保育士の育休復帰に高い壁 激務で自分の子育てと両立できない… やむなく退職、人手不足に

藤原啓嗣 (2023年7月19日付 東京新聞朝刊)
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「保育の仕事と子育ての両立は難しい」と子どもを抱きながら語る女性=愛知県内で

育休復帰 悩む保育士(上)

 仕事量の多さや勤務時間の長さから、育休からの復帰をためらう保育士がいる。激務で責任が重すぎるとして、正規職員での復職を諦める人が多いほか、子どもを授かる前に辞める人もいて、保育士不足の一因になっている。国が進める少子化対策に欠かせない人材が、自身の子育てと仕事を両立しにくいという矛盾に苦しんでいる。

仕事の持ち帰り「みんなやっていた」

 愛知県尾張地方の公立保育園で働いていた保育士の女性(31)は昨年、長女を出産し、育休を取得した。長女を別の自治体の保育所に預けて復帰する予定だが、迷い始めている。

 女性はこれまで、1歳児や2歳児クラスの担任を務めた。子どもたちが走るようになったり、2語の文を話すようになったり。成長を間近で見ながらサポートできる喜びを感じてきた。

 園児の興味、関心を育もうと、保育室の壁面に張る掲示物を持ち帰って作り、深夜まで保育計画を考えていたことも。絵本の読みやピアノ、歌の練習、行事の準備…。頑張るほど園児は喜び、やりがいもあって女性は自宅でも仕事を続けた。「保育の質を良くしようとすると限界がない。持ち帰りはだめと主任らに言われたが、みんなやっていた」

 同園では育休後に復帰予定だった別の職員も辞めているという。他の職員の負担に配慮するせいか、短時間勤務で働いている職員もいない。女性は「せっかく子どもに関わる仕事。子育てと両立できるようにしてほしい」と願う。

退職理由は給料、仕事量、労働時間

 東京都の2022年の保育士実態調査によると、保育士が退職したいと考える理由で最も多いのは「給料が安い」(61.6%)で、「仕事量が多い」「労働時間が長い」が続く。これらの理由のほか、2割弱が「子育て・家事」、1割超が「妊娠・出産」を挙げた。

グラフ 保育士退職意向の理由

 退職した保育士が復職する場合の希望条件を、正規職員とした人はわずか19.4%。一方、パートや非常勤を望む人は42.5%で、復職の条件として73.8%の保育士が、1日の勤務時間を重視。30~40代の女性では1日に7~9時間より、5~7時間働きたい人が多かった。

 玉川大の大豆生田啓友教授(保育学)は「子育て中の保育士が、フルタイムで働くのが難しいことが問題。パートタイムでの勤務を望む声も多く、保育士確保の難しさにつながっている」と指摘する。

自分の子どもに手を上げてしまいそう

 愛知県内の別の保育園で働いていた元保育士の女性(38)は、子どもはいなかったが不妊治療中に仕事との両立は厳しいと判断。夫の転勤を理由に退職した。

 当時、自分が休んだ時に担任しているクラスを誰が受け持つのかと考えると、休めなかったという。「子どもができたら仕事と家庭の両方をこなせず、子どもへの言葉が荒くなり、手も上げてしまいそうで…。そんな自分の姿が想像できた」と打ち明ける。

 退職して妊娠し、子どもが保育園に通う今、「保育士ほど子育ての経験をダイレクトに生かせる職業はない。子育てしながら保育できる環境が整えば」と、退職を悔やむ気持ちも募る。

育休後も働き続ける人を増やすには?

 愛知県内の別の保育士の女性(37)は、来年から復帰の予定。その時に少しでも余裕が出るように、育休中の今、自宅で保育室の壁に飾る掲示物を作っている。

 女性は「こういう働き方をせざるを得ない面は改革されないといけないと思う」と疑問を持つものの、「私は育休を取る先輩の姿を見て、取りやすくなった。育休後も働き続ける人を増やすためにも、育休を取った仲間には、園に戻っておいでよと言いたい」。

※(下)は7月24日に公開します。

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  • 保育士はつらいよ says:

    育休復帰を前に悩みながらこのサイトを拝見しました。
    「保育士はシフトを取るのが一番大変な仕事」。うちの園長が言っていました。

    7時半から19時半まで、土曜日も早番遅番勤務、出勤時間もばらばら。

    育休明けはですと子どもの保育料も0.1.2は高く、何の為に働いているのかわからなくなります。保育料が高い事は保育士に限った事ではないですが…。時短勤務にしたくても給料や評価に影響があるので簡単に決断できません。

    安心して子どもを育てながら無理のない時間で働けたら心も身体も健康でいられるのになと思います。勤務中はずっと気を張って子ども達の見守りをしています。行事前は特に忙しく残業、持ち帰り、家庭に帰っても仕事の事が頭から離れません。

