〈反響に応えて〉「保育士の虐待」にコメント多数 現役園長に解決へのヒントを聞きました

 保育施設での保育士や職員による虐待など不適切な保育の実態を紹介した記事(「保育士の虐待『見たことある』25人中20人」「保育士が明かす虐待の実態」)に「自分も虐待を見た」「人手不足や業務の過密が背景にある」などの60件を超すコメントが寄せられました。保育士の配置基準の見直しや、待遇改善など抜本的な対策が重要ですが、日々の保育を担う現場は待ったなしです。NPO法人「こども発達実践協議会」代表理事で、東京都内の私立認可保育園で園長を務める河合清美さん(46)に、寄せられたコメントを読んでもらいながら、保育の質を高めるために現場でできる工夫について聞きました。

東京都内の認可保育園園長の河合清美さん

①虐待が日常茶飯事…「吐いても食べさせる」「低い声で怖がらせる」

 同僚保育士が子どもをたたいたり、怒鳴ったりしている姿を見聞きしたという声が多数ありました。「毎日虐待を見ています」というショッキングな意見も。河合さんは保育士が正しい知識を持つことの重要性を指摘します。

<コメントから>
・保育園で働いている。吐き出したくて投稿した。給食を詰め込むのは当たり前。吐いても食べさせる。時間内に食べ終わらないと外遊びにも行けず、時には倉庫の中で食べさせている。おもらしをしたら、大声で怒鳴る。お遊戯会の練習は、2歳児でも泣きながら踊っている…。

・(同僚が)何もしていない1、2歳児に低い声を出して度々怖がらせて泣かせる。自分が近づいて泣くと「なんで泣くの?」と笑う。子どもに良くない事だと思ってもいない。

・5歳児が午睡したくないのに無理やり横になるよう強要して、おしっこ行きたいと言ったのに「眠くないから嘘だ」とトイレへ行かせず、結果お漏らしした。自尊心もズタズタ。

・夕方の集団保育。お茶の時間にみんなと同じに座れない、うろうろしていた、言ってもきかないからと0歳用のケージの中に1歳児が罰として入れられた。

・私も毎日虐待を見ています。2歳児に怒鳴る、突き飛ばす、引っ張る、たたく、閉じ込める、疎外する、キライ!と平気で言う、0歳児、1歳児に怖い声で脅すなどなど。園長に言っても「私は見てないからわからない」。見てる時でも、知らぬふり。

子どもに100%は求めない 「保育指針」がヒントになります 

<河合さんのアドバイス>

 全体的に0~2歳の年齢の低い子に対するイライラと、3~5歳の保育の中での焦りに、悩みが分かれている印象です。

 0~2歳児に対して「行動の意味が分からない」「なんで〇〇しないの!できないの!」と言ってしまう状況からは、子どもの自己主張を”わがまま”とみてしまい、成長の途中の大切な過程なのだという知識が保育士側にないことがうかがえます。

 3歳児以上になると、「〇歳ならこんなこともできるはず」「みんながやっている」と子どもの発達や意欲に関係なく、自立をせかしていら立っている保育士が多いように思います。

 いずれにしても力任せに子どもを思い通りにしようというのは、保育士の力量不足です。

 全国どこの保育園でも一定の水準を保つために、国が保育内容や、基本的な考え方をまとめた「保育所保育指針」があります。

 これは保育の基盤となるものですが、現場の保育士、保育者が意外と読んでいません。2018年4月に10年ぶりに改定された指針では、増えている乳児保育についての項目が厚くなりました。とくに0歳児、1歳児、2歳児保育は、「愛情豊かに、応答的に関わる」「受容的に受け止める」ことへの記載が繰り返されています。一方的に怒ることは応答的な関わりとは言えないですよね。

 指針には、日々の保育を客観的にみるヒントがあります私自身も保育で悩んだときに読み、子どものどんな力を育てたいのかを整理することができました。園長クラスでは研修などで指針を読む機会がありますが、現場の保育士の皆さんもぜひ読んで、自身の保育を振り返ることに活用してほしいと思います。

 それから、子どもに100%は求めないこと。子どもをたたいたり蹴り飛ばしたりしたくて保育士になった人はいないと思います。一生懸命にやっているのに、子どもが応えてくれない…とイライラしてしまいます。そういう時は「ベストは尽くすけど、結果は3割で十分」と思いましょう。子どものどんな力を育てたいか、そのために保育者はどうあるべきかという保育の原点に立ち返ることが大切です。

②忙しすぎる保育現場…「歌の練習しない子に飛び蹴り」「余裕なくて怒鳴る」

 虐待や不適切な保育が起きる背景に、過重労働による保育士の余裕の無さを挙げる意見も目立ちました。河合さんは思い切って行事などを減らすことも提案します。

<コメントから>
・昔に比べて、しなくてもいい業務が多いので必然的に子どもたちに悪影響が出ている。

・保育施設でパートとして働いている。0歳児担任の先生は、どうにかして集団としてまとめようと必死がゆえに、子どもの手を引っ張ったり、子どものおでこを手で突き飛ばしたりする。過酷労働が日常となると、虐待まがいなことが起こるような気がする。

・年長児。行事のための歌の練習中、ふざけていた男児に向かって、若手男性保育士が「ふざけんじゃねえよ」と飛び蹴り。

・園長が職員のマネジメント、まとめる力がないと子どもに影響がいく。

・保育園で働いているとき、怒鳴る職員は多いと感じる。人手不足が原因で1人で多数園児を見るだけでも大変なのに、園児が1人でも違う行動をすると危険なこともあるし、自分の余裕のなさに怒鳴って言うことを聞かそうとしてしまう職員は多いと思う。

