休校長期化で心配な学力低下 学校がオンラインでできることは? 学習塾では双方向の取り組みも

土門哲雄 (2020年5月1日付 東京新聞朝刊)
 新型コロナウイルスの影響で学校再開のめどが立たず、子どもたちの学力低下が懸念されている。生活のリズムが崩れ、自宅学習が思うように進まない子どもたちが多くいるが、学校のオンラインの取り組みは遅々としている。専門家は「先生と子どもがつながりを維持する必要がある」と危機感を強める。 
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休校が続く都内の小学校(本文とは関係ありません)

「カタリバ」Zoomで朝の会、英会話や自習の”ルーム”へ

 「おはよう」。4月下旬の午前9時半、子どもたちに多様な学びの場を提供する活動を続けるNPO法人「カタリバ」(東京都杉並区)が、オンライン会議ソフト「Zoom」を使って毎日開いている「朝のサークルタイム」に小中学生ら70人以上が集まった。

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カタリバオンラインの朝のサークルタイムに参加した小中学生ら。この日は70人以上が集まった

 スタッフが「朝ご飯何食べた?」「良い1日を」と呼び掛け、子どもたちはオンライン上の各ルーム(教室)へ。英会話(初級)の教室をのぞくと、講師の外国人が英語で「好きなスポーツは?」と尋ね、小学生が「フットボール」と元気よく答えていた。「宿題消化学院(自習ルーム)」と名付けられた教室では、分からない問題の質問に大学生らが回答。途中退出は自由だ。

 「子どもが朝起きない」「ゲームやSNS(会員制交流サイト)ばかりしていて勉強しない」。そんな親の悲鳴を受け、3月に始まったカタリバオンラインは4月7日の緊急事態宣言後、1日あたりの利用者が3倍に増え、延べ100人近くになった。パソコンとWi-Fi機器の無償貸与も始めた。担当職員の戸田寛明さん(29)は「一方的な授業ではなく、双方向性を大事にしている」と強調する。

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カタリバオンラインのホームページ

「朝の会」断念した小学校校長「セキュリティー面が…」

 一方、学校現場はオンラインの取り組みの遅れが目立つ。文部科学省の4月中旬の調査では、同時双方向型のオンライン指導を導入するとした全国の教育委員会は5%のみだった。

 練馬区のある小学校は、児童に生活のリズムを整えてもらい、教員や友だちとつながる場をつくろうと、Zoomを使った6年生向けの「朝の会」の試験運用を検討したが、当面は見送ることにした。校長は「情報セキュリティーの面で難しかった」と説明する。

教員の悩み「子どもがどんな生活しているのか、見えない」

 多摩地区の別の小学校は6年生向けにZoomで朝の会、帰りの会を実施している。ただ、ある保護者は「参加できない家庭もある。パソコンや通信環境を整えないまま一部の児童だけを対象にしていいのか」と批判する。学校側は公平に学習を保障するため、休校が延長になった場合、学習プリントを学校の靴箱に入れ、取りに来てもらう方法を検討。校長は「オンラインの取り組みと併用していきたい」としている。国は児童生徒にパソコン1人1台を備える計画を前倒しする。

 休校の長期化で、学習習慣の崩れた子どもたちに対し、いま何ができるのか。多摩地区の小学校の男性教員(42)は「子どもたちがどんな生活をしているか見えないのが一番怖い」と強調。「先生たちは『何かしたい』という気持ちはあっても、自分だけで判断できず、指示待ちの状態になっていないか」と自戒を込める。

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学習塾では双方向のウェブ授業 一方通行より「緊張感」

 学習塾はさまざまな取り組みを進めている。「早稲田アカデミー」(東京)は4月8日から、講師と子どもたちが双方向でやりとりするウェブ授業を実施。担当者によると、保護者から「一方通行の動画配信だと子どもが理解できているか分からない」「緊張感があり、やる気が出た」との声が寄せられているという。

 授業時間に参加できない生徒向けや復習用に授業映像も配信。担当者は「補完する形で利用してもらっている」と話す。

対面で個別授業を行う塾 講師がフェースシールド着用 

 個別指導塾「TOMAS(トーマス)」(東京)は4月22日、希望者を対象に対面の個別授業を始めた。8日から全校休校にしていたが「保護者や生徒から授業をしてほしいと要望があった。できる限り応える必要があると考えた」(担当者)という。

 講師が透明のフェースシールドで顔全体を覆うか、講師と生徒の間にビニールカーテンを設けている。担当者は「受験生は切羽詰まっている。この時期は大事」と話す。

 双方向のオンライン指導については、「生徒が集中力を保てないのではないか」といい、現時点では導入していない。

「学校は動画より”つながり”を優先するべき」教育研究家・妹尾昌俊さん

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教育研究家・妹尾昌俊さん

分散登校で子どもの話を聞くだけでも違う

 「教科書を読んでおくように」「問題集をやっておくように」と言われても、放置されては、やれる子はやれるが、嫌々やっていたり、手つかずだったりする子もいる。教育委員会、学校は授業動画を作るより、子どもたちとのつながりをキープして励ましたり、SOSをキャッチしやすくしたりすることを優先すべきではないか。

 今後は、感染状況にもよるが、分散登校ができるかどうか。例えば週に1回など、1学年だけ来るようにすれば、教室に集まる人数を少なくできる。学級担任にこだわらず、先生たちが家庭学習の状況をチェックして励まし、「分からない箇所がある」「昼夜逆転しちゃった」などという子どもたちの話を聞くだけでも全然違うと思う。

教育委員会は早くPCやWi-Fi機器の支援を

 分散登校が難しい地域ではオンラインでできることを考えるべきだ。ウェブ会議などで朝の会や面談から始めたい。ただ、利用できない家庭もあるので、教育委員会や文科省はパソコンやWi-Fi機器などの支援を速やかに進めてほしいし、公共施設などを活用することも選択肢だ。

 何もしなければゼロのまま。オンラインとオフラインの両方で、子どもたちと先生がつながる方法を模索していってほしい。

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