もう聞けない、子どもの言い間違い 中でも一番のお気に入りは〈瀧波ユカリ しあわせ最前線〉16

(2025年7月16日付 東京新聞)

瀧波ユカリ しあわせ最前線

ロッテリアを指さして…

 子どもの言い間違いを、めっきり聞かなくなった。中学生だから当然ではある。だけど、もう新しい言い間違いや、面白い言い回しがリリースされることはないんだなと思うと、しんみりとさみしいのだ。

 娘が小さい頃にもっとも多く耳にしたのは、「エベレーター」(エレベーター)や「すくり」(薬)など、音の並びが入れ替わる系の言い間違い。パコター、ヘリポクター、テベリ、ブッコロリ、おぎにり、とうもころし。ロッテリアを指さして「ドスガーバー」(モスバーガー)と言った時は「一個も合ってない!」と笑ってしまった。残念ながら、笑ってしまうと最後、子どもは間違えなくなってしまうのだが。かわいいからいつまでも間違えていてほしいと、子育て中なら誰しも一度は願うだろう。

イラスト:子どもの言い間違い

イラスト・瀧波ユカリ

 地味に好きだったのは「やだなの」(いやだ+なの)。深刻な面持ちで「それは、やだなの!」と拒否するさまは、たまらなく愛らしい。また、娘が顔をしかめて部屋の隅を指さし「あそこに、ほくろがいっぱいある」と言った時は怖かった。見てみたらなんのことはない、「ほこり」だった。

 中でも一番のお気に入りは「ゆーたかようちえん」だ。娘の通っていた「ゆたか幼稚園」では、入園して最初に園歌を習う。その中で「ぼくとわたしのゆーたかようちえん」と音を伸ばすので、娘はずっと園の名前を「ゆーたか」だと思っていたのだ。「あのね、ゆーたか幼稚園でね」と話す娘のあどけなさにしびれながら「ゆたか、だよ」と教えたが「歌を知らないの? ゆーたかが本当だよ」と一蹴されたのも、いい思い出だ。

立場が逆転 今では私が

 また、言い間違いではないが7歳頃、英会話教室の影響で「C.C.レモン」の発音がやたら良くなった時期があった。日本語での会話に突然はさまる「スィースィーレメンッ」。そのてらいのなさがかっこよくて、娘が少しまぶしく見えたものだ。

 本当はいつだって、あの言い方がかわいかったねと蒸し返したい。だけどきっと、思春期の子どもにはいい迷惑。だからひとりでこっそりと、思い出のかけらを慈しんでいる。(今回は本人にコラムに書く許可をもらいました!)

 今では私が「に…にじ、う?」(NiziU、ニジュー)とか「あえすぱ…?」(aespa、エスパ)などと恐る恐るアイドルグループの名前を口にしては、娘から冷めた目で見られる、そんな日々。だけど時々は「あ、それは、せいきまつって読むの」(聖飢魔Ⅱ)と年の功を発揮して、見直されたりもしている。

写真 瀧波ユカリさん

瀧波ユカリさん(木口慎子撮影)

瀧波ユカリ(たきなみ・ゆかり)

 漫画家、エッセイスト。1980年、北海道生まれ。漫画の代表作に「私たちは無痛恋愛がしたい~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~」「モトカレマニア」「臨死!! 江古田ちゃん」など。母親の余命宣告からみとりまでを描いた「ありがとうって言えたなら」も話題に。本連載「しあわせ最前線」では、自身の子育て体験や家事分担など家族との日々で感じたことをイラストとエッセーでつづります。夫と中学生の娘と3人暮らし。

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