保育士を「配置基準の2倍」にしたら…保育の質も働き方も、こんなに改善した 人件費を確保する工夫とは
5歳児23人に担任保育士2人+フリー
「みて、みて。できた!」。初めてくぎを打った子が声を上げ、そばの保育士が笑顔で応える。「保育士が多く、くぎを使うような活動もできるんです」と、運営する社会福祉法人「風の森」統括の野上美希さん(46)はそう話す。
この5歳児クラスは全23人で、ほかの子どもは園庭で遊び、保育士2人が見守っていた。23人の園児に対し、担任の保育士を2人置き、活動中はフリーの保育士が手伝いに入る。
「休憩なし、残業は当然」の現実を見て
国の配置の最低基準では、保育士1人で5歳児30人を受け持てる。76年ぶりの改定で2024年度から受け持ち人数は最大25人に減る。それでも、トイレへの付き添いや見守りを考えると、保育士1人の負担が大きい。風の森の配置は国基準の2倍にもなり手厚い。
野上さんが保育の現場に飛び込んだのは10年ほど前で、幼稚園経営に携わる夫との結婚、出産がきっかけ。目の当たりにしたのは、厳しい職場環境だった。「休憩を取らない、残業は当たり前、有給休暇が取れなくても仕方ない…。子ども好きで熱心な人が多いのに、育児で辞めてしまう。保育士を続けられる仕事にしなければ」と思った。
2013年に法人を設立し翌年から杉並区内で認可保育所を運営する。現在、認可保育所は6園。働き方改革を進め、保育の質の向上につなげた。
SNSで求人→浮いた経費は人件費に
改善の鍵は「現場の観察と工夫」という。開園2年目、職員を1.5倍に増やすと「誰かがやってくれる」と、逆にお見合い状態に。「週休2日、60分の休憩、残業なし」と目的を明確にして人を置いた。研修や職員間のやりとりが減った時は、職員をさらに増やして学ぶ機会と情報共有の時間を設けた。「保育士がどう働き、豊かな保育につなげるか」を考えた。
ネックは保育所運営費だ。基本は園児数などを元に決まるから、保育士を増員すれば、1人当たりの給料は減りかねない。そこで、都や区の補助金を最大限活用。年間数千万円を求人に使う大手事業者もいる中、SNSで広報し、2023年の中途採用倍率は14倍に。浮いた採用経費も人件費に還元する。
他園から移り実感 子どもに向き合える
「目の前の子ども一人一人の成長発達に何が必要かを考える余裕ができた」。他園から移ってきた保育士(45)は実感する。
東京都の実態調査(2022年度)によれば、退職を考える理由の上位は「給料が安い」「仕事量が多い」「労働時間が長い」。そんな現状を変えたい。運営する社会福祉法人「風の森」のウェブサイトにはこう掲げている。「保育士は一番幸せな仕事です」。
この記事に「具体的な方法を知りたい」などと多くの質問が寄せられました。手厚い保育の実現のため、どんな工夫をしているのか。詳細を改めて聞きました。
◇保育士に優しい「配置基準の2倍」杉並の認可園が実現できた理由とは 都と区の補助制度をくまなくチェックしフル活用(2024年3月25日)
保育士の配置基準
保育士1人で受け持てる園児数で、1948年に国が定めた。1998年に0歳児「6人」を「3人」に改善してから改定がなかったが、政府は2024年度から3歳児「20人」を「15人」に、4、5歳児は「30人」を「25人」に改定する方針。1、2歳児は6人で、政府は1歳児も25年度以降の改善を検討している。保育所に支給される人件費にこの基準が反映される。
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