女性研究者がジェンダーバイアスにはじかれず活躍するために 科学賞や奨学金の新設で後押し

文・増井のぞみ/写真・坂本亜由理、由木直子 (2022年4月25日付 東京新聞朝刊)
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院生らと研究を議論する東大の佐々田槙子准教授=東京都目黒区の東大駒場キャンパスで

 若手の女性研究者は、出産・育児と研究の間で悩むことも多い。勇気づけようと、文部科学省所管の国立研究開発法人・科学技術振興機構(JST)は、女性科学賞を相次いで創設している。女性比率がとくに低い工学分野では分厚い壁を破るため、大学も動きだした。

「ジュン アシダ賞」出産の期間も考慮

 JSTは2019年度、輝く女性研究者賞(ジュン アシダ賞)をつくった。原則40歳未満を対象に、業績を重視して選考する。

 2018年に逝去した国際的なファッションデザイナー、芦田淳さんが創設した「芦田基金」が、女性研究者の活躍を推進するという趣旨に賛同。基金から毎年100万円が贈られている。芦田さんの次女多恵さんは「ファッションデザインと科学は通じる点がある」と話す。

 さらにJSTは昨年度、羽ばたく女性研究者賞(マリア・スクウォドフスカ=キュリー賞)を創設した。5月に第1回受賞者を発表する。

 30代前半の研究成果でノーベル物理学賞と化学賞を受賞したキュリー夫人の出身国ポーランドの在日大使館とつくった。将来性と国際性を重視する。最優秀賞1人に50万円、奨励賞の2人には各25万円が贈られる。

 いずれの賞も出産などで休んだ期間を考慮する。JSTの渡辺美代子シニアフェロー(66)は「休んだ人がその分成果を出せなかったと見なすようでは、優秀な人は見えてこない」と説明。「日本に女性研究者が少ないのは、ジェンダー平等の遅れがあるから。賞で勇気づけることで優秀な女性に光を当てたい」と願う。

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「賞で勇気づけたい」と話す科学技術振興機構シニアフェローの渡辺美代子さん=東京都千代田区で

数学者の佐々田さん 家事育児の分担は

 第3回ジュン アシダ賞を昨年度受賞した数学者の佐々田槙子・東京大准教授(37)の研究室を訪ねると、教え子2人と確率論の研究討論をしていた。佐々田さんは「4~5時間討論することは全然ある」。

 佐々田さんは、原子や分子など微小な粒子がお互いに作用しながら動く法則から、温度や密度などの自然現象を説明する新しい理論を構築している。数学と物理学にまたがる研究成果だけでなく、ホームページ「数理女子」の開設など、数学の魅力をやさしく伝える活動も高く評価された。

 小学2年の長男(7つ)と長女(1つ)の子育て中。平日は金融機関に勤める夫(37)が保育園に通う長女を迎えに行き、夕食を作る。佐々田さんは長男の宿題を見たり長女と遊んだり。「夫婦で家事・育児を分担しないと研究は難しい」と話す。

 研究に没頭する時間が少ないのが悩みだが「ジュン アシダ賞受賞が励みになっている」。「数学はサイコロと天気予報の似ているところを見つけて定義にするなど、新しい概念をつくれるところが好き。研究を楽しみ、数学の楽しさをワークショップなどで伝えていきたい」と抱負を語る。

特に女性が少ない工学 36カ国中最低

 経済協力開発機構(OECD)の調査によると、日本は2019年、大学などの高等教育機関に入学した学生のうち、工学分野に占める女性の割合が16%と比較可能な加盟国36カ国中最低だった。本年度、奈良女子大に、女子大としては日本初の工学部が誕生した。

 国立のもう一つの女子大、お茶の水女子大も2024年度、工学と人文学・社会科学を融合させた共創(きょうそう)工学部(仮称、入学定員46人)の開設を目指す。社会課題の解決策を示すデータサイエンティストや、男女の性差に着目した技術開発に挑むエンジニアなどを育成する。新井由紀夫副学長(62)は「工学系の女子の割合を改善する社会の起爆剤になれば」と期待する。

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芝浦工大の新井剛アドミッションセンター長=東京都江東区の芝浦工大豊洲キャンパスで

 芝浦工業大は本年度入学者から、一般入試の成績優秀な女子学生に入学金相当(28万円)の奨学金の給付を始める。初年度は約80人を見込む。学部の女子学生比率は19%だが、創立100周年の2027年に30%以上が目標。アドミッションセンター長の新井剛教授(49)は「理工学分野は、重厚長大の昔と違う。スマートフォンや電気自動車(EV)など、繊細な感性を必要としている。女性がジェンダーバイアス(男女の役割に関する固定観念)ではじかれているのが日本の一番いけないところだ」と話す。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年4月25日

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