子どもシェルター開設につながった芝居「もがれた翼」 弁護士らが26年前から毎年上演 コロナ禍の今年は10日から新作を動画配信
「なぜ日本にはないの?」の声を受けて
母子家庭に育った10代の少女は、母の恋人から暴力を受けて家出。生活のため援助交際をするが警察に補導され、子どもシェルターへ…。2002年に上演されたシリーズ「パート9」の一場面。「虐待にしろ、非行にしろ、とにかく子どもたちの問題なら何でも引き受けるんだ」(登場人物のせりふ)という「駆け込み寺」として描かれた。
上演後、「なぜ日本にはないの?」という声が相次ぎ、弁護士らがシェルター開設に向けて奔走。2004年に第1号の「カリヨン子どもセンター」が誕生した。
中心となったのは坪井節子弁護士。国連子どもの権利条約を日本が批准した1994年から、演劇を通して子どもの抱える問題を伝えてきた。必要性を痛感し、子どもシェルターが登場する芝居の脚本を書いた。
特別なケア必要な子の受け入れ先に
「お芝居にはこんなに力があるんだと思いました」。坪井弁護士の娘で、同センターの石井花梨事務局長(37)=写真=はそう話す。2003年から「もがれた翼」の脚本を担当。少年法改正、いじめや体罰、虐待など、弁護士から提案された時事的なテーマを物語にしてきた。
現在、子どもシェルターは全国10数カ所に増加。児童相談所の一時保護所では対応が難しい、発達障害や妊娠などのケースも引き受ける。「10代後半になればアルバイトで生計を立てられるし、逃げられると思われがち。でも幼少時からの虐待で精神的に支配されていたり、家や学校で自立に必要な社会性を学べていなかったりと、特別なケアを必要とする子が大勢いる」
「わかりにくい」子どもの苦しさを伝える
新作は、コロナ禍で在宅勤務となった父親に精神的な虐待を受ける女子高生が主人公。シェルターに避難し、次の一歩を踏み出すまでを描く。演じるのは弁護士たち。主人公は自分の希望をはっきり言わないという設定で、石井事務局長は「親に否定されて自信が持てない子は、意思決定に慣れておらず、快、不快の感情まで感じられないことがある」と説明する。シェルターはそんな子らを肯定し、生きる力を持たせる。
普通の家庭に見えても、親が必要な教材も買ってやらないといったケースや、きょうだいと1個のカップラーメンを分け合うような食生活をしている例もあるという。そんな「わかりにくい」子どもの苦しさや、シェルターの存在と活動を伝えることを目指す。
YouTubeで「もがれた翼」で検索。新作の配信は9月末までの予定。
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