のせいか顔が腫れ上がっている。傷口を触らぬよう、両手を拘束するのも忍びなかったが、これは序章にすぎないのだ。

これからも待ち受ける手術 周囲の励ましで気持ち新たに 

 この病気の子は歯並びが悪くなるので、5歳前に歯科矯正を始めるのが一般的だ。また、うちの赤ちゃんは小学校入学前に再び口や鼻の整形手術をする方針。さらに8、9歳ごろに腰骨を移植して、歯茎の割れた部分を埋める手術をする。

 主治医からは「8年もたてば、医療技術の進歩で腰骨を削る必要はなくなるでしょう」と説明されたが、成長とともに口や鼻の左右の対称性がずれてくれば、手術を繰り返すことになる。

 幼い子に何度もメスを入れるのは、本当にやり切れない。でも、手術をすれば良くなるはず…と自分に言い聞かせた。そんな時、まだ赤ちゃんが生まれる前、医師である知人が酒席で掛けてくれた言葉を思い出した。「落ち込む必要は全くありません。必ず治る病気ですから」

 育休中の飲み会でも、赤ちゃんの口唇裂を打ち明けたことがあった。パパ友や懇意になった取材相手からありがたいお誘いを受けたときは、妻の許しを得て週に1回ほど飲みに出掛けていたのだ。すると、打ち明けた相手から驚きの答えが返ってきた。

 「私もそうでしたよ」。傷痕も見えず、全く気付かなかった。「必ず治る」という医師の励ましは、掛け値なしの言葉だったんだ。酔いが回っていたせいかもしれないけれど、幾度もの手術に立ち向かう勇気が湧いてきた。

入社12年目の政治部記者(37)が、昨年7~9月に育児休業を取得しました。典型的な仕事人間だった筆者の奮闘を、5回にわたって連載します。

〈次回はこちら〉(5)得られたもの

6

なるほど!

35

グッときた

9

もやもや...

5

もっと
知りたい

すくすくボイス

  • やすこ母さん says:

    私の孫も口唇裂でした。手術が早いほど傷が目立たないとする専門医の書き込みを見て その足で病院を訪ねましたが 術前検査で心臓に完全大血管転移が見つかりそのまま入院。一刻も早く手術しなければ命が危ないとのことでした。主治医から今日までよく生きていたね、必ず元気になろうね!と 小さな手を握られたその孫もこの春から大学生。先生の言葉どおりお陰さまで元気に育ちました。
    口唇列は心臓などに疾患を併発していることが多いらしく 早く受診して良かったと思います。
    子育ては本当に大変ですが 振り返ると楽しかった思い出ばかり。ステキな思い出をたくさん作ってくださいね。

    やすこ母さん 女性 60代
  • 匿名 says:

    おつかれさまです!わたしも「ミツクチ」と言われた口蓋裂、兎唇です。
    生後6ヶ月で手術したと聞いたのは保健師さんから。高校3年の時でした。それまでは、母から「自分でナイフで切ったんだ」と言われていたので、もうびっくりでした。それからいろいろ調べ、大人になってから整形手術をしました。少しはマシになったけど、まだまだ差別的に見る人がいます。幸い、というと齟齬がありますが花粉症やコロナで、マスクしていてもおかしく思われないので、今は安心して買い物に行けます。歯並びは治されなかったので、次々と抜けていき57才で総入れ歯です。ぜひ、歯並び矯正してあげてくださいね。ほんとにおつかれさまです。

      
  • 匿名 says:

    我が家は3世帯、毎日毎日賑やかな家です。孫が3人男、女、男、唯一の女の子6才は未熟児で生まれ口唇口蓋裂で6ヶ月で1回目の手術。これから移植手術の時期にJXGと言う小児ガン血液ガンにおまけにコロナにかかり、大変な病気ばかりの孫ですが普通の子と変わらなく今一生懸命頑張って生きてます。私達も普通の子と変わらないように接してます。感想文ではありませんが我が家の大事な孫、良い子に育っているので投稿しました。

      
  • 匿名 says:

    現在、63歳で、看護師をしています、わたしも、右側口唇裂の女性です、兄2人姉の末っ子で、生まれました、母は、自分を責めたそうです、しかし、お姑が、この子には、責任がない。出来るかぎり、普通の子どもとして、育てようと、いったそうです、口蓋列のoPを数回しました、最終は、10歳に骨盤の骨を一部取り、鼻の下の口蓋に移植し、また、美容外科で、鼻筋をまっすぐにしました、しかし、見た目の、キズは、わかります、しかし、家族の愛情は、もちろん、小、中、高も、普通に出て、看護師をすることで、今まで助けいただいた恩返しが、出来ればと、看護師一筋に、今も、やらせて頂いています、また、人並みに結婚もしました、しかし、夫の義理母は、わたしの顔見てなんで?と、反対したそうです、しかし、義理祖母が、孫が、結婚するんだから、親が、結婚するんじゃないでしょ!と、いったことを話してくれました、だから、普通の子と変わらず、育てれば、かならず、やさしい、また、思いやりのある人になりますから、今も、周りに支えてもらいながら、毎日を過ごしています、ニックネームダッフィーより

      
  • 匿名 says:

    可愛らしい赤ちゃんですね。手術痕もどんどんキレイになくなっていくでしょう。うちの娘は3歳のときに缶飲料を口にしたまま正面に倒れて鼻を大きく切開。
    手術後に「傷は残りますかね」、「残りますね」と言われましたが、現在23歳、キレイな女子になりました。将来、同じ症状の赤ちゃん、親御さんを励ましてあげてください。

      

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