私も重いつわりに苦しんだから 自宅で点滴を 川崎市の「あゆむ庵」 助産師や理学療法士らが育児をサポート

木村里美さん=川崎市中原区で
訪問看護でつわり点滴が広がる
「最初は産婦人科の医療者にも、訪問看護でつわりの点滴ができると知られていなかった」と振り返る。しかし、心身が不安定な妊娠初期に、毎日通院したり入院したりすることなく、自宅で落ち着いて過ごせると好評になり、今では全国に同様の取り組みが広がりつつあるという。
青森県出身。上京当初は無資格の看護助手として働きながら看護学校に通った。総合病院の産婦人科病棟などで看護師の経験を積んだが、「お産が多く、産後うつなど心配な状況のお母さんがいても、退院後、地域にどうつなげばいいか分からなかった」。
幼いわが子を抱えて夜勤に入ることが難しくなり、退職。訪問看護事業所で働く中で、保険適用で自宅で点滴できることが分かり、周産期ケアに注力した訪問看護チームを自ら開業した。当初はコロナ禍で依頼も少なかったが、古巣の関東労災病院(中原区)と連携したり、SNSでの発信に力を入れたりして軌道に乗せた。
医療機関に限られる産後ケアを
「訪問看護だけでなく、その先もやりたい」との思いからJR南武線・武蔵新城駅からほど近い住宅街で、2024年5月にコミュニティースペース「あゆむ庵」を開いた。開設したのは、広い縁側と日当たりの良い和室の温かな築67年の木造住宅。有料の休憩スペースとして親子らに提供したり、スタッフによる育児支援講座を開催したり。「たまらなく好き」と一目ぼれした古民家を多世代が集う空間に育てようとしている。

外観(あゆむ庵提供)
同年7月に開いた夏祭りには、約300人が訪れた。訪問看護でみとった元利用者の家族が近況報告に来るなど、関係が続く場にもなっている。今後は市の委託を受け、産後ケア事業の実施を目指す。現在、市の宿泊型・日帰り型の産後ケア事業施設は医療機関や助産院に限られるが、参入に向けて同年12月、1650筆の署名を市に提出した。
看護師、助産師だけでなく、作業療法士や理学療法士らも含めて、育児相談に応じられるのが、あゆむ庵の強みだ。「どの局面でもサポートできる。必要に応じて医療や行政の支援につなぐ地域のハブになれたら」と力を込めた。

交流するママとスタッフたち(あゆむ庵提供)
産後ケア事業
助産師や看護師、保健師が、産後の母親の心身のケアや休息支援、授乳指導などを行い、安心して子育てできるよう支援する。2021年度に産後ケア事業の実施が市町村の努力義務とされた。国のガイドラインでは、産後1年以内の母親が対象とされ、実施場所は病院や診療所、助産所のほか「居室やカウンセリング室、乳児の保育室などの設備を備える施設」と規定されている。
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