乳児院の役割とは? 一時保護、虐待予防、里親委託…子育て支援拠点として多機能化 入所児は病気や障害のある子が増加

(2023年7月24日付 東京新聞朝刊)
写真

スタッフに見守られながら、乳児用スペースで過ごす入所児=東京都新宿区の二葉乳児院で(川上智世撮影)

【ニュースがわかるAtoZ】事情があって家庭で育てられない乳幼児を預かり、専門的なスタッフが育てる乳児院の役割が広がっています。近年は、地域の子育て支援や虐待の予防的支援、里親への橋渡しも担うようになってきています。一方で、入所児のうち病気や障害のある子が半数近くに達し、特性に応じた養育や里親とのマッチングの重要性が増しています。乳児院の今を探りました。

入所理由は? 虐待が急増、ほぼ5割に

表 乳児院の新規入所理由の変遷

0歳~就学前の子どもが職員と生活

 乳児院は児童福祉法37条に基づく入所型の児童福祉施設です。0歳から就学前の子どもが、保育士や看護師のほか、児童指導員、心理士、栄養士など専門的なスキルを有する職員のもとで生活を送ります。小学生以上になると、原則として児童養護施設に移管されます。

 施設数は1998年に114まで減った後は年を追うごとに増え、今年6月末時点では147まで増加しました。入所児数は2000年代に3000人を超えたのをピークに、2020年以降は2500人を切っています。

グラフ 乳児院の施設数と入所児数の推移

 入所児数が減少傾向なのに施設数が増えている背景には、2016年の児福法改正で家庭と同様の環境での養育の推進がうたわれ、施設の小規模化が進んだことがあります。また、東京23区では自治体が乳児院の整備を後押ししており、今後も施設数の増加が見込まれています。

写真

乳児が生活するスペース

かつては家族の病気や経済的な事情

 子どもたちの入所理由は時代とともに変化しています。

 乳児院は、戦後、戦災孤児や発育不良の子どもを保護する目的で設置されました。1980年代までは、主に家族の病気や経済的な事情で一緒に暮らせない乳幼児とその家族を支えてきましたが、徐々に虐待が顕在化。すべての乳児院が加入する全国乳児福祉協議会(全乳協、東京)の平田ルリ子会長は「1990年代後半には父母の健康状態に代わり、虐待が入所理由の1位になりました。割合は増え続け、2021年度には5割近くに達しています」と話します。

写真

全国乳児福祉協議会の平田ルリ子会長

退所理由も変化し、家庭復帰は減少

 退所理由の推移をみると、1990年代まで6割以上だった「親元・親族引き取り」の割合が、2000年代に入ると5割台に低下。2021年度には38.1%まで下がりました。

 東京都新宿区の二葉乳児院の都留和光院長(60)は「親の病気が入所理由であれば、状況が改善すれば家庭に帰れます。ですが、虐待や子の病気、発達特性による育てにくさが原因の場合は、家庭復帰が難しかったり時間がかかったりするケースが少なくありません」と明かします。

グラフ 乳児院の対処理由の推移

広がる役割 一時保護、支援、相談も

図解 乳児院の進む多機能化 一時保護委託の受け入れ、市区町村と連携した支援、里親支援

2016年の児福法改正で「多機能化」

 児童虐待対策の強化を目的とした2016年の児童福祉法改正では、家庭的な養育の推進に加え、乳児院の多機能化をもう1つの柱として掲げました。(1)一時保護の受け入れ態勢の整備(2)市区町村と連携した支援の強化(3)養子縁組を含む里親支援機能の充実-が進められました。

 18歳未満の子どもを対象とする児童相談所の一時保護は、乳児への対応ができない場合が多いのが現状です。そうした際は乳児院が児相から一時保護委託を受け、アセスメント(状況の評価)も含めて実質的な一時保護機能を担います。虐待に対する社会の意識の高まりを受け、対応件数も増加の一途です。2021年度に全国の乳児院で受け入れた一時保護委託は3022件で、1施設当たり20.8件に上ります。

写真

二葉乳児院の都留和光院長

 東京都内の一時保護委託による新規入所児数は、2002年度は年間9人(1施設当たり2.25人)でしたが、2016年度には121人(1施設当たり12.1人)、2021年度には242人(1施設当たり22.0人)にまで増えました。都留院長は「保護者の同意を得ないまま行う緊急保護も近年増えています。2歳未満の子には夜中でも乳児院が対応し、児相とともに家庭復帰を探ります」と説明します。

