保育士に優しい「配置基準の2倍」杉並の認可園が実現できた理由とは 都と区の補助制度をくまなくチェックしフル活用

(2024年3月23日付 東京新聞朝刊に一部加筆)
 国基準の2倍の保育士を配置している認可保育所を1月の記事で取り上げたところ、「具体的な方法を知りたい」などと多くの質問が寄せられた。手厚い保育の実現のため、どんな工夫をしているのか。詳細を改めて聞いた。 
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社会福祉法人「風の森」で統括を務める野上美希さん=東京都杉並区で

5歳児30人に1人→「担任2人+フリー」

 1月18日の記事【保育士を「配置基準の2倍」にしたら…保育の質も働き方も、こんなに改善した 人件費を確保する工夫とは】で紹介した「Picoナーサリ和田堀公園」(東京都杉並区)。取材した5歳児クラスは全23人の児童に対し、担任の保育士が2人いて、フリーの保育士も手伝っていた。

 国の最低基準では、5歳児は保育士1人で30人を受け持てる。運営する社会福祉法人「風の森」統括の野上美希さん(47)は「行政の補助制度を一つ一つ調べて活用している」と言う。

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配置基準より多い保育士が見守る中、工作を楽しむ園児たち

自治体独自 「常勤が1人多いと月40万」

 私立認可保育所の基本の運営費は、園児数などによる国基準に基づき、国と都道府県の負担分も合わせて区市町村から支給される。加えて、都道府県や区市町村の判断で独自の補助制度を設けることができる。

 「風の森」が6つの認可保育所を運営している杉並区は、

  • 区の要件を満たした上で常勤保育士を国基準より多く置くと1人当たり月40万円余
  • 常勤の事務職員を雇うと月29万~31万円
  • 看護師を置くと月43万~52万円

などを加算。これらの活用で、園児のケアの充実や、保育士の事務負担減につなげている。杉並区はこうした補助を「杉並区私立保育所運営費加算金交付要綱」で公開している。

地方よりも手厚い支援 情報を得る努力 

 東京都には、

  • 小中高校生の育児体験を年10回以上実施すると年60万円
  • 保育士実習生を年6人以上受け入れると年80万円

という制度がある。「東京都保育サービス推進事業補助金」というもので、「保育所地域子育て支援推進加算」の項目で補助額などを定めている。

 「風の森」では情報通信技術(ICT)化推進の杉並区の補助金や、男性の育休取得や女性の就業継続への東京都の支援「働くパパママ育業応援奨励金」も申請している。野上さんは「東京は地方と比べ、行政の支援が手厚い。常にアンテナを高くして情報を得る努力と、マネジメントが必要」と話す。

表 「風の森」が活用した制度

賃金は下げずに「残業なし・週休2日」

 こうした工夫で保育士の賃金を下げることなく国基準の2倍の保育士の配置を実現。東京都のウェブサイトによると「風の森」が運営するある園の経験5年の副主任保育士のモデル賃金は、月額29万1100円(2021年度)。厚生労働省調査では、東京の保育士の平均給与(同年度)は残業代込みで月額29万8600円なのでほぼ同水準だ。

 「風の森」は「60分休憩、残業なし、完全週休2日」も掲げる。2023年度の中途採用倍率は14倍だ。

そもそもの問題 国の基準が低すぎる

 補助金や支援は自治体によって制度も申請方法も異なる。保育所にとっては手続きは負担だ。

 全国保育団体連絡会の実方伸子副会長は「制度に詳しい事務職員がいない、保育士の勤続年数の条件を満たせないなどの理由で申請できない園もある」と指摘。「そもそも国の基準が低すぎて、人もお金も足りず、現場が回らない。国基準や運営費の引き上げが必要」と強調した。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2024年3月23日

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