自閉症の長男を育てる記者の思い「息子よ。そのままで、いい。」

原田晋也 (2017年7月7日付 東京新聞朝刊 群馬版・栃木版)
 【あなたのひと言が、自殺を止める】「騒いでいる子どもを見たら、自閉症かもしれないと考えてくれたらうれしい。そして、あたふたしている親にちょっとひと言かけてあげるだけで、その人はその夜飛び降り自殺しなくても済むかもしれない」。自閉症の長男を育てる記者が訴えます。
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「ささやかな想像力を失いつつある社会は怖い」と警鐘を鳴らす神戸さん=下仁田町文化ホールで

 自閉症の長男(18)を育てる元毎日新聞記者でRKB毎日放送(福岡市)東京報道部長の神戸金史(かんべかねぶみ)さん(50)が、出身地である群馬県下仁田町の町文化ホールで講演した。自閉症を含む発達障害への理解を呼び掛けるとともに、障害者に冷たい意見が広がりつつある現状に警鐘を鳴らした。(原田晋也)

「育て方が悪い」という一方的な視線

 神戸さんは自身の体験を基に、発達障害への理解を呼び掛けるための取材を続けてきた。長男の金佑(かねすけ)さんは、小さいころから抱っこしても目が合わず泣き叫んで暴れた。幼児用ブロックを投げてガラスに当たる音を面白がり、1時間以上も続けることがあった。

 意思の疎通が難しく、周囲からは虐待を疑われたこともある。3歳の時、自閉症の傾向があると診断された。現在は福岡市の特別支援学校で学んでいる。妻からは後になって「長男が2歳のころ、このままでは殺してしまうかもしれないと思った」と打ち明けられた。


<関連記事>「自閉症の息子へ」記事が反響 みなさんのコメントを読んで…神戸金史さんからメッセージ


 「自閉症の子を持つ親は育て方が悪いという一方的な非難と視線を浴びている」と神戸さん。自閉症の子を育てる家庭を追ったドキュメンタリー番組をつくった時には、放送後、2週間前に娘が子育てに悩み自閉症の孫と心中してしまったという女性から「この放送を見ていたら、娘と孫は死ななかったかもしれない」という手紙が届いたという。

 「騒いでいる子どもを見たら、自閉症かもしれないと考えてくれたらうれしい。そして、あたふたしている親にちょっと一言かけてあげるだけで、その人はその夜飛び降り自殺しなくても済むかもしれない」と訴えた。

facebookに書き込んだ詩が大反響

 神戸さんは「格差社会が進み障害者への見方が厳しくなっている」と感じているという。昨年7月、相模原市の障害者施設で入所者19人が殺害された事件では、被告は逮捕直後に「障害者は生きている資格がないと思った」と供述したと報じられた。神戸さんは事件の3日後、自身のフェイスブックに、思いを託した詩を書き込んだ。

 「長男が、もし障害を持っていなければ」という想像から始まり、長男がいることで悩み考えたからこそ今の家族があることに気付き、「息子よ。/そのままで、いい。/それで、うちの子。/それが、うちの子。/あなたが生まれてきてくれてよかった。/私はそう思っている。」と締めくくった。この詩はインターネットメディアやテレビなどで取り上げられ、大きな反響を呼んだ。

写真 本の表紙

 2016年10月にはこの詩や長男への思いなどをまとめた「障害を持つ息子へ~息子よ。そのままで、いい。~」(ブックマン社)を出版した。

 神戸さんは「みんな高齢者になって最後は動けなくなる。障害者に冷たい社会にしていくことは、将来高齢者になった自分が住みにくい社会にしていくこと。そんなささやかな想像力を失いつつある日本の社会はかなり怖い」と訴え、最後に「困っている人がいたらちょっと声を掛けてあげる。そんな雰囲気の社会にしていきたいと思っている」と静かに語った。

【神戸金史さんのfacebook投稿 全文】

私は、思うのです。
長男が、もし障害をもっていなければ。
あなたはもっと、普通の生活を送れていたかもしれないと。

私は、考えてしまうのです。
長男が、もし障害をもっていなければ。
私たちはもっと楽に暮らしていけたかもしれないと。

何度も夢を見ました。
「お父さん、朝だよ、起きてよ」
長男が私を揺り起こしに来るのです。
「ほら、障害なんてなかったろ。心配しすぎなんだよ」
夢の中で、私は妻に話しかけます。

