「二度と学童に来るな」事業者に怒鳴られ、子どもが通えないまま1年…横須賀市は介入打ち切り

 共働き家庭やひとり親家庭の増加で、小学生が放課後を過ごす放課後児童クラブ(学童保育)の需要が高まり、数も増えています。一方で、運営のあり方や指導員の力量など、保育の質が懸念される施設もあります。神奈川県横須賀市の民間学童では、事業者の不適切な対応によって、保育が必要な子どもが学童に通えなくなる事態が起きています。この学童は市の補助金を受けて運営されていますが、市も神奈川県も「個人契約なので介入できない」と対応を打ち切ってしまいました。問題はどこにあるのかを探りました。

子ども2人が学童に通えなくなったまま1年がたつ女性。春には末っ子も入学する

「こっちが経営してるんだ。勝手な行動をするな」

 「今はこっちが経営してるんだ。保護者は勝手な行動をするな」

 昨年3月1日、横須賀市の学童に子どもを預ける公務員の女性(45)は、電話越しの学童運営者の乱暴な言葉に耳を疑った。

 女性の子が通う学童はこの半年前、保護者が指導員を確保する形での運営から、市内で学童保育を展開している個人事業主による運営に切り替わった。運営の負担が大きかったことや、保護者の力だけでは指導員が確保できなくなってきたからだ。新しい事業者は、市の紹介を受けて決めた。

 運営が変わったことで、5人の指導員は1人を残して入れ替わり、外遊びの時間が減るなど、子どもたちの環境は大きく変わった。女性は、当時1年と5年の姉妹を通わせていたが、新事業者に変わってまもなく、次女が腕に赤いアザを付けて帰宅したこともあった。徐々に学童に対して不安を抱くようになった。

指導員は全員パートで不安 保護者会を提案したら…

 指導員は常勤ではなくパート勤務で、他の保護者からも「子どものことを誰に相談していいか分からない」という不安の声があった。女性は「一度、保護者同士で情報共有をする場を設けたい」と、保護者会の開催を提案。運営が切り替わって半年たった昨年2月末、指導員にお願いして、利用する他の7家庭宛てのお知らせを配布した。

 翌日、学童に子どもを迎えに行くと、指導員から事業主の携帯電話に連絡するように言われた。かけたところ、事業主から「何様だと思ってるんだ、このやろう。施設内で勝手に文書を配ったのは運営妨害だ。民事訴訟を起こす。いいか、学童にあるものは全て私のもの。保護者は勝手な行動をするな」といきなり罵倒された。

 事業主はさらに続けた。「よほどおまえは頭が足らないんだ。あんたの子ども2人はうちの学童では受け入れられない。おまえがどうこう言う筋合いはねえんだよ、バカが。二度と学童に来るな」

 事業主と言葉を交わしたのはこの時が初めて。あまりの暴言にショックを受け、「こんな人が運営している学童に子どもを通わせるのは不安でたまらない」と、次の日から子どもに学童の利用を休ませた。

学童に子どもたちが通えなくなった事情を、学童関係者らに相談する女性(手前)

「運営基準は満たしている」市も県の窓口も介入打ち切り

 女性が市に相談したところ、約1カ月後に市の担当者が立ち会い、事業主との話し合いの場が設けられた。暴言については事業主から謝罪があった。しかし、事業主は「うちの指導員は全員、おたくの子2人が学童に戻ってくるなら辞めると言っている」と発言。「ルールを守らない。指導員の言うことを聞かない。そんな子はうちで見られない」と続けた。

 話し合いは決裂。市からはその後、「民設民営の学童クラブの利用については、学童クラブと利用者との契約なので、最終的には両者間で解決していただくことが基本となります」と文章で回答が届いた。

 横須賀市こども育成部教育・保育支援課の佐藤洋志課長は「事業主は設置や人員配置の基準などを満たしている以上、問題はない。個人と個人の契約なので、市としては話し合いの席を設けることはできるが、お互いに妥協点を見いだしてもらわないことには仕方がない」と説明する。

