産後クライシスの妻の本音をAI分析 頻出ワードから見えた「夫の許せない行動」は? 出産前に知っておこう
慶応大SFC研究所が協力 すくすくへのコメント300件超を分析
「夫が育児をする時はいつも私がいて何かしらのサポートがある環境だけれど、私は夫がいない時に1人で誰のサポートもなく全ての育児をしている」
「息子を夫に頼んでお風呂に入ったらすぐに泣きだしてしまい、ゲームをしていた夫はろくにあやしもせずに『泣きやまないから早く出てきて』とお風呂の前まで連れてきた。体もほとんど洗えずに急いで上がり、髪もびちょびちょのまま抱っこを代わった」
東京すくすくで2019年11月に公開した記事「『産後クライシス』調査でわかった妻の本音 夫婦仲が悪化する原因は?」。現在も読者から匿名コメントが寄せられ、その数は350件を超えました。
東京すくすくは、2020年9月までの321件の分析を、慶応大SFC研究所の上席所員で健康科学が専門の本田由佳さん(46)に依頼しました。解析には、文書データから主題を読み取る手法の一つ「トピックモデル」を用いています。文中に出てくる特徴的な単語を含む、代表的なコメントを選ぶ手法です。
今回、AIは、コメントによく出てくる単語の組み合わせ上位15と、代表的なコメントを選出。本田さんの研究チームが一般的な状況を示す文章にしました。下の表の通りです(文章は本田さん監修のもと、東京すくすく編集チームが要約しています)。
1位「育児 家事 夫 協力 仕事」
初めての育児で精いっぱいなのに夫の家事への協力はなく、「俺だって朝早く起きて夜遅くまで仕事してる!」と、24時間気が休まることのない育児を理解していない発言をされたことや、子どもが生まれても、ゆっくりお風呂に入ってご飯を食べ、だらだらお酒を飲んでくつろいで、今までと変わらずに生活している姿に愛情はなくなった。
2位「子ども 自分 体調 優先 パパ」
子育てを優先してほしいのに、「子どもが発熱した」と保育園から連絡が来ても、仕事を早退するのはいつも私で、夫は自分の都合ばかりを押しつけてくる。
4位「子ども ゲーム 夫 携帯 テレビ」
夫が毎晩夜中までオンラインゲームをする音が寝室にまで聞こえてくるし、勝手なタイミングで寝室に入ってくるし、夫のいびきがうるさくて子どもが泣いてもなかなか寝付かないし、を繰り返しているうちに朝になり、寝不足のまま子どものお世話開始になる。
6位「妊娠 出産 精神 育児 流産」
妊娠・出産・産後の状態を分かってほしいと、「産後はホルモンのバランスが崩れて、こうなりますよ」と書いてある本や、産院や母親学級でもらったパンフレットなどを「読んでおいて」と夫に渡したら、「こういうこと、やめた方がいいよ」と言われた。
10位「気持ち 人 旦那 結婚 男」
気持ちの寄り添いはおろか、まるで人ごとのように無関心な旦那の態度に、一気に旦那への気持ちが冷え込んだ。
11位「旦那 ご飯 風呂 夫 自分」
外食時、私はご飯が来るまで子どもの相手をして、ご飯が来たら先に子どもに食べさせて、終わったら冷えたご飯をかき込んで…ってやっているのに、夫は自分のご飯を一人おいしく食べて何もしてくれないのが毎回腹立つ。
13位「子育て 理解 旦那 ストレス 心」
「子育てのストレスがたまるから、なるべく早く帰ってきてほしい」と旦那に言っても、「俺は子どもと遊んでる時、全くストレス感じないよ。おまえがおかしい」と子育ての大変さを理解してもらえない。
15位「授乳 ミルク オムツ 夜泣き 夜中」
夜中、何度も起きては授乳し、時には授乳してもオムツを替えても、縦抱きにしても横抱きにしても泣き止まない生活が何週間も続き、朝方になると赤ちゃんがぐっすり眠るので私も寝かせてもらって、夫が長女に朝ごはんを食べさせてくれるのをうれしく思っていたら、ある日「いつ長女のお母さんに戻るの?」とキレられた。
産後の妻のリアルな声=ビッグデータを両親学級で活用したい 夫と共有すれば不和の防止につながる
ショック…20年前と変わってない
本田さんは「私が子育てをしていた20年前と比べ、男性の育休が取りやすくなり、子連れで出掛けられる場所が増えるなど、社会の制度や環境は整ってきている。なのに、当時と同じようなママの声があふれていることにショックを受けた」と話します。「このままだと10年後、20年後も変わらないと危機感を抱いている」
なぜ、この20年間、出産後の女性がパートナーに抱く不満や、「1人で子育てしている感」は変わらずあるのでしょうか。
本田さんは「行政は、地域の児童館や産後うつを防ぐための問診など、支援を拡充してきた。ただ、『よく見せたい』という心理が働き、本音を出せないこともある」と分析します。匿名のコメント欄や、ツイッターなどの会員制交流サイト(SNS)に現れる声にこそ、リアルな不安やSOSがのぞきます。「弱い部分を見せたくないと頑張ってしまう女性が多いと感じる。本音を分析し、支援や教育につなげたい」と言います。
中高生の教育にも生かしてほしい
助産師で防衛医科大教授(母性看護学)の西岡笑子(えみこ)さん(44)は「出産前の両親学級では、沐浴(もくよく)やミルクの飲ませ方などの育児技術を教えるのが一般的で、産後クライシスに踏み込む産院は一部」と指摘します。母子・父子家庭になる割合は、一番下の子どもが2歳未満までが一番高いことが分かっています。今回の分析結果を受け、「ビッグデータとして妻の本音を示し、それを夫に伝えることができれば、その時期までの夫婦の不和を防ぎ、離婚やその後の経済的な困窮を未然に防ぐことにもつながる」と評価します。
指導する看護学生からは、「出産後の女性の心と体について学べたことは、今後の自分の人生にとっても大きい。男女問わず誰もが知っていた方がいい内容だと思う」という意見も出ているそうです。「今後、AIによる解析の精度の向上が期待されるが、これらの結果を、産院でのプログラムや、中高生・大学生への教育にも取り入れていけるとよい」と話しています。
産後ママSOSプロジェクト、始まります!
今回の解析の取り組みは、3月にスタートする「産後ママSOSプロジェクト」に向けた準備の一環です。出産後のママが笑顔になれる社会の実現を目指し、大学・病院・企業・新聞社が協働で、産後女性の課題解決に取り組みます。慶応大SFC研究所の健康情報コンソーシアムが中核となり、医療・保育の従事者、行政、企業が連携し、本紙も特例会員として参画します。1月29日には、プロジェクトのキックオフプレイベントとして、「産後クライシスなう」と題し、オンラインによる講演と座談会が行われました。
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