そして目が覚めると、 いつもの通りの朝なのです。
言葉のしゃべれない長男が、騒いでいます。
何と言っているのか、私には分かりません。

ああ。
またこんな夢を見てしまった。
ああ。
ごめんね。

幼い次男は、「お兄ちゃんはしゃべれないんだよ」と言います。
いずれ「お前の兄ちゃんは馬鹿だ」と言われ、泣くんだろう。
想像すると、
私は朝食が喉を通らなくなります。

そんな朝を何度も過ごして、
突然気が付いたのです。

弟よ、お前は人にいじめられるかもしれないが、
人をいじめる人にはならないだろう。

生まれた時から、障害のある兄ちゃんがいた。
お前の人格は、
この兄ちゃんがいた環境で形作られたのだ。
お前は優しい、いい男に育つだろう。

それから、私ははたと気付いたのです。

あなたが生まれたことで、
私たち夫婦は悩み考え、
それまでとは違う人生を生きてきた。

親である私たちでさえ、
あなたが生まれなかったら、
今の私たちではないのだね。

ああ、息子よ。

誰もが、健常で生きることはできない。
誰かが、障害を持って生きていかなければならない。

なぜ、今まで気づかなかったのだろう。

私の周りにだって、
生まれる前に息絶えた子が、いたはずだ。
生まれた時から重い障害のある子が、いたはずだ。

交通事故に遭って、車いすで暮らす小学生が、
雷に遭って、寝たきりになった中学生が、
おかしなワクチン注射を受け、普通に暮らせなくなった高校生が、
嘱望されていたのに突然の病に倒れた大人が、
実は私の周りには、いたはずだ。

私は、運よく生きてきただけだった。
それは、誰かが背負ってくれたからだったのだ。

息子よ。
君は、弟の代わりに、
同級生の代わりに、
私の代わりに、
障害を持って生まれてきた。

老いて寝たきりになる人は、たくさんいる。
事故で、唐突に人生を終わる人もいる。
人生の最後は誰も動けなくなる。

誰もが、次第に障害を負いながら
生きていくのだね。

息子よ。 あなたが指し示していたのは、
私自身のことだった。

息子よ。
そのままで、いい。
それで、うちの子。
それが、うちの子。

あなたが生まれてきてくれてよかった。
私はそう思っている。

父より

(facebookの元記事はこちら


    
東京すくすくラジオ】サイト開設1周年の2019年9月にあわせて記者がつくった音声コンテンツです。記事を書いた原田記者が、取材の裏話や神戸さんのその後、コメント欄に寄せられた声への感想を語っています。


この記事を読んだ方から多くのコメントをいただいており、編集チームでも一つ一つ大切に読ませていただいています。ご自身の子の障害を受け入れるまでの心の揺れや、日々の苦労、そして子どもをかけがえのない存在だと感じる気持ち…。もし、直接お話を伺うためにご連絡したり、コメントを記事として紹介の中で使ってもいい、という方がいらっしゃいましたら、こちらの問い合わせフォームに感想や思いを書いていただけたらと思います。(東京すくすく編集チーム)

【2019年12月11日 追記】神戸金史さんにみなさんからのコメントを読んだ感想を寄せていただきました。
 
↓こちらでご覧いただけます↓
「自閉症の息子へ」記事が反響 みなさんのコメントを読んで…神戸金史さんからメッセージ
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すくすくボイス

  • 陽子 says:

    自閉症 知的障害重度の子供の母です。読んでいて涙が流れました。

    そのままでいい、とは、私はまだその境地になくて、奥様が「殺してしまっていたかもしれない」に共感しています。そんな話は、誰にもできません。

    夫にも言ったことはないです。毎日が我慢大会なような日々。可愛いです、出で立ちは確かに。でもそんなことをいっていられないことが日々あります。

    悩みの時代がずっと続いています。こうして思いを出せることがまずないです。この機会をいただけて、ありがとうございます。

    陽子 女性 50代
  • 匿名 says:

    私も発達障害の我が子に、「あなたはそのままでいい」「ありのままのあなたでいい」と言ってあげたいです。
    でも、生きていくことを考えたらそのままでいいとは言えないことがとても辛いです。

    現実には「ここに入るには最低限こんなことができなくちゃいけない」「こういう子なら周りに受け入れやすい」という受け入れ条件があるので、できるようにしなくちゃいけないと焦ってしまいます。更に、自閉度の強い我が子は自分が完全に納得しないと動かない。

    そしてどうしてもできない・やらない我が子を見て、「どうしてできないの・やらないの」って自分が感じてしまうのです。

    「これができたら支援が受けられるのに」「これができなければ周りに受け入れてもらえない」「この子がYESと言えば、支援が受けられるのに」毎日そんなことを考えています。

