「パンどろぼう」の絵本作家・柴田ケイコさんデビュー10年 令和で一番売れている児童書シリーズ誕生のきっかけは1枚の名刺

「パンどろぼう」とシリーズ最新作「パンどろぼうとスイーツおうじ」を手にする柴田ケイコさん=東京都千代田区のKADOKAWA北の丸スクエアで(石橋克郎撮影)

『パンどろぼう』シリーズ 作・柴田ケイコ KADOKAWA
息子のために眼鏡の絵本を書きたくて
-もともとイラストレーターだった柴田さんですが、絵本作家になったきっかけは。
デビューする8年ほど前、当時3歳の息子が弱視と診断されました。親として幼い子どもに眼鏡をかけさせることが心配で、抵抗がありました。保育園でおもちゃにされないだろうかと不安だったんです。そんな子どもや保護者に寄り添える「眼鏡の絵本を描きたい」と思っていました。
また、当時、小学校で読み聞かせのボランティアに参加したり、毎晩、寝る前に子どもたちに絵本を読んだりもしていました。息子たちの存在が絵本作りのきっかけです。
-2016年「めがねこ」(手紙社)で絵本作家デビュー。絵本をつくることは初めてだったと思います。
右も左もわからず、まずは絵本の作り方の本を買いました。イラストの仕事とは全く違うので、勉強しなくてはいけないぞと思いました。また、自分がどんな絵本をつくっていきたいのか学ぶために、いろんな絵本作家さんの絵本を読みました。自分の好きな作品はどんな感じだろうと絵本の構造や展開の仕方などをノートにまとめました。

「絵本作りのきっかけは息子たちです」と笑顔で話す柴田さん
どこの出版社から出せばいいのか、そもそもどのように出版社に持ち込んだらいいのかもわからなかった。お話の作り方もとても難しくて、イラストレーター時代からご縁のある編集者さんへ相談に行きました。
「めがねこ」は当初、主役は小学生の男の子を想定していました。眼鏡をなくしてしまって、みんなで捜し出すというお話だったのですが、「柴田さんが描くなら動物の方がいい」とアドバイスをもらい、動物にしました。ねこの「ね」とめがねの「ね」がつながり、「めがねこ」。タイトルがとても気に入ったんです。物語よりもタイトルが先に決まった絵本です。
-息子さんへの思いからはじまった絵本作りだったのですね。
この絵本は、眼鏡をかける子どもたちはもちろんですが、特に親に読んでほしいと思っていました。目にまつわる本って、なかなかないんですよね。「歯を大切にしよう」という歯の本はあるのですが、目についての本はなかなか見つからなくって。ないからこそ私が描かなくちゃと思いました。
ただ絵本ができあがったのは、息子が小学5年生の頃で、絵本から離れつつある時期でした。だから、少し遅かったんです(笑)。
個展で編集者に渡した名刺が「面白い」
-私も幼い頃から眼鏡をかけていたので、その当時に「めがねこ」があったら良かったなと思います。その後もたくさんの絵本を出されていますが、柴田さんといえば何といっても「パンどろぼう」です。誕生のきっかけは?

『パンどろぼう』作・柴田ケイコ KADOKAWA
KADOKAWAの編集者さんに手渡した名刺がきっかけです。毎年開催している個展で、パンをかぶって逃げているしろくまの絵を発表しました。タイトルは「パンどろぼうの結城さん」。このイラストを自分の名刺にしていて、「面白い」と気に入ってくれました。
その後、打ち合わせをする中で、食べ物をテーマに絵本ができないかという話になり、「パンはどうでしょう?」と編集者さんからアドバイスをもらいました。確かに今まで、パンの絵本は描いていなかったですし、パンで泥棒という絵本はないだろうと思い、練っていき、生まれたのが「パンどろぼう」です。

『パンどろぼう』作・柴田ケイコ KADOKAWA
-1枚の名刺からはじまったのですね。「パンどろぼう」を読むと、どのパンもおいしそうでパンが食べたくなってしまいます。パンを描くのにも何かこだわりがあるのですか?
友人が高知でパン屋さんを営んでいます。どんなふうにパンを作っているのか、道具はどんなものなのかと厨房を取材させてもらいました。パンのこね方なども動画で送ってもらい、たくさん協力してもらいました。

『パンどろぼう』 作・柴田ケイコ KADOKAWA

『パンどろぼう』作・柴田ケイコ KADOKAWA
-読者の中でも人気な場面「まずい」の1ページ。表情がたまりませんね。

『パンどろぼう』 作・柴田ケイコ KADOKAWA
最初の下絵からこの展開にしようと思っていて、構成にも入れ、下絵も描いていたんです。美味しそうなパンが並んでいるのに、ここで違うというなら思い切りまずい顔にしないといけない!と思ったんです(笑)。

