無意識の思い込み「アンコンシャスバイアス」に気づこう! 好き嫌い、性別、障害… 可能性を広げるきっかけに

アイマスクをしてボールを投げる参加者=いずれも、東京都千代田区で

 無意識の思い込み「アンコンシャスバイアス(アンコン)」に気づけば、自分の可能性がどんどん広がっていくー。そのことを実感してもらおうと、小学生向けのイベントが夏休みに東京で開かれた。味覚や視覚、性別や障害などについての「ハッ!」とする体験を通して、子どもたちは「ものの見方が変わる瞬間」を経験した。なかなか自覚するのが難しい自分の思い込みに気づくためには?

足のにおい+バニラ=!?

 「『アンコンシャスバイアスに気づこう!』の日」の8月8日に東京都内で開かれたイベントは、企業や自治体向けに研修を行う一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所(東京都港区)が主催。食品メーカーや化粧品会社などが準備した6つの体験コーナーを小学生約300人が巡った。

 「①の容器は、みなさんの足の裏のにおい。顔をしかめてる人がいますね。チーズや納豆にも含まれています。②の容器はバニラのにおい。①と②を同時にかいでみて。どう?」

 「おいしさ」をテーマにした「味香り(あじかおり)戦略研究所」(東京都中央区)の体験コーナーでスタッフが声をかけると、参加した13人の子どもたちから元気な声が上がった。「チョコレートのにおい!」

2つの容器のにおいを同時にかぐ参加者

 スタッフが解説する。「そう。チョコの香りは、臭い足のにおいがないと作れません。実際に、鶏や牛や豚の小屋のにおいを抑えるために、現場ではバニラの香りを使っています。近くに住む人が助かるだけじゃなくて、動物もリラックスするそうですよ」

 子どもたちは「味のパズル」にも挑戦。牛乳とたくあんを組み合わせるとコーンスープの味に、トマトと砂糖を組み合わせるとイチゴの味になると知り、「家でやってみたい」とわくわくした表情を浮かべた。都内の小学3年生、五島紬さんは「私もニラが嫌いだけれど、おいしく感じる組み合わせがあるかもしれないので試してみたい」と話した。

味のパズルに挑戦する参加者

発言者は男性?女性?

 化粧品会社「ポーラ」(東京都品川区)の体験コーナーは「性別」がテーマ。子どもたちは、「ピンクが大好き。かわいいTシャツも着るよ!」「メークをするのが大好き! 化粧品も大好きです」「ポーラの社長です。バリバリお仕事しているよ!」という3つのセリフは男女どちらが発したものかを当てるクイズに挑戦した。

「ピンクが大好き。かわいいTシャツも着るよ!」と言ったのは男性・女性どちらかを問うクイズに回答し、理由を答える参加者

 「日本では、女性の社長は10人に1人」という説明を受け、ある女の子は「女の人でもバリバリ仕事する人はいると思います。私は社長になります」と宣言していた。千代田区の小学5年生、藤田祐来さんは「『男の子だからこういうおもちゃにしたら』と大人が言うのを聞いたことがあるし、自分も言いそうになったことがある。でも、性別だけで決めつけると相手も傷つくことがあるし、自由に選べる社会になるように自分も行動していきたい」と話した。

目が見えないと難しい?

 「目が見えないから無理」。そんな偏見を覆すために用意されたのは、パラアスリートと競技「ゴールボール」を通して触れ合う体験コーナー。東京都西東京市の小学4年生、岡島悠穂(はるほ)さんは、アイマスクをしてボールを真っすぐ投げるのに苦労していた。「見えないのは難しい」と言いながら、2投目はひもで引かれた線を足で踏んで方向を確かめて投げ、「まあまあうまくいった」。

転がってきたボールを音を頼りに止める安室早姫さん

 パリ・パラリンピックに出場するゴールボール日本代表で、全く目が見えない安室早姫(さき)さんが、転がってきたボールを、音を頼りに横に体を投げ出すようにして止めるのを目の前で見た子どもたちからは「おーっ」と歓声が上がった。安室さんは「道を歩くときは、横断歩道や壁の切れ目など、自分なりの目印を全部覚えて、記憶を頼りに歩く」と説明した。

「普通はこうだ」には注意

 「アンコンシャスバイアスは日常にあふれていて、誰にでも起こり得る」。そう話すのは、アンコンシャスバイアス研究所代表理事の守屋智敬さん(54)。過去の経験や見聞きしたことに影響され、「こうだ」と思い込んでしまうことで起こり、「思い込みに気づかず、判断や言動となって現れたときに、人を傷つけたり、自分の選択を狭めてしまったりというマイナスの影響を及ぼす可能性がある」。

アンコンシャスバイアス研究所代表理事の守屋智敬さん

 思い込む要因は主に2つあるという。一つは自分の過去の経験による思い込み。見たり聞いたり、自分で食べたりやってみたりしたことについて、未来も同じ結果になるだろう、と考える。もう一つは、周りからの刷り込み。「男の子だから泣かないよ」「台所に立つのは女性」など、身近な大人やメディアと接触する中で言われてきたこと・されてきたことが影響する。

 守屋さんは、アンコンによるマイナスの影響を防ぐために、次の3つを心がけるように勧める。

1. 日頃から「これって私のアンコン?」と気づこうとする意識を持つ

2. 頭ごなしに決めつけない。「普通はこうだ」「みんなそうだ」「どうせ無理」と考えていたら注意する

3. 相手の表情が曇る、自分が心苦しく感じる・気持ちがスッキリしない、といったサインに目を向ける

 守屋さんは「自分の思い込みに気づくと、いろいろな発見があり、選択肢が増えることで可能性も広がる」と話す。一方で、「アンコンは否定的な文脈で語られることが多い」と指摘。「『気づくことで変われた』というポジティブな面も発信していってほしい」と願う。