意見やノーが言えるようになるためには、「聞かれる体験」の積み重ねが必要〈スクールソーシャルワーカー・鴻巣麻里香さんに聞く〉④ - 東京すくすく | 子どもとの日々を支える ― 東京新聞

意見やノーが言えるようになるためには、「聞かれる体験」の積み重ねが必要〈スクールソーシャルワーカー・鴻巣麻里香さんに聞く〉④

タイトル:「バウンダリーって?」親子に必要な境界線

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10代の心を守る境界線「バウンダリー」の引き方について話すスクールソーシャルワーカーの鴻巣麻里香さん=松崎浩一撮影

【第4回】子どもと良い関係を築くために必要な心の境界線「バウンダリー」について、スクールソーシャルワーカーとして中高生やその保護者を支援する鴻巣麻里香さん(45)と考える連載。第1回は、子どもたちが「私は」を主語にして考えられない背景を、第2回は、「なぜ大人は子どものバウンダリーを侵害してしまうのか」を、第3回は、バウンダリー侵害を避けるために大人は何に気をつければよいかを取り上げました。今回は、子どもが意見やノーを言えるようになるために、大人が心がけたいことを、子どもとのやりとりを例に考えます。今日から子どもとの会話に取り入れられそうなヒントも盛りだくさんです。

連載目次【「バウンダリー」って? 親子に必要な境界線】

第1回 子どもの「バウンダリー」侵害していませんか?
第2回 バウンダリー侵害が起きる理由 子どもの不安より親の不安で動いていませんか
第3回 子どもが親の機嫌を気にするのは、バウンダリー侵害のサインです
第4回 意見やノーが言えるようになるためには、「聞かれる体験」の積み重ねが必要(このページ)

第4回のポイントは…

  • 「何かあったら言ってね」では、子どもは話してくれない
  • すべての選択肢をテーブルの上に並べて、一緒に考える
  • すぐに否定せず、まずは受け止め、興味を持って聞く
  • 「意見を聞かれる体験」は赤ちゃんの時から始まっている

「何かあったら言ってね」では足りない

ー子どもが意見やノーを言えるようになるために、大人は何を心がけて接するとよいでしょうか。

子どもが言うのを待つことです。子どもは、聞かれる経験を積み重ねないと、意見を言うことができません。子どもから言葉が出てくるまで、とにかく聞き続けること。

「教えて」「今何を考えてるの?」「これについてどう思うの?」「どんな気持ちだった?」と聞く。

「別に」「知らない」「分かんない」といった返事がくることも多いです。

そうしたら、「そっかそっか、今は別にって感じなんだね」「今はちょっと分からないんだね」と受け止めて、「教えてくれてありがとう。じゃ、もし何か気になったことがあったら言ってほしいし、私ももう一回聞いていい?」「今は『別に』かもしれないけど、後になったら違ってくるかもしれないから、たまにこうやって聞いていいかな?」と伝える。

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イラスト・横田眞未子

「何かあったら言ってね」では、子どもは話してくれないので、「聞いていいかな?」とこちらから聞く姿勢が大事なんです。

「今日、学校であったこの件についてどう思うか、もう一回どう?って聞いていい?」「進路についていろいろ考えてると思うんだけど、たまに今どんな考えを持ってるの?って聞いていい?」と伝えておいて、自分から質問しにいくこと。

すべての選択肢をテーブルの上に並べて

ーこの「待つ」ということが苦手な保護者が非常に多いと思うのですが…。

子どもの知識だけでは考えるのが難しそうなときや、すぐに決めたり答えを出したりする必要があるときは、いくつか選択肢を出すのはありだと思います。

「どうしたい?」と聞いても、「分からない」と答える場合は、本来は「そっか、また聞くね」という姿勢が基本です。でも例えば、妊娠してしまった女の子がいるとします。おなかの中で胎児はどんどん育っていき、中絶できるリミットもあります。早めに決めなければいけないときは、考え得る選択肢を全て提示して、それぞれのメリットデメリットを伝えて選んでもらうのも手です。

「出産する場合は、自分で育てるのもあり、特別養子縁組という選択もありだよね」「自分に育てる場合は、こういうメリット、デメリットがあるね」「出産しない場合は、学校はやめなくていいし、お金の面でも困ることはないかもしれない。だけど、病院に行って処置をするからいろいろ不安で怖いこともあるかもしれないし、赤ちゃんを授かって育ててみたいという気持ちがある場合は悲しくなるかもしれない」

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保護者が子どもと良好な関係を築く上で大きなヒントになる「バウンダリー」という考え方について説明するスクールソーシャルワーカーの鴻巣麻里香さん=松崎浩一撮影

子どもが「分からない」と言うのは、「もう考えたくない」「心の中がいっぱいいっぱいで考えられない」可能性もあります。どんな選択肢があるのかが分からない場合に、「一番リスクが少ないから、これにしなさい」と大人が決めつけるのではなく、選択肢を全部テーブルの上に並べて、親子で一緒に眺めてみる。そして一つ一つの選択肢を「これについてはどう思う?」「心配なことはある?」と検証していく。

「今の時点で選ぶとしたら、どれがいい?」「明日になったら気持ちが変わるかもしれないし、新しい不安が出てくるかもしれない。後で変えてもいいんだよ。また聞くね」「この件について、他に意見を聞いてみたい人はいる?」と広げていく。「言いなさい」「話しなさい」ではなく、「聞いてもいい?」という言い方が大事です。

