「こども庁」創設に必要なものは? 議論本格化も「財源の裏付け」「縦割り解消の難しさ」が課題に
自民党の提言 子ども視点の政策を「骨太の方針」へ
こども庁の創設は、政府が6月に策定する経済財政運営の指針「骨太の方針」に趣旨が盛り込まれる見通し。これに先立ち、自民党は今月中に首相(党総裁)直轄の「『こども・若者』輝く未来創造本部」で具体案を緊急決議としてまとめ、政府に提出する考え。
自民の具体案となる緊急決議案では、子どもの視点や目線に立った政策の強化をうたい「成長過程の全体について、国としての責任の所在を明らかにし、予算や人材といった資源を思い切って投入する」と明記。省庁横断の政策推進を可能にするため、予算も含め一元的に整理・把握する「強力な行政組織を創設する」とした。
ヤングケアラーを支援 しかし「幼保一元化」には触れず
新組織で早急に対応すべき課題として、子どもや子育て世帯にかかわる孤独・孤立問題、経済的な格差問題を挙げた。具体策として、国の調査などで約十万人に上るとされるヤングケアラーの相談・支援体制の充実、児童相談所をはじめとする福祉分野の人員・体制強化、子どもを性犯罪から守る仕組みの導入などを盛り込んだ。
未就学児に関しては、担当省庁が異なる幼稚園、保育所、認定こども園を統合する「幼保一元化」には触れず、小学校入学までに生じる学力格差「小1の壁」解消を重視する姿勢を打ち出した。
予算確保を巡っては、国内総生産(GDP)比3%超の英国などを念頭に「子ども政策への支出を欧米並みに大幅に拡充する」と記した。
[元記事:東京新聞 TOKYO Web 2021年5月26日]
水面下で主導権争い どこが政策遂行を担うのかは不明瞭
コロナ禍 深刻な子どもの貧困
「子どもの部活動の費用が出せない」「1日1食にして学費を捻出している」
子どもの貧困対策に取り組む公益財団法人「あすのば」(東京都港区)に届く声は切実だ。コロナ禍の今年3月、卒業・入学の時期に合わせた同法人の子育て世帯向けの経済支援制度には、過去最多の8300人が応募。原資となる寄付金を追加で募ったが、給付できたのは約3000人にとどまった。
小河光治代表は「コロナの流行で、子どもたちがより困っている。国でなければ分け隔てない支援ができない」と声を落とす。
縦割りの弊害 「国でなければ」
政府の子ども政策は分野ごとに所管が異なるため、一体的な対策を講じづらいという縦割りの弊害が指摘されてきた。典型例は未就学児が通う施設で、幼稚園は文部科学省、保育所は厚生労働省、認定こども園は内閣府と三府省に分かれる。ヤングケアラーのように、官庁のはざまに落ちて支援が行き届かない問題も少なくない。
こども庁創設の推進派で、首相に独自の提言を提出した自民党の山田太郎参院議員は「現場の声と課題を集める仕組みを作り、責任の所在を明確にする必要がある」と強調。立憲民主党は「子ども家庭庁(仮称)」設置法案の検討チームを立ち上げた。
権限がなくなる官公庁の抵抗も
ただ、縦割りの解消には権限を引き剥がされる官庁側の抵抗が大きい。与党議員らのもとには、関係府省からこども庁を内閣府の下に置く案や、文科省の外局とする案などが次々と持ち込まれ、水面下で主導権争いの様相を呈した。
結局、自民党の決議案はこども庁の役割を「政策、予算、法令について網羅的・一元的に整理・把握する」ことに絞り、どこが政策遂行を担うのかは明確にしなかった。組織形態の検討は政府に委ねた。玉虫色の決着からは、官庁を再編する難しさもにじむ。
支出拡充の数値目標は明記せず
もっとも、組織の見直しだけで政策を充実させるのは難しい。財源の裏付けが必要だからだ。
国内総生産(GDP)に占める子育て関連支出は、英国やスウェーデンの3%超に対し、日本は1.65%(2018年度)。厳しい財政事情が背景にあり、2022年度に向けて待機児童対策費を確保するため、高所得者向けの児童手当を廃止・減額する「少子化対策内の予算付け替え」(野党議員)で対応した。
自民党は決議案に支出の「大幅拡充」を盛り込んだが、推進派が目指した「GDP比3%台半ば」の数値目標は明記しなかった。財源の制約から、政策の対象年齢に上限を設けるべきだという主張もくすぶる。
あすのばの小河氏は「全ての子どもに光が当たり、(収入や年齢で)線を引かない支援を考える時に来ている」と訴える。
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