鈴木おさむさんインタビュー【後編】育休で変わった夫婦関係と仕事 何かを諦め、何かを発見する

 子どもが生まれてからも夫婦の関係を大切にしているという放送作家・鈴木おさむさん(46)へのインタビュー、後編です。1年間の育休を取ったからこそ築けた妻の大島美幸さん(38)や息子(3つ)との関係について聞きました。(前編はこちら

息子にとって妻がベッドなら、僕はソファ

-実際に育休を取って、いかがでしたか?

 妻と向き合える時間が増えたのがうれしかったです。2002年に結婚したので結婚期間は長かったのですが、お互いに仕事重視の生活でした。一緒にいる時間はあまり多くはなかったんです。子どもが生まれてからの食事にしても、(仕事がある場合は)朝ごはんを一緒に食べることはできても、夕ごはんを一緒に食べることまではなかなかできない。それが普通の生活ですよね。育休を取ったおかげで、2人で話す時間も増えたし、一日何回もごはんを一緒に食べられた。これってすごいことですよね。

-仕事に対するスタンスは変わりましたか?

 諦めることができるようになりました。これは妻もすごく経験してるだろうけど。育休から仕事に復帰したての頃は、妻も仕事が大変な時で夫婦の争いが起こりがちでした。そこで話し合うことも覚えました。仕事のスケジュールの調整の仕方や、仕事に対する諦め。夫婦ともに変わりましたね。

 仕事だけじゃなくて、何かについて諦めていくことが大事だと思いますね。例えば映画を見るとか、遊びに行くとかも子どもが生まれる前のようにはできなくなるじゃないですか。だから諦めていくことも大事だけど、諦めた代わりに何かを発見していくのがすごく大事なのかなって思います。

-息子さんとの絆はできましたか?

 それはもう確実に太い絆ができたと思いますよ。ずっと肌を触れあわせて過ごしたので、0歳から1歳の間に、息子が僕の体になじんでいるというのは大きいと思います。母親の体には自然になじむじゃないですか。息子にとって、お母さんの体がベッドなら、僕の体はソファぐらいの感じですね。安心して休める、もう一つの場所になれています。

 僕は放送作家の仕事をしているので、子どもの誕生や育児といった状況を楽しもう、勉強しよう、吸収しようという気持ちは強いです。子どもといると、子ども目線で世の中を見られます。僕は20代じゃなくて45歳をすぎてますから、この年になって、そういう目線が持てるのは非常に楽しいんですよね。

もし育休を取っていなかったら?

-もし育休を取らなかったとしたら、何か違っていましたか?

 夫婦の関係です。妻の僕に対する気持ちというのが全然違ったでしょうね。僕は「育児をシェアする人」ではなく、「仕事をする人」だと思われていたはずです。息子との距離が今みたいに近くなかったでしょうし、例えば息子を連れて映画を見に行くことにチャレンジするっていうようなことを、僕自身が絶対に思わないでしょうから。

 3歳の息子は恐竜が好きです。今年の夏も、テレビでやっていた映画「ジュラシック・ワールド」を家で見せて、「映画館で新しいのをやってるんだよ、行ってみる?」って聞くと、見たいって言うんですよ。だけど、息子が映画館で見たことのある映画は「きかんしゃトーマス」だけ。あれだけ恐竜が出てくる映画を、人生で2回目の映画で見せに行って泣かないのかどうなのかって考えました。

 ブログでそれを聞いてみたら、「行ってみたらどうでしょう」って言う人と反対する人と真っ二つに割れました。泣いたら迷惑じゃないかっていうことも含めて。ジュラシック・ワールド(の続編)っていう映画のチョイスとか、かなり実験だと思うところもあったのですが、でもそういうチャレンジを「ちょっとやってみよう!」と思って実行します。子どもと一緒にチャレンジするって、賭けじゃないですか。もし途中で泣きわめいたら、と考えると怖いですし。実際に、映画館で泣きわめいてる子もいたんですよ。そういうチャレンジを自分自身で楽しめる。育休を取っていなかったら、こうはなっていなかったと思いますね。

-実際、映画に連れて行ってどうでしたか?

 よかった、と、やはり大変だった、の両方あったんですよ。というのは、2時間ちょっとの映画中、息子はずっと座って見ていられたんですが、映画館を出た瞬間に泣いたんです。「声が大きい~、怖い~!」って。「でも面白かっただろ?」って聞いたら「面白かった」と。泣いたけれど、その日の夕方からすごく恐竜のことをしゃべるようになったんですよ。僕にとってのギャンブルでもあったし、成長でもあったんです。ずっと膝に乗って映画を見ていた息子と2人でそれを乗り越えた感ていうのは大きいんですよね。

 子どもとよく遊んでる、と妻もきっと思っていると思います。映画も海もアスレチックも、妻はあまり好きではない。妻が仕事の時に、妻が好きではないけれど、子どもが体験したら面白そうだってことを僕が一緒にやるようにしています。それも僕はシェアだと思っています。僕がやらなかったら、うちの子どもはそれを経験してない子どもになってしまうので、子どもの世界を広げることも意識しています。やっぱり、うちの奥さんがやってないことを僕は見せてあげようと思っています。

-著書では、「2人目」についても触れています。

 僕は2人目の子どもについては、現実的に考えた方がいいと思ってる。奥さんが今から38歳で妊娠します、となると、例えば年齢的に流産の確率も高くなるし、2人目がなかなかできない可能性もあります。だから、2人目を望んだ上での悲しみがくるかもしれない、ということも考えた方がいいし、そのことで傷つくことが夫婦や今いる1人目の子どもに対しても影響があるなら、それはどこかで線を引かなきゃなと思ったりします。

 2人目が生まれた時の妻の仕事の問題もあります。小さい子を育てるという意味では、もう1回振り出しに戻るわけです。2人目が生まれて、子どもの状況によっては、仕事を引退する覚悟があるのかとか。息子にきょうだいをつくってあげたいと思う気持ちもありますが、僕が現実的に考えて、冷静にジャッジをしていかないといけないな、と今すごく感じています。

-これから息子さんが4歳、5歳、6歳と育っていくにつれて、ご夫婦の仕事の仕方はどうしていこうと思っていますか?

 妻はやっぱり子どもが最優先で仕事をしているので、多分このままいくと思います。僕も、これからのテレビ論を考えながら、自分の仕事の仕方を変えるチャンスかもしれません。

 (撮影・北田美和子)

【前編】愛する順番は「妻が一番、息子が二番」最後は夫婦の人生だから

◇鈴木おさむさんの著書『ママにはなれないパパ』 マガジンハウスの紹介ページはこちら

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