PTAは「人権問題の警報が鳴りっぱなし」 自称”改革の負け組” 川端裕人さんに聞く現在地

(2019年10月11日付 東京新聞朝刊に加筆)

考えようPTA

〈インタビュー編・中〉
 PTA改革に取り組みながら、道半ばで挫折する人も少なくありません。2007年から2年間、東京都内の小学校でPTA副会長を務めた小説家の川端裕人さん(55)も、自ら「負け組」と認める一人です。2008年刊行の著書「PTA再活用論」(中公新書ラクレ)で活動の負担や問題点を訴えた川端さんに、改革に失敗した理由や、当時からの変化とPTA問題の現在地を聞きました。
写真

この10年のPTAの変化について振り返る川端裕人さん

良心を放棄しないとやり過ごせないような現場

 ―改革に失敗したのは、なぜなのでしょうか。

 周囲を納得させられませんでした。「入退会は自由だ」と僕が言っても、役員ですら「聞いたことがない」という人ばかりで、説明しても「そんなはずはない」「そうは言っても現実は違う」と言われるような状況でした。「そんなに不満なら、転校する手もある」という提案も受けました。

 委員のなり手がいなくて強引に決めざるを得ない状況を止めようにも、かつてその「被害」に遭った人たちが今度は「加害」に回ります。人の嫌な面をたくさん見たし、自分自身も嫌な面を見せたと思います。良心を放棄しないとやり過ごせないような現場で、精神的にもつらかったですね。「苦労したけれど、いい経験だった」とポジティブにはとても振り返れません。だから、「負け組」と言っています。PTAで良い体験を一切できなかったという意味で。

写真

川端裕人さんの著書「PTA再活用論」

「入退会自由」整えても、差別や排除は絶えず

 ―この10年で何が変わりましたか。

 一番は、当時は認識すらされていなかった「任意加入」の原則、つまりPTAは入退会が自由だということが広く知られたことです。背景には、途中で挫折した人を含め、各地で上げ続けた声の積み重ねがあると思います。今はPTA役員や校長でこの原則を知らない人は、まずいないんじゃないでしょうか。「入退会自由」とはっきり打ち出し、加入届を整備したところも増え、早期に対応しなければと考えているところも多いでしょう。

 もっとも、知らないわけじゃないけれど、特にそれが問題とは思わない人たちは普通にいると思います。それまで学校にもPTAにもかかわったことがなかった人が、いきなり会長になって、PTAに適応できている役員たちとしか接触がない場合など、「入退会自由と言う人はアンチ(対抗勢力)」のように思うかもしれません。

 そんな場合、「入退会自由」という形だけを整えても、実際の運用は前と変わらないということもあります。それどころか、登校班外しや、PTA主催のイベントに参加できないなど、非加入の子どもへの差別や排除はあちこちから報告されていて、本当にひどい話だと思います。そういう排除の論理に至ってしまう人たちは、その人たち自身、追い込まれてしまっているのかもしれませんが、実は、一番、PTAみたいな団体をやってはいけない人たちです。PTAは加入・非加入を問わず、全ての児童・生徒のための活動をするという、団体の本来の趣旨を理解していないのですから。

写真

非加入を選択した人は、適正化に貢献している

 ―そんな中でも、非加入を選ぶ人が出てきています。

 「やらない」という選択をした人は、流されるままに会員であり続ける多くの人よりも、PTAの適正化に貢献していると思います。非加入や退会を選ぶことで、これまで見えなかった問題を可視化してくれているわけですから。現場に踏みとどまってPTAを改善しようとする人たちと同じくらい僕は尊敬し、感謝しています。両者の問題意識は重なる部分があり、状況が違えば互いの立場は逆かもしれないんですよ。

 ―「改革」の要望にも、いろいろあります。

 今の会長らは非常に厳しい立場に置かれています。任意加入の周知など「まともな運営」が求められる一方、「コミュニティーを活性化するような活動」も同時に求められているわけですから。「PTAが中心になって、保護者や地域の強いつながりをつくる」というような理想を語る人もいます。そういった夢を見ること自体は、僕は否定しません。

 ただ、日本のPTAは、ずっと人権問題の警報が鳴りっぱなしのまま来てしまっているんです。現状では、とにかく、「やりたくない人」「できない人」の緊急避難の道を確保してから、夢を見てくれと言いたいですね。

 その上で、「やりたい人」「できる人」に機会を開くような活動からこそ、力強いコミュニティーができるのではないでしょうか。僕自身、保護者として学校とかかわった十数年のうちで、子どもたちのために現実的に役立つ活動ができたのは、PTAではなく、読み聞かせのグループや、カジュアルな学級単位のLINEグループなどがきっかけになったものでした。特に、学級崩壊、授業困難、担任によるハラスメントの問題に対して、PTAは無力でした。

写真

 いまだに「入退会自由をうたうと担い手がいなくなる」と心配する人がいますが、それでPTAがなくなった報告はありません。むしろ「PTA、強すぎ」という印象です。同調圧力的な要素は相当しぶとく残っています。

 幸い、この10年間、各地でPTA運営の改善の事例が増えてきました。参考にできる経験の積み重ねがあるのは心強いことです。ただ「任意加入の周知」の仕方一つとっても、導入を目指す人同士で踏み出す方向や順番が違うと、互いに批判しあうこともでてきます。進め方に正解はなく、根っこの部分の問題意識を共有して進んでいくことが大事だと思っています。

川端裕人(かわばた・ひろと)

 1964年、兵庫県生まれ、千葉県育ち。2007年から世田谷区立小学校のPTA副会長を2年務めた。都立高校PTAでは広報委員の経験も。小説は、少年の成長を描いた「川の名前」(ハヤカワ文庫JA)、「今ここにいるぼくらは」(集英社文庫)など。

 PTAを巡る議論が活発になっています。さまざまな角度で提言する「論者」のインタビューを3回に分けて伝えます。次回は10月12日の予定です。
 
 
〈インタビュー・下〉はこちら↓
2

なるほど!

