里親として6年育てた娘と突然の別れ 児相が委託解除、面会交流も不成立に 再び会える日信じて
「おとうさんおかあさんすき」と書かれた下敷き
「こんなのまで捨てられなくて。バカみたい…」
50代の女性は娘宛てに届いた学習塾の案内をいとおしそうになでた。学習机の上には、幼い文字で「おとうさんおかあさんすき」と書かれた下敷き。本棚にぎっしり並べられた絵本、ぬいぐるみ、パズル…。娘のぬくもりが残る部屋を片付けられずにいる。
「自分たちに子どもはいないけれど、親から愛情たっぷりに育ててもらった。同じことをしてあげたい」
そんな思いで里親登録し10年前、当時3歳だった娘を迎えた。こだわりが強く赤ちゃん返りが激しかったが「覚悟をもって預かったのだから」と向き合い続けた。近所の人も家族を温かく見守ってくれ、娘は自転車で15分の距離に住む40代の夫の実家にも頻繁に泊まりに行った。
娘が「捨てられた」と思っていないか
突然の別れは2016年12月。娘のためにと引き受けたPTAの仕事と親の介護が重なったうえ、娘が小学校でいじめられ登校を強く渋るようになったことにも悩んでいた女性は、PTAの懇親会から帰る途中、発作的に川に飛び込み、入院した。
5日後、都の児童相談所は娘を一時保護した。女性は一過性の適応障害などと診断され、1カ月後に退院。医師は児相に「通院や服薬は必要だが、養育は可能」と説明したが、児相は里親委託を解除し、娘は児童養護施設に預けられた。
「○ちゃんにあいたいでしょ?だからしぬのはだめ」。娘は一時保護される前日、母親宛てに手紙を書いていたが、手紙のやりとりを児相に禁じられ、返事は出せていない。「娘が『捨てられた』と思っていないか。つらい思いをさせて、会えたらまず謝りたい」と自分を責める言葉が口をつく。
委託解除の取り消し求めたが、却下
行政不服審査法に基づき委託解除の取り消しを求めた審査請求は、申し立てる資格がないとして却下された。面会交流を求める調停も不成立に終わり、夫婦は昨年11月、都に慰謝料の支払いを求めて東京地裁に提訴した。児相は娘本人の思いを尊重しているのか-を問うためだ。
都福祉保健局の担当者は取材に「個別のケースについては答えられないが、児相は子どもの意向や里親との関係などをみて総合的に判断している。違法性はないと認識している」と話した。
児相は寄り添う努力尽くしたか 日本大・鈴木秀洋教授
「治ったら会えたら良いなってずっと考えている」「(里父母宅で)ずっとニコニコしていられた」-。女性は都側が提出した書面から、娘がそう職員に話していたことを知った。「娘のことを忘れたほうが楽。でも、あきらめたくない」と思いを募らせる。
訴訟で都側は、女性が真冬の川に飛び込み適応障害などと診断され、一年間の通院と服薬を要するとされたことから、女性の心身は健全でなく養育に差し支える状況と判断したと主張。面会交流を認めないのは女児を混乱させる恐れがあるため、などとした。
日本大の鈴木秀洋准教授(児童福祉行政)は里親制度を「葛藤や衝突などの中で、寝食を共にしながら時間をかけて互いの信頼関係と絆を築いていくもの」と説明。「児相は伴走者として、親子に寄り添うことが求められる。今回は児相がその努力を尽くしたのか」と疑問を呈する。
委託解除の取り消しを求める審査請求が却下となった点は「家族として長く暮らしたのに、一方の判断で、お別れさえできず交流を禁じられても申し立てる権利すらないのは制度の不備。里親の申し立て権や意見表明権などを児童福祉法で明確に位置づけることは、国が掲げる里親委託推進と不可分だ」と指摘した。
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