岐阜の乳児揺さぶり訴訟、母に無罪判決「ソファから落下の可能性」 相次ぐ無罪に揺らぐSBS理論 「逮捕から3年以上。時間を返してほしい」
乳幼児揺さぶられ症候群(Shaken Baby Syndrome)とは
首の筋肉が未発達の赤ちゃんが強く揺さぶられ、嘔吐(おうと)やけいれん、呼吸困難などの症状が生じること。後遺症として失明や四肢まひ、言葉の遅れ、学習障害などがあり、死に至ることもある。
SBSを巡る裁判で争点となる症状は、硬膜下血腫と脳浮腫、網膜出血の3種類。硬膜下血腫は外傷などで脳が出血し、脳が圧迫されて意識障害などが起こる。脳浮腫も同じ原因で脳が腫れたような状態になり、意識障害やけいれんなどを引き起こす。網膜出血は、外部の衝撃などで眼球内の血管が破れて出血した症状をさす。
SBS理論を根拠にした検察の主張を認めず
出口博章裁判長は判決理由で、当時、長男に確認された急性硬膜下血腫と網膜出血、脳浮腫の3症状について、「ソファからの落下で生じた可能性は否定できない」と指摘。これら3症状があれば激しい揺さぶりがあったことを推定するSBS理論を立証の柱にした検察側の主張を退けた。
弁護側証人の脳神経外科医の意見の多くを採用し、高さ約35センチのソファからの低位落下でも急性硬膜下血腫は生じ得ると指摘。網膜出血と脳浮腫は落下後の心肺停止などで生じた可能性があるとし、弁護側の主張をほぼ全面的に認めた。
検察側は、寝返りできない長男が自力で落下するはずがないなどと主張していたが、出口裁判長は、長男が足で床を蹴って移動することがあったことから「(ソファからの落下は)あり得ないほど不自然とは言えない」と退けた。
浅野さんは、長男の体を激しく揺さぶり頭に強い衝撃を与え、回復の見込みがない重症心身障害を負わせたとして、2017年5月に傷害容疑で逮捕され、翌月、起訴された。浅野さんは夫と長男の3人暮らしで、当時は自宅で長男と2人きりだったとされる。大垣市内の祖母に「長男がソファから落ちた」と連絡。長男を診察した病院が「虐待の疑いがある」と県警に通報した。浅野さんは逮捕当初から揺さぶりを否認していた。
判決を受け、岐阜地検は「上級庁と協議して対応を検討する」とコメントした。
2014年以降、18件目の無罪判決 低い位置の落下でもSBSと同じ症状
◆「科学的に疑問がある理論への依拠は危険」
弁護団によると、無罪判決は2014年4月の広島地裁を皮切りに、今回で18件目となった。SBSの問題に詳しい甲南大の笹倉香奈教授(刑事訴訟法)は「妥当な判決」と評価。低い位置からの落下でもSBSと同じ症状が出ることは、これまで裁判や学会で認められており「科学的に疑問がある理論に依存するのは危険だ」と警鐘を鳴らす。
笹倉教授によると、SBS理論は英国と米国から広まり、日本では2000年代から刑事事件での立証に用いられるように。しかし、このころ既に欧米諸国の学会や裁判で疑問視されていた。
◆通告をためらう可能性「現場は萎縮しないで」
一方、理論が揺らぐ現状に複雑な考えを示す人もいる。虐待に詳しい医師は無罪判決が相次ぐことで、虐待が疑われる子どもを診察する医師が児童相談所への通告をためらう可能性を懸念。「物言えぬ子が家庭で命を落としたり障害を負ったりしているのは事実。子どもを守るために福祉や医療現場は萎縮しないでほしい」と語った。
厚生労働省は2013年、「子ども虐待対応の手引き」に、子どもに転倒や転落、原因不明の硬膜下血腫が診断された場合、SBSを第一に考えるよう促す内容を加えたが、現在、手引の見直しを進める考えを示す。
弁護団の秋田真志弁護士は「厚労省が、中立的な立場を確保して冷静に検証していくかが大切だ」と求めた。
息子と離ればなれの母親「これからは堂々と会いに行ける」
「裁判に長い時間がかかったことは申し訳なかったと思います。これからは家族との時間を大切にしてほしい」。出口裁判長は無罪判決を言い渡した後、浅野さんに法廷で語りかけた。浅野さんは震える声で「ありがとうございます」と返し、閉廷後、弁護団に歩み寄り、喜びをかみしめ合った。
浅野さんに傷害の疑いが向けられたのは2016年5月。翌年の5月に逮捕され、当初から一貫して容疑を否認し続け、身柄の拘束は5カ月間続いた。
裁判後の会見で浅野さんは弁護士を通じてコメントした。「逮捕から3年以上がたった。検察と警察には時間を返してほしい思いだ」と胸中を明かした。
