モデル 井手上漠さん 「漠は漠のままでいいんだよ」涙目の母の笑顔が、私のターニングポイントに

河野紀子 (2024年6月16日付 東京新聞朝刊)
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井手上漠さん(ディスカバリー・ネクスト提供)

家族のこと話そう

かわいいものが大好きで

 日本海に面する島根県の人口2000人ほどの小さな島で育ちました。母、1歳上の姉と3人家族です。

 生物学上は男の子として生まれましたが、幼い頃からかわいいものが大好き。戦隊ヒーローではなく、人気アニメ「プリキュア」に憧れ、遊びといえばおままごと。友達も趣味が合うのも女の子が多かったです。

 当時から髪の毛は肩まで伸ばし、ふわふわしたかわいいデザインの服を好んで着ていました。周囲から好奇の目で見られることもありました。でも、母は「男の子らしくしなさい」とは一度も言いませんでした。私の気持ちをいつも尊重してくれました。

 初めて自分の性別に違和感を覚えたのは、小学5年生のころです。体育の着替えが男女別になり、いつもは女の子と行動しているのに、着替えの時間は男の子と一緒になる。「気持ち悪くない?」とも言われ、周囲の心ない言葉が胸に突き刺さりました。

 それからは髪を短く切り、自分を押し殺して「普通」を演じる日々。でも無理をしているのでなじめず、どんどん心が沈みました。鏡を見るたびに自分が自分でない気がして、色を失ったモノクロの世界を生きているようでした。

「男の子が好きなの?」

 母は、そんな私の変化に気付いていました。「漠は男の子が好きなの?」。中学2年のとき、夕食後に急に聞かれました。母が相当の覚悟を持って話を切り出したと分かり、涙が止まりませんでした。「好きになる人に性別は関係ないんだ」と答えて、これまでの葛藤を打ち明けました。

 20分くらい、泣き続けたと思います。母は黙ってそばで聞いてくれました。そして「そっかぁ。漠は漠のままでいいんだよ」と。顔を上げると、少し涙目になりながら、全てを受け止める優しい笑顔がありました。私の人生の大きなターニングポイントでした。

 母のおかげで、周りの視線が気にならなくなりました。大好きな美容やメイクを楽しんで、少しずつ自分らしさを取り戻していきました。高校1年のとき、周囲の勧めでジュノン・スーパーボーイ・コンテストを受け入賞。予想もしなかった展開で、性別にとらわれずに芸能界で活動をするきっかけになりました。

私の幸せが、母の幸せに

 3年前の春、高校を卒業して上京。これまでの人生や母への思いをつづった初のフォトエッセイを出しました。実家の母に送ると、長文のメールが届きました。「自分の育て方が間違っていたのかと悩んだこともあったけれど、これでよかったと思えた」と。そのときに初めて母の苦悩を知り、号泣しました。

 東京で1人暮らしを始めてから、シングルマザーとして姉と私を1人で育ててくれた母の強さと愛情を深く感じるようになりました。私が幸せになることが、母の幸せにつながる。だからこれからも、自分らしく生きていきます。

井手上漠(いでがみ・ばく)

 2003年、島根県海士町出身。15歳で出場した「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」で「DDセルフプロデュース賞」に輝く。「性別はありません」と公言し、モデルとしてテレビやCM、ドラマなど多彩に活動。ファッションブランド「BAAKU(バーク)」のプロデュースも手がける。著書に、フォトエッセイ「normal?」(講談社)。

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  • かつらちゃん says:

    お母様にとっては漠ちゃんを守ってあげるのは私しかいない気持ちだったと思うのです。漠さんにとっては普通でも、それを理解されない。逆に漠さんが周りの普通に合わせて髪を切る。それは本当に苦しかったと思います。モノクロの世界理解できます。

    私は当時中学でメイクをしたり、女の子の服を着たりしました。体は確かに男だけど、心は女とか男なんて無い。私は私なんだと言うことを理解してくれたのは祖母だけでした。父も時間は掛かりましたが私がカミングアウトをした時理解を示してくれました。母には父の死後に話して理解をしてくれました。

    私は子供の頃から根拠は何にも無いけど、男らしく、女らしくを強制するのはなく、その人それぞれを認めることが大切な時代が来ることを信じて疑いませんでした。周りからは馬鹿にされようとも。

    もちろん、男らしく生きる、女らしく生きる考えを否定している意味ではありません。その考えを否定はしません。でも、互いに自分の考えを持つことは良いけど、それを押し付けるのではなく、考えは違ってもその人のことを否定せず受け止めてあげることが大切だと私は思うのです。

    かつらちゃん その他 50代

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