    勿論そんな日々の中でも、小さな幸せを見つけようとしてみたり、本人の小さな小さな成長を見てよろこんだりもしています。

    それでも、結局は条件付きの愛になってしまうことが辛くて悲しいです。
    無条件に我が子を愛したいです。

     無回答 無回答
  • りょうちゃんママ says:

    最近21歳になった最重度の自閉症の次男の母親です。
    自閉症の他に高校を卒業したとき120キロにまで太ってしまったりアトピーもひどくて息子をこんなふうに産んでホントに申し訳なくあと太らせてしまい、ダメなお母さんです。

    三歳前に自閉症がわかり療育をしたり特別支援学校に高校まで通い卒業しましたが言葉はお願いとかご飯とか、単語でしか話せません。色々な人のコメントを見て言葉がうちの子より話せるのを見るととても羨ましかったです。大人になるまでにはもう少し話せるようになると思っていたので。

    今は申し込んでいた施設への入所ができますよと言われてうちにいるより施設に入ったほうが次男のためだと思いお願いしました。19のときです。あれからもうすぐ2年体重は50キロ減り血液検査も正常になりました。

    高校の時から現場実習で行っていた施設なので安心でした。先生も学生時代から知っていたので良かったです。施設にいっても週末は家に帰れるのでよかったのですが今はコロナで10ヶ月帰れてません。早くコロナが収まって欲しいです。神戸さんの本にもありましたがうちは5歳上の兄がいます。

    兄は自閉症の弟を可愛がり昔からとても優しいお兄ちゃんでした。今はこころ優しく一生懸命働く青年になりました。弟のおかげもあると思います。障害のある人が住みよい世の中になっていきますようにといつもねがっています。いつ誰でも事故とかで障害を持つかわからないしみんなの問題だと考えます。

    りょうちゃんママ 女性 50代
  • 匿名 says:

    先日5歳の息子が自閉症スペクトラムと診断を受けました。
    先生には親御さんの気持ちもあるので診断名はまだつけなくてもいいですし、お伝えすることも出来ますと言われました。
    悩みました。現時点で診断基準を満たす程の傾向があるんだと、改めて衝撃を受けました。障害の受容は出来てたつもりだったのですが、その日から無気力になってしまい何も手に付きません。
    でも障害としてはっきりしたならやることは色々あるんですよね。運動に力を入れてる療育先を勧められたのでそちらを探したり、教育相談に行って学校を見学したり。
    情けない話ですが、社会的な能力が低くコミュ障気味の私にはいちいちハードルが高くて辛いです。多分私も多少発達特性がある人間なんだと思います。
    発達障害の子供を持つ親御さんはほんとに頑張ってると思います。うちの子は体力モンスターなので力はあるし遊びも激しくて毎日身体はクタクタ、ふざけが多いので怒りすぎて心は自己嫌悪でボロボロです。正直、定形の子だったらもっと違うのかな…と考えてしまうこともあります。
    でも可愛くて可愛くてたまらない時もあるし、やっぱり他にはかえがたい大事な我が子なんですよね。
    数日の息抜きは目を瞑って、またできる範囲で頑張らなきゃと思います。

     女性 40代
  • 匿名 says:

    何度も何度も読み返した文章です。息子は19歳知的障害です。

    私も自分を責めました。
    ちょうど離婚直後に判明した事もあり
    責め続けた結果鬱にもなりました。
    障がいに対して偏見なく育ったと思っていました。
    障がいを持った子供たちと関わる仕事がしたいと思っていました。
    でもまさかわが子に障がいが?と受け入れきれずに
    偽善だったと…そんな自分を恥じました。
    何度も普通に戻るのでは?と願いました。
    普通なんて何か分からないのに、ただただ望んでしまいました。

    あれからもう16年経ちました。
    当初発語もなかった彼は今では沢山話してくれます。
    趣味は電車やエレベーターカラオケと沢山あります。
    作業所にも頑張って一人で徒歩通勤。
    皆勤賞ですよ。
    いつかは一人暮らしをしたいって夢も持っています。

    そして私は彼が教えてくれた世界に今います。
    児童通所施設を立ち上げました。
    いつかは…就労やグループホームも…と母の夢もあります。

    彼が私の所に生まれてきてくれたから、今があります。

    前向きにさせていただいた詩があの頃と今の私の気持ちとリンクして
    いつか下の子たちにも伝えていきたいです。

      

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