長男とは現在、離ればなれに暮らし、面会が制限されてきた。「これからは息子にもっと堂々と会いに行けることがたまらなくうれしい」と思いがあふれた。
会見で秋田真志弁護士はSBSを立証に用いた裁判で近年、無罪判決が相次いでいることに触れ「理論を否定されても一度通説とされたSBSから離れようとしないでいる」と捜査手法を批判。「根本的な見直しが必要だ」と訴えた。
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確かに、虐待を防ぐために、症状から疑う、というのは必要かもしれません。
問題はその後の事で、「疑う」というよりむしろ最初から症状からのみの「断定」しか選択肢なく親子を分断・逮捕・起訴・有罪判決と自動的に進んでいってしまう事です。
しかも、せめてきちんと診断してくれれば良いですが、専門外の医師が逮捕の決め手となる症状の鑑定をしているために、CTの読影を誤っていたり、病気を見落としていたりと、そもそものSBSを疑う兆候である「三兆候」自体を誤って判断しています。
そしてそのような事は、公判になって、専門である脳神経外科医の証言でやっと明らかになるのです。
専門外でも適当にコピペのような、「SBSによる虐待」と断定した鑑定を書いてくれる同じ医師を選んで逮捕に踏み切っているとしか思えません。
虐待を防ぐために、これから虐待されるかもしれない、まだ名前も分からない誰かのために、名前も住む場所も親もいる「子供」が、杜撰極まりない鑑定や診断で犠牲になっている事実もある事を、どうか真っ直ぐに受け止めて欲しいと願います。
大事な子どもが病気やけがをしないように、事故にあわないように日夜気をつかうことは子育て家庭ではきわめて重要なこと。うちでは絶対に事故は起きないぞ、絶対にけがをさせない自信があるぞと言ってその通りになればよいが、不運にも事故が起きてしまうことだってある。子どもが頭を打ってしまい、病院に連れて行ったら、まったく身に覚えがないのに虐待を疑われ、突然、親子分離(行政処分)させられ、刑事事件として取り調べを受け、逮捕、起訴され、刑事被告人となり長い裁判に・・・ これではやりきれない。
けがが虐待によるものかどうかという、きわめて重大な診断や判断を現マニュアルは3条件そろえば虐待と判断してよいというSBS理論を第一にしなさいとしてきた。その結果どうなったか。
日本の刑事事件では起訴されれば99.9%有罪。それなのに2014年以降18件の無罪判決。低位置からの落下でも3条件が起きる可能性があるということ。これは表に出た数。その背後に今回と似たように疑われたケースがどれだけあるかわからない。
厚労省のマニュアルは、早々に見直し、SBS理論や特定の医師の判断でなく、脳の専門医である脳神経外科医や読影の専門家を加えた幅広い専門家チームで慎重に診断や判断していくシステムづくりが必要ではないか。
ニュースにしていただきありがとうございます。無実の人が起訴されたら無罪になるのがどんなに大変で過酷なのかお子さんの事故から4年以上も疑われるなんて、やり場のないやるせない気持ちで一杯です。
SBSには、科学とは何か?医学とは何か?福祉とは何か?刑事司法とは何か? 様々な問題が詰まっていると思います。家庭内の事故や病気なのにSBS(AHT)と間違えられたり疑われて大人が逮捕・勾留・起訴されたり有罪にされたり、子どもが家庭から引き離されたり…
医学が進歩する為には正しく起こった事を観察し仮説をたてて検証する作業の繰り返しは重要だと思います。
福祉においては虐待を見逃さない為には通告が必要なのは分かります。今回のニュースから話がそれるかもしれませんが通告を受けた側の対応には疑問です。疑いや恐れがあるからと養育困難ではない家庭やケア(支援)で対応出来る家庭の子どもまでをも一時保護してしまうのはいかがなもなかと(社会福祉の研究者の篠原拓也氏のうけうりですが)。
刑事司法では検察がどうして内科医を証人にしたのか謎です。虐待問題に取り組んでいて詳しいと思われているからなのかもしれませんが頭の中の症状の専門家ではないのに。
家庭内の転倒や落下の危険性を広く知って欲しいです。知っていれば(救急隊員を含めて)もっと早く適切な処置が出来る医師にたどり着いてお子さんの予後が違っていたかもしれません。知っていれば防げた事故かもしれません。
引き続きこの問題を追いかけていただけますと嬉しいです。よろしくお願いいたします。