現役の高校球児がプロデュースする野球教室 視野が広がり、パフォーマンス向上も〈野球のミライ〉

高校生のプレーを興味深そうに見学する児童たち=いずれも東京都杉並区の都立豊多摩高で
「お兄ちゃんたちみたいに…」
東京都杉並区の都立豊多摩高校グラウンドで1月、同校初の小学生向け野球教室が開かれた。ロングティーで鋭い打球を放ち、遠投で90メートル超えを連発する選手たちの姿に、参加した学童野球チームの児童ら38人からは「すごい」「格好いい」と歓声が上がった。
企画の内容は高校生が考え、進行も担った。じゃんけんや鬼ごっこといった遊びの要素を盛り込んだメニューも用意するなど、子どもたちを飽きさせないよう工夫。笑顔が絶えることなく、約2時間の交流を終えた。打撃のアドバイスを受けた3年生の男児(9)は「普段接することのないお兄ちゃんたちと楽しく過ごせた。野球も上手で、あんなふうになれるようにこれからも野球を続けたい」と声を弾ませた。
競技人口減少の波、高校球界にも
この日、部員たちは午前中で練習を切り上げ、午後は野球教室に臨んだ。練習時間を削ってまで子どもたちと向き合ったのは、競技人口減少の波が高校球界にも及んでいるからだ。

開会式であいさつをする実行委員長の立木麻寛さん
日本高野連によると、2024年度の都内の高校硬式野球部員は9133人で、10年前から2134人減少。2019年夏の西東京大会でベスト8に進出し、かつては約50人の部員が在籍していた豊多摩も「部員の減少は死活問題」と顧問の井波祐二教諭は語る。
現在はマネジャー3人を含めて1、2年生で計20人。1年生選手は5人で、新入部員の加入状況によっては現2年生が抜ける秋以降は活動がおぼつかなくなる。危機感を抱いた井波さんが部員に開催を持ちかけ、実行委員会のメンバー4人が中心となって1カ月前から準備を進めた。
「大人よりも近い距離感」が強み
どうしたら子どもたちに野球を続けてもらえるのか―。部員たちが出した答えは、野球をもっと好きになってもらうことや、野球から得られるものを伝えることだった。委員長の立木麻寛(ついき・まひろ)さん(2年)は「大人よりも近い距離感でできるのが僕たちの強み」。子どもたちと話す時はかがんで目線を合わせ、教室中に100回ハイタッチする目標も立てた。

アップを兼ねて行われたサークル鬼ごっこ。メニューには遊びの要素も取り入れた
プレーで競技の魅力を伝えるとともに、閉会式のあいさつでは「野球を通してできた友達を大事にしてほしい」と呼びかけた。技術や勝ち負けだけではない、野球で得られたつながりは一生の財産になると知ってほしかった。「楽しかったか?」「また来たいか?」と尋ねると、元気よく手を挙げて応えた参加者たち。立木さんは「子どもたちが素直に楽しんでくれて、自分たちも童心に返って楽しめた」と充実した表情で語った。
野球教室がすぐに問題解決につながるわけではない。それでも、今後も豊多摩は草の根の活動を続けていくという。「野球部の新しい伝統になってくれれば」と立木さん。地道な努力の積み重ねが、きっと未来を切り開くきっかけになる。
スポーツ庁から表彰受けた「教室」も
高校球児による野球教室は全国的に広がり、工夫を凝らした取り組みもある。岐阜・大垣北高硬式野球部は2023年から2、3週間に1度、地域の小学生に野球だけでなく勉強も教える「大垣北Jrベースボールラボ」を開いている。
部員がアイデアを出し合い、他部を巻き込んで活動することも。体力テストが近づくと50メートル走や立ち幅跳びの練習をしたり、陸上部員が加わって走り方やトレーニング法を指導したりもする。毎回50人以上が参加し、延べ1500人を超えた。

笑顔で記念写真に収まる高校球児と児童たち
スポーツ人口拡大に貢献したとして、2024年3月にはスポーツ庁から表彰を受けた。近藤健二監督は「小学生に教えることで選手は言葉の引き出しが増え、視野が広がった。パフォーマンス向上にもつながっている」と相乗効果を口にする。
競技団体も志ある球児たちを支えている。東京都高野連は2019年度から、子ども向けの野球・ティーボール教室の実施を希望する学校に道具の貸し出しや助成金支給などをしている。2024年度は豊多摩高を含め、昨年度より13校多い39校が都高野連の支援を受けて開催する見込み。他にも高校独自や、自治体と協力して野球教室を開くケースもある。
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