3児を育てるシングルマザー、目指すは空手日本一 「シングルも年齢も関係ない。やればできる」
小学2年で始めた空手 帝京大で全国制覇
道着を着て、構える。視線は鋭い。それだけで空気が張り詰める。「観空小(かんくうしょう)!」と叫んだ瞬間、次々に技が繰り出された。突き、蹴り…。切れ味鋭い技の数々は目にもとまらない。
兄の影響で小学2年で空手を始め、すぐにのめり込んだ。中学2、3年の時に全国大会の団体戦に出場。高校では2年でインターハイ6位、3年で同5位と好成績を収めた。
全国トップクラスの強豪・帝京大学に進学。厳しい練習に明け暮れる日々も「日本一という目標があり、楽しかった」。4年生で全日本学生選手権を制覇し、世界大会でも優勝した。
子育てで一度は断念…離婚後に復帰決意
2009年に東京消防庁に入庁し、結婚。翌年には長男も誕生し、次の目標を国体出場に定めた。だが、幼子がいる中で練習時間を確保できず、結果は出なかった。「子どもがいるうちは空手はできない」と夢を諦めた。
その後、さらに2人の子宝に恵まれたが、4年前に離婚。1人で子どもたちと向き合う中、何度も壁にぶつかり「子育てに向いていない」と落ち込んだ。子どものために自分に何ができるか。思い浮かんだのが空手だった。「頑張る姿を見て、学んでほしい」。復帰を決意した。
復帰から2年で全日本3位 子どもも応援
朝4時から稽古に励む日々が始まった。子育て優先で練習時間が少なくても「仕方ない」と切り替えた。その分、集中力は高く、失っていた感覚は戻り、体重は10キロも落ちた。
復帰から2年後の2019年7月、東日本の社会人大会で3位に。全日本大会でも3位を勝ち取った。子どもたちだけでなく職場の仲間も喜んでくれた。「周囲の人のために勝てたことが、本当にうれしかった」
その後も日本一を目指し稽古を続けたが、コロナ禍で大会は中止。モチベーションは落ち、引退も考えた。だが長男は「次の大会は優勝できるよ。朝早くからお母さんは頑張っているんだから」と応援してくれた。「優勝する姿を子どもたちに見せてあげたい」。再び心に火がついた。
「シングルも年齢も関係ない。多くの人にやればできるんだってことを感じてもらいたい」。来年の大会が開かれるかはまだ決まっていないが「優勝」の2文字を見据えている。
渡辺由希(わたなべ・ゆき)
足立区出身。10歳の長男、7歳の長女、5歳の次男を1人で育てる。東京消防庁城東消防署予防課に勤務。小学2年から始めた空手を「人生そのもの」と語る一方、「空手だけと思われたくない」と仕事のための資格試験の勉強にも精を出す。
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