私も重いつわりに苦しんだから 自宅で点滴を 川崎市の「あゆむ庵」 助産師や理学療法士らが育児をサポート

北條香子 (2025年1月20日付 東京新聞朝刊)
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木村里美さん=川崎市中原区で

 「0歳から100歳の方が集う家」をコンセプトに地域密着の医療と産前産後ケアを掲げるコミュニティースペース「あゆむ庵(あん)」が川崎市中原区にある。運営する同市高津区の株式会社「こころ」代表で看護師の木村里美さんは、2021年に立ち上げた「あゆむ訪問看護チーム」で、中原、高津両区を中心に、新生児から高齢者まで、家族に寄り添ったサポートを目指す。中でも重症妊娠悪阻(おそ)の妊婦に、主治医の指示で自宅で点滴を施す取り組みは、妊娠中、重いつわりに苦しんだ自身の経験がもとになっている。

訪問看護でつわり点滴が広がる

 「最初は産婦人科の医療者にも、訪問看護でつわりの点滴ができると知られていなかった」と振り返る。しかし、心身が不安定な妊娠初期に、毎日通院したり入院したりすることなく、自宅で落ち着いて過ごせると好評になり、今では全国に同様の取り組みが広がりつつあるという。

 青森県出身。上京当初は無資格の看護助手として働きながら看護学校に通った。総合病院の産婦人科病棟などで看護師の経験を積んだが、「お産が多く、産後うつなど心配な状況のお母さんがいても、退院後、地域にどうつなげばいいか分からなかった」。

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 幼いわが子を抱えて夜勤に入ることが難しくなり、退職。訪問看護事業所で働く中で、保険適用で自宅で点滴できることが分かり、周産期ケアに注力した訪問看護チームを自ら開業した。当初はコロナ禍で依頼も少なかったが、古巣の関東労災病院(中原区)と連携したり、SNSでの発信に力を入れたりして軌道に乗せた。

医療機関に限られる産後ケアを

 「訪問看護だけでなく、その先もやりたい」との思いからJR南武線・武蔵新城駅からほど近い住宅街で、2024年5月にコミュニティースペース「あゆむ庵」を開いた。開設したのは、広い縁側と日当たりの良い和室の温かな築67年の木造住宅。有料の休憩スペースとして親子らに提供したり、スタッフによる育児支援講座を開催したり。「たまらなく好き」と一目ぼれした古民家を多世代が集う空間に育てようとしている。

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外観(あゆむ庵提供)

 同年7月に開いた夏祭りには、約300人が訪れた。訪問看護でみとった元利用者の家族が近況報告に来るなど、関係が続く場にもなっている。今後は市の委託を受け、産後ケア事業の実施を目指す。現在、市の宿泊型・日帰り型の産後ケア事業施設は医療機関や助産院に限られるが、参入に向けて同年12月、1650筆の署名を市に提出した。

 看護師、助産師だけでなく、作業療法士や理学療法士らも含めて、育児相談に応じられるのが、あゆむ庵の強みだ。「どの局面でもサポートできる。必要に応じて医療や行政の支援につなぐ地域のハブになれたら」と力を込めた。

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交流するママとスタッフたち(あゆむ庵提供)

産後ケア事業

 助産師や看護師、保健師が、産後の母親の心身のケアや休息支援、授乳指導などを行い、安心して子育てできるよう支援する。2021年度に産後ケア事業の実施が市町村の努力義務とされた。国のガイドラインでは、産後1年以内の母親が対象とされ、実施場所は病院や診療所、助産所のほか「居室やカウンセリング室、乳児の保育室などの設備を備える施設」と規定されている。

元記事:東京新聞デジタル 2025年1月20日

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