体育座りは体に良くない? 専門家が指摘「内臓を圧迫、腰にも負担」 別の座り方も考えよう

 体育の授業や全校集会、式典など学校でおなじみの「体育座り」。地域によっては「体操座り」「三角座り」などとも言われます。場所を取らない、手の位置が安定するなどの利点がありますが、子どもたちに聞くと「おしりや腰が痛い」「窮屈だ」との声も。また、体育座りが苦手な子が他の座り方をしていると「無作法だ」「反抗的だ」と決めつけられてしまうという話も聞きます。あたりまえに行われている「体育座り」について考えました。

お尻が痛いのに…「集団行動」として広まった

 「ずっと体育座りをしていてお尻が痛かった」。東京都内の小学5年生の女子は昨秋の運動会の後、母親にこう訴えました。例年は椅子に座っていますが、本年度は他校のグラウンドを借りたため、長時間地面に座らなくてはならなかったのです。

 「『体育座り』は1965(昭和40)年に文部省(現・文部科学省)が学習指導要領の補足として発行した『集団行動指導の手びき』で『腰をおろして休む姿勢』として紹介され、全国に広まったようです」と話すのは、日本身体文化研究所代表で武蔵野美術大講師の矢田部英正さんです。

 学校では、体育の授業だと数分、全校集会などでは数十分から1時間近く座っていなくてはなりませんが、子どもたちの姿勢が持続するのは5、6分。それ以降はもぞもぞ動いたり、座り方を変えたりする子もいるようです。

膝を抱え込む座り方は、座骨への刺激もある 

 矢田部さんは「膝を抱え込む座り方は、内臓が圧迫され、座骨への刺激もあります」と指摘。集団行動の手引には体育座りの状態で背筋を伸ばす、と書かれていますが、「腰への負担も心配」と話します。長時間座らなくてはいけない時や、体の大きな子にとっては、体育座りは負担の多い姿勢のようです。また、海外ではほとんど見聞きしたことがないそうです。

体育座りの体への負担を指摘する矢田部英正さん

 集団行動の手引の留意事項には「集団行動の様式だけを取り上げて形式的に指導したり、必要のない場面で画一的な行動様式を強要することは決して望ましいものではない」とあり、文部科学省も「体育の授業などでの座り方として、体育座りが絶対ではない」としています。にもかかわらず、なぜ長年「体育座り」が主流になっているのでしょうか。

「○○学校スタンダード」マニュアル化が加速

 東京大学教育学部付属中等教育学校で保健体育を教える浅川俊彦教諭は昨年10月、矢田部さんを招いて、体育座りについて考えるイベントを開きました。浅川さんは子どもたちの体の自由度を考え、体育座りをさせていません。「子どもたち自身が心地よく、集中できる座り方を考え、選べるのが望ましい。でも、教育現場でいったん『標準』として導入されると教員は思考停止し、子どもたちにとってより良い方法は何かを考えなくなってしまう」と話します。特に近年は、各校で「〇〇学校スタンダード」などと、指導内容をマニュアル化する動きが加速していて、それぞれの教師や学校が工夫をする余地が少なくなっていることも、「体育座り」のように長年続いてきた方法が見直されない背景にあると感じています。

 矢田部さんも、「一つの座り方が標準とされることで、体にとってより良い座り方が禁止されてしまうことは問題。実際に子どもたちの身体への負荷がどうなのかを考え、現場レベルで柔軟に対応していくことが重要では」とアドバイスしています。

体育座りに代わるオススメの座り方は?

 では、体育座り以外にはどのような座り方があるのでしょうか。

 矢田部さんは室町時代の絵巻物で昔の日本人がどのような座り方をしていたかを調べたことがあります。「意外かもしれませんが、昔は『体育座り』はもちろん、『正座』でさえほとんど行われていなかったのです。代わりに行われていたのは胡座(あぐら)の足先を床に着けて座る『安座(あんざ)』や安座の片方の足を立てて抱える『楽立膝(らくたてひざ)』です。これらは長時間座るのにも適しています」

 実際に座ってみると、おなかが窮屈な感じはなく、背筋も伸ばしやすく感じました。室町~江戸初期の茶道の場では立て膝が正式な座り方とされ、また、ヨガや座禅の場で長時間、胡座で座ることなどからも、それが裏付けられているかもしれません。

 一方、家庭などでは椅子に座ることがほとんどのため、最近の子どもたちは下半身の関節が硬くなっており、床に座ることに困難を感じる場面も多いといいます。関節を柔らかくするには足のマッサージや、日ごろから畳やフローリングに座る時間をつくってみるとよいそうです。脛の内側を親指で押さえながら足首を回すマッサージを教わったので、行ってから正座をしてみると、マッサージをする前に比べて足首の硬さが取れ、苦手な正座も楽にできると感じました。

 「関節が柔らかくなると、地面からの衝撃を吸収し、けがが少なくなるなどいいことずくめ。幼少期に体が楽で集中していられる座り方を手に入れることは、大人になってからも様々な場面で役立ち、人生の大きな財産になるでしょう」と矢田部さんは話しています。

矢田部英正(やたべ・ひでまさ)

 1967年生まれ。日本身体文化研究所主宰。武蔵野美術大学講師。学生時代、体操でオリンピックを目指していた頃、身体のバランスを整えることで競技力が向上したりけがが少なくなるなどの経験をし、身体文化の研究者となる。著書に「からだのメソッド」(ちくま文庫)、「たたずまいの美学」(中公文庫)、「坐の文明論」(晶文社)など。

コメント

  • 私も体育座りで、おしりやこしがとても痛い時があったし、長時間座ったらビリビリした時がありました。(涙)
    女子 女性 10代 
  • 記事の公開から5年が経ち、体育座りは衰退したのでしょうか?
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