 女性は、横須賀市が苦情申し立てなどができる第三者窓口としている神奈川県の「かながわ福祉サービス運営適正化委員会」にも相談したが「事業主側は『条件を了解し、協力するなら受け入れる』と言っている。後はあなた次第」と言われた。条件とは、子どもたちに学童のルールを守らせること▽指導員の言うことを聞かせること▽それに保護者が協力すること-だという。「安心して預けられないから相談している。子どもたちのせいになっていること自体が問題のすり替えで、話が全くかみ合わない」と訴えたが、夏休み前には「これ以上は介入できない」と打ち切られた。

 事業主は取材に対し、「暴言については謝罪した。子どもたちに学童のルールを守らせ、保護者が口出しを慎むなら受け入れると適正化委員会に伝えた。私の運営方針にそぐわなければ、来なくていい」と話す。

横須賀市の子ども支援の拠点施設「はぐくみかん」。学童を担当する市こども育成部も入る

もうすぐ末っ子も入学「安心して預けられなければ働けない」

 全国学童保育連絡協議会(事務局・東京都文京区)の佐藤愛子事務局次長は、「公営でなくても、市町村事業として市が補助金を出しており、市には監督責任がある。外形的な設置基準を満たしているから良いではなく、適切に運営されているかどうかを把握し、指導すべきだ」と指摘する。 

 女性の娘2人が学童に通えないまま、もうすぐ1年がたつ。この1年、2年生の下の娘が先に下校する時は、地域の児童館で6年生の姉の授業が終わるのを待ち、2人で帰宅することで乗り切ってきた。今は、習い事と留守番で、放課後の時間をやり過ごしている。

 4月には末っ子の長男が入学する。ひとり親で、フルタイムで働く女性は「低学年の子どもを2人きりで長時間留守番させることは危険でできない」と悩む。学区に1つしかない学童に預けられず、近くに祖父母もいない。「4月から、いったいどうしたらいいのか。安心して預けられる学童がなければ、働くこともできない」

【学童保育の問題点】児童福祉が専門ではない事業者が参入 「質が追いついていない施設も」 

 学童保育には認可保育所のような一律の基準がほとんどなく、運営形態もさまざまだ。かつては働く親による父母会や、自治体が運営する学童が主流だったが、共働き家庭の増加で需要が増えるにつれ、運営主体も社会福祉法人やNPO法人のほか、民間企業、個人など多様になっている。

 特に保護者運営の学童保育では、親の負担の大きさなどから、民間企業などの運営に切り替える動きが増えている。新たな事業者が参入する際は、民設民営であっても自治体が面積や指導員の数などを審査する。だが、学童の利用希望者が増える中、自治体側にも手を挙げる事業者にはなるべく運営してほしいという思惑がある。全国学童保育連絡協議会事務局次長の佐藤愛子さんは「これまで児童福祉を専門にしていない事業者も参入するようになり、運営者や指導員の質が追いついていない施設もある」と指摘する。

 横須賀市は、公設の施設が1つもなく、全67施設のうち3分の1にあたる23施設が実質的な保護者運営だ。今回の女性のケースも保護者運営が行き詰まり、事業者に運営を移した中で起きた。市学童保育連絡協議会の永松範子事務局次長は「保護者運営から事業者運営になったからといって、保護者に意見を言うなというのは市が定める運営基準に反する。子どもが言うことを聞かないと言うが、子どもの気持ちを聞きながら納得のいくように導くのが指導員の役目で、それができないのは指導員の力量不足だ」と指摘。女性も「子どもを預かる施設で、人員配置などの基準を満たしているのは当然のこと。子どもが安心して過ごし、親も運営者や指導員を信頼して預けられる施設かどうかまで、市がチェックすべきではないか」と訴える。

【2019年2月26日 追記】事業者が取材に対して答えた内容をより丁寧に伝えるため、事業者の話した内容を加筆しました。

コメント

  • 学童でパートをしています。学童に来る子ども達は放課後、公園に遊びに来る感覚で通っているように見受けられます。おやつに対しても必ず文句を言い、職員が席に着いて宿題を始めるよう言っても聞かず、それどころか
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  • 学童で三ケ所、結構長く働いてますけど、子ども同士の喧嘩もありましたし、職員が、子どもにケガをさせられた件も一度ありましたが、何といっても一番多いのが、不適格な職員です。 低学年の子供にワイセツ的なグ
    本当の話 女性 ---