「家庭保育」ってどんな感じ? パイオニアのエスク・名木純子さんに聞く

神谷円香
 4月からの育休復帰に向けての準備を進める時期。認可保育所に入れなかったり、勤務時間の都合などで保育所だけで対応できない場合、厚生労働省の事業「ファミリー・サポート・センター」など「家庭保育」の利用を検討している家庭もあるかもしれません。ファミサポのモデルになったのが、創業46年の家庭保育「エスク」(東京都大田区)です。新年度を前に、エスクの創設者で代表の名木純子さん(80)に、「家庭保育」という選択肢や大切にしてきた地域づくりについて聞きました。

家庭保育の意義を語る名木純子さん

―エスクはどんな仕組みですか。

 子どもを預けたい、預かりたいという両方の家庭に登録をしてもらい、エスクで双方をつなぎます。保育は預かる側のサポート会員の自宅で行うのが基本です。1973年の創立以来、地域での口コミなどで会員を広げ、会員は現在約6万世帯。サポート会員はこのうち10分の1、創立15年目くらいから比率が安定しています。子どもを預けていた側がサポートする側になることもありますし、預ける側、サポートする側両方で登録している人もいます。サポート会員は有償ボランティア、という位置づけです。保育中の事故などに備え、エスクが保険に加入しています。

 初めは本部でマッチングをし、2回目からは直接会員同士でやりとりをしてもらいます。もし、うまくいかなくなったらまたマッチングを考えましょう、と伝えています。個人情報保護の観点などから、情報を断絶する方に社会は向かっているけれど、私たちは逆に情報をオープンにして、つなぐ方向です。そうしているうちに、それぞれの人の自主的な思いも育ってきますし、そういう人間らしい付き合い方が広がれば、ほっとできる地域になるのではないかと思ってやってきました。互恵的な関係を常につくっていれば、広がらないわけがない仕組みです。

―この春も認可保育所に入れず困っている家庭があります。

 毎年、「保育が必要」という実績を行政に示すために、3カ月とか短い期間エスクを利用して、受託証明書をほしい、という保護者がいます。私は、0~2歳の時期は、集団保育よりも、家庭保育の方がいいと思っています。保育園は病児保育はできませんが、私たちは熱があっても家族のようにお世話をできる利点もあります。

 第一世代のワーキングマザーは子育てをおばあちゃんに手伝ってもらえた。第二世代である今のお母さんたちは、おばあちゃんも現役でワーキングおばあちゃん。家庭生活のお手本がなくて生活モデルのないまま大人になり、結婚して「さあ子育て」となった時、困難に直面してしまいます。もっと家庭の中にいろんな年齢の人がいて、いろんな仕事を分かち合っていいと思います。

 私は核家族じゃない家庭に育って本当に良かったと思っているんです。小学校低学年のころから、お風呂のまき割りもしていましたよ。家庭の中の仕事に子どもの手伝いがあり、役割もあった。私はできるけど弟はできない、お姉さんのプライドもあったり。弟や妹が行くお使いは親しいところ、初めてのお宅は私と。家族の中の役割を、いろんな生活のバリエーションで覚えてきたけれど、そういう機会が今は無くなり画一化しています。

 エスク創設者の名木純子さん

―エスクで目指している保育とはどんな保育ですか。

 子どもの成長に必要なのは、無条件に信頼して大丈夫、という関係性です。人がつくられるプロセスは基本的には家族の中にある。そこから出発していって、安心できる、信頼できる、確信の持てる関係性の中で子どもを養育しなくては。今はまず人を疑うことから始める安全教育もあるけれど、子どもの心を育てる上ではとてもマイナス。信頼できる大人が少なくなるというのは、子どもは心の根っこを深くしろと言われてもやりようがないでしょう。人は人との関わりの中でしか育たない。愛着関係を結ぶ大人は、本当の親じゃなくてもいいんです。信頼できる大人がいてくれればいい。ただ特定の誰かでなくては、子どもは心を寄せて安心することができません。

―働く女性が増えた今、育児などで家庭に入る女性から「肩身の狭い思いをしている」との声も聞かれます。

 「家庭の時間」イコール「お休み」というのは違います。家庭には家庭の機能があるわけじゃないですか。だから私は昔から、子育てや介護で家庭に入る女性の「社会的な生産性」を保障しなきゃいけないと言ってきました。せめて育児休業や介護休業を取る人が経済的な面で安心してそうしたケアに専念できるよう、企業が給与保障をすることなどが必要です。

 そもそも、家庭内の労働が人をつくるうえでどれだけ大事な仕事かという点が見過ごされています。家にいると働いていない、と理解されるのはおかしい。これからの社会はもっと、家庭内労働の重要性に目を向けなくてはなりません。

 

エスク創設者の名木純子さん

―個々の事情に応じて、外で働く、家庭に入るなどそれぞれの選択ができる社会がいいと思います。

 企業などで働くのではなくても、何か人の役に立ちながら、自分も潤っていければという人たちの思いをすくい上げたのが私の考えた有償ボランティアです。家庭の中に生産性があればいいと思ったんです。

 子どもを預かる側の家庭には、外で働く女性たちの情報も入ってきて刺激になっているようですし、預ける側の親が「本当はこういうこともしてあげられたら」と思っていることを聞き、やってみようと保育に取り入れていくこともあります。子どもにとっても、本当の親の他に育ててくれる大人と濃い関係を結ぶことができ、思春期など難しい年頃になった時、親には話せないことも話せたり、といった事例もいくつも聞いています。地域の中で、心配してくれる人がいっぱいいれば、子どもは非行に走りにくい。「違う」ことでお互いが学び合う、それをすり合わせて地域が豊かになっていく。エスクをやってきて実感していることです。

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