0

グッときた

2

もやもや...

0

もっと
知りたい

すくすくボイス

  • ふくろう says:

    癌で4年間闘病中ですがPTA役員とクラス委員に選出されたことがあります。
    我が子の通う小学校では、病気、介護等を理由に役員免除の申請ができず、立候補者がいない場合には、くじ引きで決定する、そんな選考方法です。
    私は選ばれましたが、2回とも辞退を申し出ました。
    ただ、辞退させてもらうために、PTA会長、役員選考の方々に、自分の病気の説明をしなければ理解してもらえず、とても苦痛でした。

    癌で闘病中でも端からみれば、健康そうに見えるのかもしれないから、説明しよう、そんな気持ちで話しましたが、PTAの方々が今後個人情報保護を守ってくれているのか、いったいどうやって確認できますか?噂話が広がるのでは、と心配でなりません。

    ふくろう 女性 40代
  • まま says:

    人権なんてないですよ。退会理由を役員の保護者にお話しして賛同を得るなんて笑っちゃう誰にも言いたくない事を言わなければ免除されない事自体がやばいよ。まして賛同を得るとか、なんの権限があって人のプライバシーを暴露しなきゃいけないんだ。みんなやってる事だからやらない理由をお知らせするのは当たり前とか言うのは、やめたほうがいいですよ。一人だけ逃れるなんて許せないとはなんですか?

    まま 女性 40代
  • 匿名 says:

    専業主婦ばかりの時代は終わりました。

    例)1クラス35人2クラス×6(学年)イコール420人、だいたい1割40人位がPTAに意識が高い親。この人数でPTAを回す事が理想。
    育児、仕事、介護、家事等、優先順位は個々で違うが420パターンあるのに子供を人質にとりポイント制で縛るのは間違い。
    「PTAくじ引き当選、日本死ね」できない親には意識高い系が扇動し、そういう時こそ直ぐ団結しポイント剥奪しろと圧をかける。

    みんな違うのが当たり前。その時その都度、1時間だけ、お願いしますとボランティアを募る。1年間の縛りも気が重い、、、もっと気楽に楽しく参加できる工夫が必要。今の現状では、ますます少子化になるとおもう。PTAストレスはどのように解消されますか?コロナだからこそ、いらないストレスを増やさないで無駄は無くすべき!

    義理母が私達は苦労した。だから嫁も耐えろみたいな雰囲気のPTAは壊すしかない。家事代行サービスのようにPTAも民間委託したらいかがでしょう?
    やる気のある60代70代シルバーを積極的に採用、国の予算をPTA給料制にあてる等、、、。

    ざっくばらんに女性達が本音で話し男性達も巻き込み対等に事にあたれる良い案がうまれることを切に希望します。

      
  • 匿名 says:

    保育園のPTA役員を1年だけやりました。
    古参の役員経験者たちが何年も役員を続けている園だったので仲が良い人と新規の人の溝が深かったです。
    古参役員は上の子の小学校のPTA役員が当たらないように何年も続けているようで、その役員たちと別の学区ではありますが小学校PTAも闇が深そうだと感じ将来的に入会を躊躇うと思います。

    コミュ力が低いので役員は一年間苦痛でしたが、コロナの影響で軒並み行事が中止になったのでかなり助かりました。
    私は新規だったので気づいていない事もあるでしょうが、無くて良いものがたくさん省かれ、PTA活動については良い一年の活動環境だったと思います。
    正直、このままPTAなんてなくなれと思っています。
    ボランティア活動は好きでいろいろ参加しているのに、PTAは強制的な雰囲気や同調圧力が本当に苦痛です。

      
  • 匿名 says:

    学校側が、とにかく保護者に何かしらやってほしいんだなと強く感じます。このコロナ禍なのに、PTA活動を先生が押してきます。「配慮してます」と口では言ってますが、頻繁に学校に足を運ばせ何かさせる気満々で、行政と学校教育との間にズレを感じます。体の弱い高齢者も家に居ますし、出来るだけ感染しないように生活しているのに、学校側が壊してしまっています。クラスターでも起こったらどうするつもりなんでしょうか。国から教育委員会?学校?に向けて、PTA活動を自粛するように呼びかけるしか無いんじゃないでしょうか。

      

あなたの周りでPTAが変わったと感じることや、反対に、「ひどい」と感じることがあれば教えてください。

0/1000文字まで

編集チームがチェックの上で公開します。内容によっては非公開としたり、一部を削除したり、明らかな誤字等を修正させていただくことがあります。
投稿内容は、東京すくすくや東京新聞など、中日新聞社の運営・発行する媒体で掲載させていただく場合があります。

あなたへのおすすめ

PageTopへ