    責任の重い仕事をしているのに待遇は大幅に改善されたとまだ言えません。もっと働く環境として他業種とは差別化をして整えていかなければ離職率は高いままだと思います。

    子ども達の命を預かる仕事をしているのに社会的な地位はまだまだ低い。子育てしながら復帰するには厳しい職場。保育士として自己研鑽する時間も欲しいのに研修や勉強、自分を見つめ直す時間もなく、毎日園に行くのが精いっぱいでゆとりのない生活がまた始まるのか…と思うとうんざりです。

    保育士はつらいよ 女性 30代
  • 匿名 says:

    何で、保育園は何でもかんでも引き受けなければならないのか。小学校だったら授業後に放課後保育やナイトスクールがあるのに、保育園は早朝から延長まで全てをまかなっている。おかしいのでは?

    保育園だって保育時間をもっと短くして、保育後は保育後託児室とか、ナイトナーサリースクールとでも名うって別の団体として預かればいいのに。

    職員の事務仕事だって出席簿なんて事務職の人を雇ってやってもらったり、作り物だってそれ専門の人を雇ってもらったり作るものを減らしたり、掃除は園外の業者に頼んでしてもらえばいいんだし。

    保育士の働き方改革が進んでほしいと思う。保育士だって職業の一つだし、働いている多くの人は、働く親だということを忘れないで欲しい。

     女性 40代
  • めむぎゅう says:

    息子の保育園では、育休明け復帰された先生はご自分のお子さんを園内に預けている方が多いです。

    長男を預けはじめて5年たちましたが産休以外の先生の入れ替わりはとても少ないです。担任の先生がお子さんの体調不良でお休みで他の先生だったという話もよく聞きます。

    先生の数は基準の倍程度いるみたいです。イベントも掲示物も他の園より非常に少ないと感じます。

    息子は毎日思う存分走り回り、時々擦り傷を作り、時々イタズラして怒られて、とても楽しく園に通っています。親として不満は一切ありません。本当にありがたいです。先生方も他に預けている親と同じように自分の生活を大切にしつつ仕事を続けれるようにしてほしいです。

    保育料無償化はありがたいですが、お給料に反映していただけるのであれば喜んで保育料を払いたいです。

    めむぎゅう 女性 30代
  • m says:

    現役保育士です。持ち帰り仕事は今の時代なくなってきていますが、保育園の開園時間が長くなり、子どものいない職員が時短や固定勤務の職員のカバーをするのがきつい。だから子どもが3歳超えたらパートを選択するしかなくなる。業務は、ほぼ一緒だが…
     
    福祉は相変わらず尽くす精神で、福祉をしている人へのサポートは少ないですよね。

    異次元の少子化対策も、大事ですが、国家資格者として、給与面だけでない保育士の地位向上をしていただきたい。

    m 無回答
  • はる says:

    2歳の子どもを育児中の保育士です。東京ではありませんが、早生まれの為1歳児の時に預けて復帰しました。

    3歳まで時短勤務で働ける環境ではありますが、やはり正職はシフト勤務の仕事です。復帰後1年間は土曜日はシフト勤務で早出、遅出もあり平日は9時から5時の勤務でした。

    が、やはり子どもの発熱であったり主人も土曜日に働いて居ますので中々大変で今年度は土曜日なしの勤務でとお願いしたところ(園独自に園長が作成した時短勤務の就業規則には土曜日なしも可能)「は?無理です。」と言われました。でも選択肢の中に含まれている条件の勤務ですよね?とお伝えしたところ、「他の職員も内心は迷惑と思っている。この状況で土曜日なしの勤務は無理とわかりませんか?考えたらわかりますよね。あり得ない。」とのことで…

    最終的には気に入らないなら辞めてもらっても結構です。時短勤務はシフトに戻る為のもので、シフトに戻れないならまず時短勤務、図々しいですとまで言われました。

    何とか3歳まで時短勤務で勤務していますが今年度で退職予定です。同じ子どもを預かり保育する現場ですが、子育て世帯にはとても厳しい世界。パワハラなんてきっと常習。皆泣き寝入りしているんだろうなと感じさせられた日々です。

    15年以上働いてきましたが国から余分な保育士を確保できる補助金など色々対策していただければ、子育てしながら保育の仕事を継続することが出来たり、結果保育士不足も解消出来るのではないかなと思ったりします。

    育児だけではなく、多く余裕を持って保育士を各園に確保することで他の先生方の有休消化や土曜日勤務の回数、完全週休2日など若い方たちも働きやすい環境になるのでは?と感じています。

    世の中では様々な職種で育児しながら、介護しながら働きやすい環境を整えようとしている風が吹いているように感じますが、肝心の保育施設ではまだまだ改善されていません。このままでしたらどんどん若い世代も離職せざるを得ないですよね…。目先ではない対策をして頂きたいなと心から思います。

    はる 女性 30代

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