-愛らしいキャラクターが出ながらも、テキストも面白いですよね。
読み聞かせをしてきたので、やっぱりリズム感がある文章がいいなと思い、あまり説明しすぎないようにしています。絵と文章でつくられるのが絵本です。子どもはまずは絵を見ますよね。短い文章でリズムよく読んでもらうことを意識しています。
私のお話は主人公たちが何か成長していたらいいなという思いもありますが、最終的にハッピーエンドであってほしいと思って描いています。
素直さと絵本作り筋トレが生きて
-絵本作家になって10年。絵本作りで苦労したことは。
デビュー作は眼鏡で困っている保護者、子どもに向けて、不安を取り除きたいという目的があり描きました。1作目、2作目までは描けたのですが、その後、何を描いたらいいのか、自分が今、何を描きたいのかもわからなくなってしまい、苦労しました。まだ、経験も全然積んでなかったので、絵本作りの筋肉がついていなかったんですね。
でも、依頼があり絵本は出さなくちゃいけなくて、どうしようと思っていました。そんな時は、編集者さんたちに素直に「わからないです」と伝え、アドバイスをいただき、何度も話し合いをしながら描いていきました。大変でしたが、筋トレになりました。

「編集者さんとのやりとりは絵本作りの筋トレになりました」と柴田さん
-柴田さんの素直さと筋トレが作品作りに生きているのですね。絵本を描いていてうれしかったことは。
やはり読者の方からの声が届いた時です。サイン会をすると、お手紙をいただきます。「パンどろぼうが好きです」という子どもたちだけでなく、大人からも熱いお手紙をいただきます。自分で一生懸命描いた「パンどろぼう」のイラストを送ってくれる人もいて、本当に描いていて良かったなと思います。「パンどろぼう」をきっかけに私の他の絵本を知ってくださり、読者が広がっていることがわかるとうれしいです。
-第16回MOE絵本屋さん大賞2023では「パンどろぼうとほっかほっカー」で第1位を受賞しました。2025年も2作受賞されていて、MOE絵本屋さん大賞の常連作家さんです。この賞は書店員さんが決める賞なんですよね。

『パンどろぼうとほっかほっカー』作・柴田ケイコ KADOKAWA
毎年、数え切れないほどの絵本が出ている中で、書店員さんに選んでもらえるなんて、大変光栄なことだなと思っています。書店の売り場に寄ると、大きなポップや人形などを飾り、「パンどろぼう」コーナーを作ってくれているところもあって、本当にありがたいことです。
絵本にある「自由さ」で心を豊かに
-これからはどんな絵本を描いてきたいですか。
何でもいいんです。何でもいいけれど、面白くて、おかしみのある絵本を描いていきたいです。私はおかしな話が大好きなので、自分らしさを出していきたいですね。

-絵本を手にする人たちへメッセージをお願いします。
たくさんの人に純粋に絵本を読んでほしいと思っています。心を育てる上で、絵本は大切なコミュニケーションツールにもなっています。数分の隙間時間でもいいので、たくさん子どもたちに読んでいただけるとうれしいですね。
絵本を読む大人も増えています。絵本は他の書籍に比べて「自由」があります。自由さがあり、美しい絵も見られて、癒やしがある。振り幅が広い書籍だと思うのです。絵本を読んで、心を豊かにしていってほしいなぁと思っています。
-「パンどろぼう」は秋にはアニメ化もされます。シリーズは続きますか?
新作の詳細はまだ秘密ですが、また新しいお話も描いています。楽しみにしていてください。
-これからも続いていく「パンどろぼう」。楽しみです!ありがとうございました。
柴田ケイコ (しばた・けいこ)

1973年、高知県生まれ。短大卒業後、グラフィックデザイナーとして就職。デザイン事務所に転職し、企業広告の制作やイラスト作成に携わる。2002年フリーランスのイラストレーターとして独立。2016年「めがねこ」(手紙社)で絵本作家デビュー。代表作「パンどろぼう」(KADOKAWA)は第11回リブロ絵本大賞、第1回TSUTAYAえほん大賞、第13回MOE絵本屋さん大賞2020第2位を受賞。「パンどろぼうとほっかほっカー」で第16回MOE絵本屋さん大賞2023第1位を受賞。その他の作品に「パンダのおさじ」シリーズ(ポプラ社)、「ドーナツペンタくん」(白泉社)など多数刊行。
筆者・長壁綾子
1988年、群馬県生まれ。2018年より毎週「えほん」のコーナーで新刊の絵本を紹介している。また、絵本、児童書について取材しており、作家のみなさんが作品に込めた思いを伝える。パンよりもご飯が好きだけど、「パンどろぼう」大好き!「パンどろぼう」の巾着を愛用しており、5歳の甥っ子に奪われないかドキドキしている…。
なるほど!
グッときた
もやもや...
もっと
知りたい










