AIで乳幼児のうつぶせ寝を防止 天井カメラで解析&アラーム 保育士とのダブルチェックで命を守る
1億件以上を学習 1台で12人見守り
東京都港区の「にじのそら保育園芝浦」で、0~2歳の園児9人が横になって寝息を立てていた。天井から小型カメラが、様子を撮影している。
AIには、1億枚超の乳幼児の画像を学習させている。撮影した寝姿は、うつぶせ、横向き、あおむけなどと即時に解析。うつぶせ寝が50~60秒続くと、アラームで保育士に知らせる。1台で同時に12人までの見守りが可能だという。
死亡事故の6割にも 8年間で計41件
こども家庭庁によると、2015~2022年の8年間で乳幼児が保育施設で睡眠中に亡くなった事故は計41件で、水遊びや食事中などを含めた死亡事故全体(計65件)の6割を占める。
昨年12月は世田谷区の認可外保育施設で、睡眠中の生後4カ月の男の子が亡くなった。
こまめな記録作業 AIなら自動化も
国などは保育施設に、医学的な理由で医師がうつぶせ寝を勧める場合以外は、あおむけ寝の徹底を求める。睡眠中は、保育士が乳幼児のそばで顔色などを観察し、記録をつけなければいけない。
東京都は、睡眠中の子どもの姿勢や顔色、呼吸の有無などについて0歳児は5分おき、1~2歳は10分おきの確認と記録を保育施設に推奨している。これまでは、保育士が手作業でタブレット端末に各項目を入力していたが、AIを使えば自動的に記録することもできる。
昼寝の時間、寝付けない子を抱っこしたり体をなでたりと保育士は忙しい。にじのそら保育園芝浦の保育士、石川瑞葵(みずき)さん(25)は「記録作業の負担が減った分、子どもたちの世話ができるようになった」と喜んでいた。
保育士が気付かないケースでも発見
AI見守りシステムは、国立研究開発法人理化学研究所(理研)発のベンチャー「リケナリシス」が開発した。名称は「hana-an(はなあん)」。昨年8月、首都圏の各地で導入がスタートした。カメラやタブレット端末、工事費を含めて初期費用は約50万円。月額利用料は園児12人まで1万円。国・自治体の補助金が使える。遠隔管理で、将来は全国への普及を図りたいという。
実際にこのサービスを導入したある保育施設では、なかなか寝付けない園児1人のために保育士が絵本を読み聞かせていたところ、うつぶせ寝を知らせるアラームが鳴った。ほおづえをついて絵本を見ていた園児はいつの間にかうつぶせ状態になって眠ってしまった。保育士は園児と横並びで絵本を読んでいたため、眠ったことにすぐ気付けなかったという。AIの警告が役に立った事例だ。
リケナリシスの大関敏之代表取締役(56)は「保育士が子どもたちにもっと寄り添える環境をつくりたい」と話していた。
「あくまで補助」任せきりにしない
一方で、AIに頼りっぱなしではいけないと指摘する声もある。
大妻女子大の石井章仁准教授(保育学)は「AIはヒューマンエラーを防ぐことに役立つ。ただ、あくまで保育士を補助する道具であり、人間の代わりにはなりえない」。にじのそら保育園芝浦の岩田将悟園長(32)も「AIに任せきりでなく、職員とのダブルチェックで事故を防ぎたい」と話した。
乳幼児突然死症候群(SIDS)
乳幼児が突然亡くなる病気。それまでの健康状態や病歴から予測できず、原因が特定できない。国内の死亡者数(保育施設外も含む)は減少傾向にあるが、2022年も47人が亡くなっている。あおむけより、うつぶせに寝かせたときのほうが発症率が高く、中でも1歳未満はそのリスクが高いとされている。
AIカメラ
撮影された映像をAIで分析する機能を持つカメラ。人の顔や身体の動きなど、特定の画像やパターンを検出し、判別できる。海水浴場の混雑状況を評価してネットに公表したり、ニセ電話詐欺を防ぐためにATMの前で電話をかけようとすると警告音で職員に知らせたりするなど、活用が進んでいる。大量のデータを学習することで状況把握の精度が高まるとされる。
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