「モバイル妊婦健診」が守る山間地の出産 診療所と遠隔診療車をオンラインでつなぎ、医師・助産師不足をカバー - 東京すくすく | 子どもとの日々を支える ― 東京新聞

「モバイル妊婦健診」が守る山間地の出産 診療所と遠隔診療車をオンラインでつなぎ、医師・助産師不足をカバー

稲熊美樹 (2024年12月3日付 東京新聞朝刊)
写真

モバイルエコーなどを搭載した遠隔診療車=いずれも長野県伊那市で

 産科医療の維持が課題となっている長野県伊那市。産科医、助産師不足を補おうと、市内で唯一、分娩(ぶんべん)を扱う産婦人科診療所とオンラインでつないだ遠隔診療車で、2022年度から妊婦健診が受けられるようになった。2年半がたち、来年度には健診専用車の導入も決定。妊婦が移動せずに済む一方で、効率よく診療を進めるには課題も残る。

技師が現地に、助産師らはオンラインで

 「赤ちゃん、元気に動いてますよ。胎動もよく感じるんじゃないですか?」。11月半ば、同市内に住む妊婦(24)の自宅駐車場に止められたワンボックスカーの中で、モバイル妊婦健診が始まった。

 菜の花マタニティクリニックの臨床検査技師が、妊婦の腹部に遠隔超音波測定機器(モバイルエコー)の器具を当てる。この超音波検査のほか、尿検査や体重・血圧測定、むくみの確認も。オンライン会議システムでつないだ先のクリニックでは、助産師が赤ちゃんの推定体重や羊水量を確認、電子カルテに記入した。

 この日は助産師が乳房の手入れ方法などを指導。ただ、「乳房の状態を見せてもらうのは難しい」。こうした遠隔ならではの苦労もあり、次の健診で対応するという。傍らに付き添った夫(29)には助産師から育児への協力も直接、伝えた。

 胎児が動く様子を初めて目にした夫は、「動いているのを実際に見て、実感がわいてきました」と喜んだ。コロナ禍以降、同クリニックでは出産時の立ち会い以外は家族の同伴が禁止されている。一方、診療車の中であれば同伴可能。モバイル健診が支持される理由の一つになっている。

写真

車内を暗くして腹部の超音波検査をする臨床検査技師(手前)。夫も同伴できる

 この車は、市が20年6月から運行する「モバイルクリニック」。内科と薬局のオンライン診療から始め、22年度から妊婦健診にも広げた。菜の花クリニックによると、診療車は全国15都市で導入されているが、産科利用は全国初だという。

移動にかかる時間、通信設備などが課題

 23年度にはモバイル分娩監視装置も搭載し利用者が増加。同年度は81件の健診に使われた。移動にも時間がかかるため、最大でも1日3件が限度。内科と健診を日によって分けて対応してきたが健診希望者を受け入れきれず、市は25年度、国の交付金を活用して「妊婦健診専用車」を導入する。

 健診で利用できるのは安定期に入る妊娠22週以降で、最大5回程度。体調を踏まえて医師が判断する。同クリニックは合併症や妊娠の経過に異常がない低リスクの妊婦を受け入れており、多くの妊婦が該当するという。2回続けて遠隔で利用することは想定しておらず、少なくとも2回に1回はクリニックで受診。産後の健診でも利用できる。

 課題もある。同クリニックの鈴木昭久院長は「行政にはクリニックでの診療と同じように、ストレスなく診察できる体制を整えてほしい」と要望する。山間地域ゆえの不安定なネットワークや機器トラブルがあり、そのリスクが常に付きまとう。外来診療と並行して対応するため、助産師がいつ遠隔指導できるかが読めないのも難点。「まだまだ採算がとれるレベルではない」ときっぱり言う。胎児エコーの技術がある臨床検査技師の確保もクリニック側がやらねばならない。

 「リスクの低い妊婦さんはここで引き受ける。高度な医療機関ではその役割に集中してもらいたい」と鈴木院長。行政に働きかけ、定期的な会議で解決策を模索している。

0

なるほど!

0

グッときた

0

もやもや...

1

もっと
知りたい

すくすくボイス

この記事の感想をお聞かせください

/1000文字まで

編集チームがチェックの上で公開します。内容によっては非公開としたり、一部を削除したり、明らかな誤字等を修正させていただくことがあります。
投稿内容は、東京すくすくや東京新聞など、中日新聞社の運営・発行する媒体で掲載させていただく場合があります。

あなたへのおすすめ

PageTopへ