虐待予防は自治体との連携が重要

 虐待の予防的支援として、市区町村と連携した支援もより重要になっています。子育て広場など親子の遊び場の提供のほか、子育て相談や家庭訪問型子育て支援などの相談業務、一時保育やショートステイなど保護者のレスパイト(ひと休み)支援などを展開し、地域に開かれた施設を目指しています。産前産後の子育て支援者の養成を行う乳児院も増えています。

写真

二葉乳児院・地域子育て支援センター二葉で行われた、家庭訪問型子育て支援のボランティア養成講座

 一時保育やショートステイの利用者の中には「実は乳児院の入所措置を取ることになってもおかしくないような厳しい状況の人も多いんです」と都留院長。乳児院の意義について「子育て広場の利用などで日頃から足を運んでもらうことで、より深刻な状況になった時に頼りやすくなるはず」と強調します。

写真

地域の乳幼児親子が利用できる二葉乳児院・地域子育て支援センター二葉=東京都新宿区で

入所児は 病児や障害児がほぼ半数に

棒グラフ・乳児院の入所児の心身の状況の推移/円グラフ・乳児院の2021年度入所児の内訳

“育てにくい子”を専門家のスキルで

 乳児院を巡る変化として特に目立つのは、病気や障害のある子の占める割合の増加です。1980年代には1割に満たなかった「病虚弱児・障害児」の割合が年々増加し、2018年度は51.6%に達しました。

 小児科専門医でもある大阪乳児院の大和(おおわ)謙二前院長(67)は「病気や身体障害の子に加え、発達障害や自閉傾向のある子などいわゆる『親にとって育てにくい子』の預け入れが15~20年ほど前から増えています」と話します。子どもの行動を「理解できない」「対応できない」「家庭に余裕がない」などの事情から虐待に発展し、乳児院による保護につながっています。

写真

ダウン症のある入所児。専門的なスキルを持つスタッフによる手厚い支援を受け、外部の療育支援も受けながら育つ

 大和前院長は「発達に特性のある子は、乳児院で専門的なスキルを持つ経験豊かなスタッフが養育することで、できることが増え、家庭復帰や里親委託のハードルが下がります」と指摘。食べ物にこだわりがあって食事が進まなかったり、対人関係を築くのが難しかったりする子も「そうした子を繰り返し育ててきたスタッフが見通しと余裕を持ってチームで育てることで、家庭で育てるよりも発達が促される面があります」といいます。

里親に丁寧なマッチングとフォローを

 退所理由として15年ほど前まで10%前後だった「里親委託・養子縁組」の割合は、2021年度には25.9%まで上昇。一方で、こうした子を引き受ける里親の中には関係性がうまく築けなかったり、適切な養育ができなかったりするケースもあります。全乳協の平田会長は「里親に託す際には、丁寧で無理のないマッチングとその後のフォローがとても重要です」と訴えます。

 二葉乳児院の都留院長は「健康な子や比較的養育に負担のない子を里親に託し、よりこまやかな支援が必要な子は乳児院でチームで育てる、という役割分担も必要」と話しています。

写真

地域子育て支援センター二葉の掲示物

17

なるほど!

4

グッときた

4

もやもや...

10

もっと
知りたい

すくすくボイス

  • おっちゃま says:

    私は現在乳児院の洗濯業務をしております。

    毎日乳幼児が入れ替わりしてます。全く資料のとおりです。2、3歳になると里子里親希望も減りそのまま孤児院へ入所していきます。資格が無いため直接お世話はしませんが何か出来ないかと感じております。

    社会的養護になる親のサポートをしたいと思います。どんな民間資格が必要なんでしょうか? 先ずはこれではないのかと感じております。拙い内容ですが是非ともお手伝いをさせて下さい。宜しくお願い致します。

    おっちゃま 女性 60代

この記事の感想をお聞かせください

/1000文字まで

編集チームがチェックの上で公開します。内容によっては非公開としたり、一部を削除したり、明らかな誤字等を修正させていただくことがあります。
投稿内容は、東京すくすくや東京新聞など、中日新聞社の運営・発行する媒体で掲載させていただく場合があります。

あなたへのおすすめ

PageTopへ