「多様な学び」目指す教育機会確保法の施行から3年 学びの現場は変わったか
「学校復帰を前提としない」文科省通知の意味
「今が不登校政策の転換期。文部科学省が昨年10月、確保法に基づいて学校復帰を前提としない不登校支援の基本方針を通知した意味は大きい」。早稲田大名誉教授の喜多明人さん(70)=子ども支援学=は話す。
2017年施行の教育機会確保法は、不登校の児童生徒を国や自治体が支援することを明記。登校のみを目標とせず、休養の必要性を認め、学校以外での多様な学習活動を支援する方針を掲げた。
当初、学校以外の学習も一定条件で義務教育として認める法制度が検討された。だが、義務教育は学校が担うべきだとの反対意見などから大幅に修正。法律は、多様な学びの重要性が盛り込まれ評価される一方、学校現場の改善を優先すべきだという批判もあった。
不登校の子どもは年間10万人超 足りない支援
法律ができた背景には、年間10万人を超える不登校の子どもたちの存在がある。2018年度には小中学生で約16万4500人と過去最多になった。そんな子どもたちが安心して過ごせる居場所が求められてきたが、フリースクールなどへの公的な支援は乏しく、運営団体の経営が安定しないなどの問題もあった。
フリースクールなどでの学習や活動はさまざま。個別学習や相談・カウンセリングのほか、音楽などの芸術活動、スポーツ体験をする団体もある。保護者が負担する授業料は、月額平均約3万3000円(文科省2015年調査)だった。
フリースクールの子ども支援者の養成にも携わる喜多さんは、学校以外の学びを充実させるため「子どもの力を信頼し、意志に寄りそい、見守る人材の育成と現場への公的な支援が必要」と話す。
コロナ禍は「子どもの学習の権利を見直す機会」
新型コロナウイルスの感染拡大で、多くの学校が休校中の今、「学校以外の多様な学びのあり方に気付く好機」と、前向きにとらえる意見もある。
教育学者で東大名誉教授の汐見稔幸さん(72)は、動画やビデオ通話を使ったオンライン授業の導入が進む現状を「家庭での学習を保障し、丁寧な個別対応ができる可能性を感じる」と評価。
しかし、情報端末の確保など家庭への経済的な支援の必要性に加え、教師の力量の問題を挙げ「教える側がこれまでの集団指導の発想では豊かな教育にならない」と指摘。その上で「本来の学校は詰め込み教育をするのではなく、子ども一人一人の自分探しを応援する場であるべきだ」と現在の学校教育に苦言する。
新型コロナ流行の状況次第で学校の休校が繰り返される可能性もある。汐見さんは「子どもが自らやりたいことを見つけ、探究できる環境を整える。子どもの学習の権利や、学校中心の教育を見直す機会にすべきだ」と訴える。
学校の現状は…文科省「休校中は家庭学習を」
新型コロナにより休校している幼稚園と小中高校などは、文部科学省の4月22日時点の調査で91%に上る。その後の休校実施を決めている学校を含めると94%。東京都や埼玉県の公立学校は100%だった。
文科省は、休校中に最低限取り組むべきこととして、教科書や「学習計画表」を使った家庭学習を課すよう各都道府県教委などに通知。電話などで学習状況を把握することや、インターネットの活用も求めている。
休校中の公立小中高校などを所管する教育委員会への調査で、学校が教科書や紙の教材を活用した家庭学習を課すのは100%だったが、同時双方向型のオンライン指導を実施するとしたのは5%にとどまった。
こどもの日特集「多様な学び」を考える
今日は「こどもの日」。新型コロナウイルスの感染拡大で、休校が続く中、子どもの学びについての議論も活発になっています。子どもたちが自らやりたいと思う気持ちを尊重し、探求できる学びの場を記者が訪ね、「学校での一斉授業」だけではない「多様な学び」について考えます。
〈多様な学びの現場から〉
1・学校とは違う学び 子どもの「どうして?」の力を信じる、松戸の探求型スクール
2・宿題も定期テストも廃止 公立校の”当たり前”の改革者・工藤勇一校長の挑戦
3・外国籍の子どもが多い横浜市南区 休校で孤立しないよう、学習支援を続ける信愛塾
4・障害があっても、創作意欲は育つ 自分を丸ごと肯定される練馬のアトリエ
〈多様な学びを広げるために〉
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