「中学から硬式野球をやりたい」 部活よりクラブチーム

唐沢裕亮 (2018年5月15日付 東京新聞朝刊)
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リトルシニア千葉県大会で声援を送る千葉北ナインの保護者ら=千葉市花見川区で

家族一丸 親も休みなし 

 「ナイスバッティング」、「さあ行けー」。大型連休真っただ中の4月29日、千葉市花見川区のグラウンド。そろいの帽子やシャツを身に着けた父母らの声援を受け、中学生対象の硬式野球「リトルシニア」の千葉県大会を戦う選手たちが汗を流していた。

 「連休中も大会や練習があるので私も休みなしです」。保護者の一人、千葉北(千葉市)に中学3年の長男が通う会社員川崎大輔さん(44)は苦笑いする。このクラブは「高校でも野球を続けること」が入団条件。出身者は県内のほか、常総学院(茨城)、早実(東京)など県外の強豪校に進学しており、保護者の熱も自然と高まる。
 
 地元の公立中学に軟式野球部はあったが、長男は「思う存分野球をやりたい」と硬式野球クラブを選んだ。千葉北では選手の母親がスポーツドリンクなどを準備し、父親も遠征時には車で用具を運んだり、練習グラウンドのネットが傷んだら補修をしたりする。当番制で月平均1人1~2日、試合や練習時に選手への飲み物の準備や監督らスタッフへの弁当手配なども担う。
 
 硬式野球クラブの多くで、このような協力が当たり前。川崎さんもこの日は試合の準備のため早朝から会場に足を運び、長男が試合後の練習を終えたのは夕方だった。「家に帰ったら夕食を取って、すぐにバタンキューですよ」。息子を応援する父親として苦にはならない。

夢への道 「高校でレギュラーになるために」

 大リーグ・エンゼルスの大谷翔平や日本ハムの清宮幸太郎-。中学時代に硬式球に慣れ親しんだリトルシニア出身のプロ選手は多い。ヤンキースの田中将大らを輩出した大阪発祥の「ボーイズリーグ」とともに甲子園への登竜門的役割を果たしている。
 
 リトルシニアの強豪世田谷西(東京都)の加納怜朗(れお)は「高校でレギュラーになるには、早い段階から硬式でプレーした方がいいと思った」と入団の理由を明かす。地元の公立中学の軟式野球部では野球経験のある指導者や部員自体が少なく、将来を見据えて硬式クラブの門をたたく生徒も多いという。
 
 日本中学校体育連盟によると、2017年度の軟式野球部員数は男女計17万7029人。07年度の30万6155人から10年間で約42.2%も減った。一方、日本野球連盟の調べでは、中学生の硬式野球競技者数は17年度に約4万9000人となり、05年度から約1万人増えている。このような現状に世田谷西の吉田昌弘監督は「地域の硬式クラブが軟式の受け皿になっている。学校現場の働き方改革や指導者不足の問題もあり、この傾向はさらに進むだろう」とみる。

エリート化指摘「結果的に野球をあきらめてしまうケースも」

 中学野球に特化した数少ない専門誌「中学野球太郎」(廣済堂出版)編集担当の持木秀仁さんは中学野球の現状について「野球がエリートスポーツ化している」と指摘する。
 
 持木氏は軟式野球部の減少を踏まえ「今は何となく軽い気持ちで野球をやろうとすることが難しくなっている」と強調する。硬式クラブの場合は費用は月1万円前後かかり、部活動の部費に比べて高額。親の関与も求められることが多いため、結果的に野球をあきらめてしまうケースも少なくないという。
 
 持木氏は「ただ裾野が狭まっている分、逆に中学硬式野球の熱自体は高まっている」と話す。

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