行事は誰のため?「やらない」判断も必要です 園長はマネジメントを学んで

<河合さんのアドバイス>

 最近の保育園では、日々の保育に加え、行事の多さ、行事への保育士のプレッシャーが大きいと感じています。保育目標に対して、日々の保育と行事をどう位置づけるのか。行事は何のためにやるものなのか、振り返り、整理しましょう。

 重要なのは、「子どもがやりたいことなのか」「大人がやらせたいと思っていることなのか」という視点。親が行事に期待し、保育園も親の期待に応えようとすると、見た目の華やかさや、子どもの発達に見合わない成果が求められる。その状況では保育士も追い込まれます。園長が「子どもがやりたいことでないのなら、やらない」と判断することも必要です。大切なのは「何をするか」より、子どもたちに「どう関わるか」なのです。

 このように、園長や主任など上の立場の保育士は、保育士たちが働きやすい職場をつくるためのマネジメント力が問われる時代です。子どもの権利や発達、マネジメントを園長が学び続けていかなければ、保育士も定着しないでしょう。

 若手保育士は、園長や主任の方針と自分の考え方が違うこともあると思います。時には自分の価値観、保育観を信じて「無視する勇気」を持ちましょう。どうしても上の方針に納得がいかなかったら、保育園の外に交流や研修の場を求めてみることも有効です。

 SNSなどでも同じ問題意識の人とつながれる時代。例えばツイッターで「保育士」「園長」と検索すると、保育の問題点や経験をふまえた解決法を発信している人もいます。私自身もツイッター経由で若い保育士から相談が来ることがあります。悩みを抱え込まず、言える先があるだけでもグッと気持ちは楽になると思います。

③虐待を見ても言えない…「おびえた表情がトラウマ」「子どもに申し訳ない」

 虐待を見聞きした保育士らの中には「その場でおかしいと声を上げられない自分も悪い」「トラウマから保育園で働けなくなった」と悩む人もいました。保護者の立場では「ようやく入れた保育園で、子どもは人質。言い出すのが難しい」という声もあります。河合さんは「1人で抱え込まないで」とアドバイスします。

<コメントから>
・(我が子が)半年ほど保育園に行きたがらないので、疑問に思ってあえていつもより早く迎えにいくと、おやつを食べない他の子の服を先生が引っ張って、口におやつを詰め込んでいた。(中略)びっくりして、その時何も言えなかった。

・50代潜在保育士。保育実習を含め東京都内5園のうち4園で不適切な保育に遭遇した。園児の悲痛な泣き声やおびえた表情がトラウマになり、保育園勤務ができなくなった。

・その場でそれはおかしいと声をあげられない自分も悪い。子どもたちに申し訳ない。

・(虐待などを)何度も見たことがあって、その度に自分のやりたい保育ができないと思って転職する。何か事故が起こった場合、一緒にされたくないっていうのも転職の理由。

・2歳の子どもの背中をたたいて、「あんたゆるさんけんね」と言って泣かした先生を見た。こんな保育士がいて良いのか。私は、園長と主任に話してその保育園を辞めた。他にもたくさんあった。

抱え込まずに「話して、放す」 相談するなら園長→運営元→行政の保育課

<河合さんのアドバイス>

 「同僚保育士が虐待している」「我が子や他の子がたたかれているのを見た」。

 そんな時、私は「話して、放す」ことを勧めています。黙っていると自らの良心を痛めてしまいます。まずは園長など責任のあるところに相談しましょう。園長自らがパワハラや、皆の前で怒鳴るなどの心理的虐待をしている場合、社会福祉法人や企業の保育園なら運営元に伝えましょう。園で解決しない時は、監督権限のある行政の保育課などに相談することもできます。

 親が我が子への対応で改善を求める時、言いづらいと感じることもあるかもしれません。でも、園には虐待などの禁止・防止の義務があります。(「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」9条2)。きちんと伝え、対応してもらいましょう。

 伝え方としては、「もしかしたら私の見間違いかもしれないですが」「園長先生がご存じならいいのですが」「うちの子も何か悪いことをしたかもしれないのですが」と付けるだけで、その後の話し合いがスムーズになることもあります。

寄せられたコメントは、氷山の一角だと思います

 「東京すくすく」に寄せられたコメントは、日ごろ誰にも言えずにいる人の氷山の一角だと思います。虐待や不適切な保育は、小さな芽の時期に摘むことが大切です。「もしかしたら虐待かもしれない」という段階で動けば、止められることもあるはずです。

河合清美(かわい・きよみ)

 保育士歴25年。現在、東京都内の私立認可保育園園長。保育の楽しさとともに、知識や技術を伝えたいとの思いで2016年にNPO法人「こども発達実践協議会」を設立。東京、神奈川近郊で保育者向け研修会などを開いている。同法人のホームページはこちら

 

 保育現場での虐待について、東京すくすくでは今後も取材を続けていきます。虐待などの実例とともに保育現場での改善の経験、工夫など、ぜひ情報をお寄せください。取材を受けてもいいという方はこちらから連絡先をご記入の上、ご投稿ください。

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コメント

  • 退職した園の卒園児に、○○先生(わたしのことです)は泣くほど嫌だったのに無理やりおかずを口に入れた、虐待した保育士、怖かったという話を人を挟んで聞きました。 自分のしたこととはいえ、その子は保育
    とと --- --- 
  • パートで働いています。 暑い中公園に行ってボール遊びをやってきました。暑い外からクーラーの効いた部屋に帰って,ビショビショビショの洋服を着替えようとしたら、汗がひいたら着替えるのでそのままでいい
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