脳性まひの子への補償金3000万円 昨年までに生まれた500人以上が対象外に 厚労省に救済を求める声
脳性まひ
妊娠から生後4週間までの間に脳が損傷を受けることで生じる運動機能の障害。損傷の原因としては、低酸素や脳血管障害、感染症などが考えられる。重症度によって症状は変わるが、体の反り返りや手足のまひ、てんかん、視覚障害などが現れる。
補償があれば新しい車いす買えたのに
「新しい車いすを買いたいが、高くて踏み切れない」。神奈川県藤沢市の看護師前田哉子(かなこ)さん(45)は、ため息をついた。
次女の中学1年侑南(ゆうな)さん(12)は2009年12月、妊娠37週未満の早産となる30週で生まれ、脳性まひの障害を負った。医師からは脳に酸素が十分に行き渡らず、一部が損傷を受けた可能性を告げられた。
介護などの経済的な負担は重く、小学4年時に買ったオーダーメードの車いすは約40万円。身長は5センチ伸びたが、座面を削るなどして使い続けている。
車いすを乗せられる改造車の購入費は300万円超。自宅へのスロープ設置費や屋内の段差をなくす工事費もかさんだ。医療用ベッドなどを買う必要もあり、「補償があればもっと余裕が生まれるのに」と話す。
産科医不足の改善が制度の狙いだった
制度は脳性まひの子の救済に加え、出産時の医療事故の訴訟リスクを恐れるなどして産科医不足が深刻になった状況を改善する狙いで創設。医師らに過失がなくても重度脳性まひを負った子に20年間で計3000万円を支給する。
現在なら侑南さんも制度が適用される可能性があるが、誕生時は今より要件が厳しかった。早産の脳性まひは補償の対象となる分娩(ぶんべん)時の医療事故などと関係が薄いと考えられ、原則として対象外だった。
当初は制度創設を急ぎ、補償の要件を十分に検討できていなかったため、その後の症例の検証によって「低酸素状態でなくても脳性まひになるケース」など適用する事例を拡大してきた。前田さんら重度の脳性まひ児の保護者らでつくるグループによると、侑南さんのように対象外とされた子は全国に500人以上いるが、厚労省の担当者は「現在の要件を過去にさかのぼってあてはめることは想定されていない」と説明する。
医療過誤に詳しい弁護士法人「ALG&Associates」の高橋旦長(あきなが)弁護士は「『3000万円』は大きく、その有無で家族らの生活に天と地ほどの差が生じる」と強調。「当初の支給要件が間違っていたと、これほど当局が認めるのも珍しい」として、現行制度で救えないなら国会で法整備する必要性を指摘した。
数百万円の特別給付金案が浮上 しかし補償金との差は大きく…
出産に伴い重い脳性まひになった子どもに補償金を支給する制度で、出生時の低酸素状態を確認する個別審査で補償対象外とされた子らの救済策として、数百万円の特別給付金を出す案が浮上していることが、政府関係者への取材で分かった。厚生労働省と制度運営主体の日本医療機能評価機構が検討を進める。
ただ特別給付金と補償金は額に開きがあり、親たちの納得を得られるかどうかは不透明だ。
政府関係者によると、特別給付金の額は、旧優生保護法下で強制不妊手術を受けた被害者へ支給する一時金を参考にした300万円の案と、産科医療補償制度で補償が認められた子に最初に支払われる準備一時金と同額の600万円の案などがある。
制度の認定基準を改定した2015年からは、先天性などを除き「出生体重1400グラム以上で妊娠32週以上」か、「28週以上で個別審査により出生時の低酸素状態が認められること」が補償対象とされた。だが個別審査は専門家から問題点が指摘され、今年の制度改定で廃止。今年以降の出生児は、原則28週以上なら補償対象となる。
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