すぐに否定せず、まず興味を持って聞く

ー子どもの進路ひとつとっても、「自分で決めていいよ」「好きにすればいいよ」と口では言っても、実際には難しいです。

「好きにしていいよ」という親の大半は、本当に好きにしていいわけではなく、「この子は、大体このあたりから選んでくれるだろう」「無茶なこと言ってくるわけないだろう」「大学に行かないで世界一周の旅に出る、とか言わないだろう」という決めつけがあって言っていることがほとんどです。

「進路を好きに決めていいよ」と言っていたとしても、子どもが「演劇の学校に行く」と言ったら、「それはちょっと」とストップをかける人もいるのでは。「自分で決めなさい」というのは、100%支持する姿勢がないと言ってはいけないことです。

子どもから「こうしたい」という希望が出たときに、親は「えっ!?」と思っても、まず受け止め、興味を持って聞きましょう。

例えば、「中学をやめて、K-POPアイドルのオーディションを受けに韓国に行きたい」と子どもが言ってきた場合。「そんなの無理! お金も出せない。せめて高校を卒業してからにして」と言いたくなるかもしれません。でもすぐに否定せず、「そっか、それが今、あなたが一番やりたいことなんだね」と受け止めてください。

そして「どういったわけでやりたいと思ったの?」「きっかけは何?」「どこがあなたにとって魅力なの?」と、いっぱい聞いてあげてください。

その上で「そんなに大好きなんだね。うん、大好きな気持ちはよく分かった。ただ、韓国に行くことにOKを出せるかどうかは、もっと調べて話し合いながら決めさせてほしい。費用や中学をやめて向こうに行くのが可能かどうかとか、お母さん(お父さん)もよく分からなくて、心配な点がいっぱいあるから」と伝えて、可能な限り子どもの夢をかなえていくために、大人も子どもと一緒に調べてみる。

イラスト:子どもの意見を聞くために

最初から諦めさせようとしてしまうと、子どもはかたくなになるか、「もう言わない」となってしまいます。もちろん、いろいろ検討した結果、「やっぱりお金がかかりすぎる」「中学をやめて韓国で挑戦するとなると中卒にもならない。これは結構大変」ということが分かるかもしれない。

そうしたら、「お金がこれだけかかるので、100%応援してあげられるだけの余裕が現在はない」「心配なのはこういう理由だ」と伝え、どうしたらそれをクリアできるかを、子どもと一緒に調べて話し合いながら、折り合いをつけていきます。

親から提案するのは最後の最後ですね。「とりあえず高校を卒業した後で行く手もあるよ」ということ自体、「高校くらいは卒業してほしいな」という親の期待が入ってしまっています。この方向に誘導したいというのが透けて見えてしまうので、提案のタイミングは非常に大事です。

「意見を聞かれる体験」は赤ちゃんでも

ーバウンダリーの意識は、いつ頃から子どもの身についていくのでしょうか。

言葉をしっかり自分の考えとして操れる中高生になじむ考え方ではあります。

ただ、子どもの頃から少しずつ構築されていくものなので、身近な養育者が「あなたはどう思うの?」「あなたはそんなふうに感じるのね」「あなたはあなただよね」というメッセージを小さいうちから大事にしてくれていると、「私の意見はこれだ」という感覚が芽生えるのは早いでしょう。逆に、そういう大人が周りにいなければ、大人になっても身につかない意識です。

赤ちゃんが泣いたら「どうしたの?」と対応する。転んで「痛い」と泣く子を、「痛くない。痛くない」と泣きやませようとせず、「痛いんだね」と受け止める。子どもが自分の意見を言えるようになるには、小さい頃からの「自分の意見を聞かれる体験」の積み重ねが大事です。子どもの意見を聞くということに関して、早すぎるということは親の側にはありません。

子どもが進路や学校の悩みに直面したとき、保護者がどうかかわり、どうサポートするかは悩ましい。保護者のかかわり方によっては、子どもが余計につらい思いをしてしまうこともある。子どもの意見を受け止めることができているか、親の考えを押しつけてはいないか。スクールソーシャルワーカーとして中高生を支える鴻巣麻里香さん(45)は、近著「わたしはわたし。あなたじゃない。 10代の心を守る境界線『バウンダリー』の引き方」(リトルモア刊)で、保護者が子どもと良好な関係を築く上で大きなヒントになる「バウンダリー」という考え方を紹介している。

「心を守る境界線」を意味する「バウンダリー」は、「子どもの権利」とも深くかかわる考え方だ。11月20日は1954年に国連が制定し、今年70年を迎える「世界子どもの日」。「子どもの権利条約」は35年前の1989年のこの日、国連総会で採択された。節目の日に合わせ、大人が子どものバウンダリーを侵さないために大切なポイントを考えたい。

鴻巣麻里香(こうのす・まりか)

1979年生まれ。スクールソーシャルワーカー、精神保健福祉士。子ども時代には外国にルーツがあることを理由に差別やいじめを経験する。ソーシャルワーカーとして精神科医療機関に勤務し、東日本大震災の被災者・避難者支援を経て、2015年、非営利団体KAKECOMIを立ち上げ、こども食堂とシェアハウス(シェルター)を運営している。著書に「わたしはわたし。あなたじゃない。 10代の心を守る境界線『バウンダリー』の引き方」(リトルモア)、「思春期のしんどさってなんだろう? あなたと考えたいあなたを苦しめる社会の問題」(平凡社)などがある。

書影「わたしはわたし。あなたじゃない。」

鴻巣麻里香さん著「わたしはわたし。あなたじゃない。 10代の心を守る境界線『バウンダリー』の引き方」(リトルモア)

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