【里親月間】法律をつくった塩崎恭久元大臣も「週末里親」やってます 心に傷のある子どもは家庭が必要  みんなで養育する社会へ

塩崎恭久元厚生労働大臣

里親の支援活動に取り組む塩崎恭久元厚生労働大臣

 厚生労働大臣として2016年の児童福祉法などの改正を主導し、親が育てられない子どもの養育も「家庭」で、との原則を打ち出した塩崎恭久さん。2021年に衆院議員を引退した後は、地元・愛媛県で養育里親として研修、登録を行い、支援機関のアドバイザーにも就任しました。里親に関する法律をつくった国会議員として、現場に立ち戻って改善すべき点はないのか、常に考えて行動しているそうです。政策決定者から「里親」になって何が見えてきたか、聞きました。

◇毎年10月は国が定める「里親月間」です。里親について理解を深めてみませんか。

年齢制限なし 研修を受けて養育里親に

ー里親になろうと思ったきっかけを教えてください。

 国会議員を引退しても、法律や制度のその後を常にウォッチし、改善点を国に提言していくのはとても大切なことだと考えています。当初は地元の愛媛で里親らを支援する活動をしたいと考えていました。

 打ち合わせで児童相談所に行ってみたら、里親には年齢制限がないことを知りました。妻にも相談して、なら登録しようと申し込みました。(愛媛1区の自民党候補者として)後任に選ばれた長男彰久の選挙応援の合間を縫って3回、座学中心の研修を受けました。その後、愛媛県の審査を経て、2022年春に養育里親として登録されました。

◇里親の種類
養育里親 原則18歳未満の子どもを自立するまで、もしくは一時的に預かる
専門里親 養育里親のうち、虐待や障害などで特に支援が必要な子どもを育てる
養子縁組里親 養子縁組することを希望し、子どもを預かり育てる
親族里親 親族が実の親に代わって育てる

2カ月に一度ほど 2、3泊の「週末里親」

ーそしてリアル里親になったそうですね

 それは違うんです。たまに施設に措置された小学生の姉妹を預かっていますが、それは里親とはいわないのです。手当などはなく、ほぼボランティアです。「週末里親」といわれるものです。

 それでは施設から家庭へ、としていた政策の趣旨とは違うので、最初は断ろうと思っていました。しかし妻から「あなた子育てしたことないのに何をいっているの。経験を積まないとだめでしょう」といわれて、はい、と。今では2カ月に一度ぐらいのペースで、2、3泊預かっています。本当の里親はさまざまな手当が出るので、経済的な負担はほぼありません。

◇里親に支給される手当など(2022年度単価=1人あたりの月額)
里親手当

養育里親:9万円
専門里親:14万1000円

一般生活費(食費、被服費など) 乳児:6万670円
乳児以外:5万2620円

※医療費、教育費などはかからない

特定の大人に甘え、許される環境が必要

ー預かるようになって気づいた点はありますか。

 やはり親から離さないといけない子どもたちは、みんな心に傷が入っているということです。しかも、心の傷は簡単には見えません。何度か来ているうちにお姉ちゃんが突然泣き出して、これまであったつらかったことを妻に話したことがありました。

 食事をした帰り、私たちの前から姿を消してしまい、捜すのが大変だったこともあります。事故にでも遭ったら大変なので、施設にも連絡しました。後で、その子が私たちがどれぐらい騒ぐのか、そのままの彼女を受け入れるのか、試しているんだなと思いました。いわゆる「試し行動」です。施設ではここまで本音をはき出せないでしょうし、一人一人を見られないと思います。

写真 塩崎元大臣

 特定の大人に甘え、それが許される環境で養育されることが子どもの心身の成長や発達には不可欠です。日本の医療では児童精神医療というのが軽んじられて、全国に500人ぐらいしか専門家がいないという状況です。だからこそ、養育里親みんなが研修を受けて、虐待を受けたり、障害のある子どもたちも預かれる専門里親になるべきではないかと思うくらいです。

改正児童福祉法で「家庭」養育が原則に

 2016年の児童福祉法改正では、親元で暮らすことができない子どもたちが、児童養護施設などの「施設」ではなく、里親などの「家庭」で優先的に養育されるよう転換されました。法改正は与野党の全会一致で成立しました。

ー施設から家庭へ、制度の大きな転換点でした。

 子どもの成長に不可欠な愛着形成には、生まれてから3カ月、そして2歳までが決定的に大事とされています。子どもを育てる環境として、一番いいのは生みの親、それができないのなら、里親か特別養子縁組か。施設でも地域分散型の小規模施設までとしました。

 家庭では親が働いていても夜には帰ってくる。施設では夕方、職員が出て行く。子どもたちは世話をする人の背中を見るということです。これでは心からの安心が得られず、心が定まらないと思います。

 児童福祉法改正を受けてまとめられた「新しい社会的養育ビジョン」(2017年8月)では、里親委託率の目標を3歳未満はおおむね5年以内に75%以上、それ以外の就学前はおおむね7年以内に75%以上、学童期以降はおおむね10年以内に50%以上としました。

グラフ 施設入所と里親委託の子ども数の推移

 里親委託率は上昇傾向にはありますが、上昇率は(なだらかで)全く加速が見られません。さらにいえば、自治体によって大きく異なります。

 2021年度末で見ると、10%未満の自治体がある一方、法改正前から熱心に取り組んでいた福岡市は59.3%に上ります。福岡市が自民党「児童の養護と未来を考える議員連盟」と超党派「児童虐待から子どもを守る議員の会」などに提出した資料では、乳幼児全体で87.5%と目標を大幅に上回っています。やればできるわけです。

こども家庭庁はもっと方針を打ち出して

ー里親はこれからも続けますか。

 措置するのは児童相談所なので、あちら次第ではありますが、私たち夫婦は高齢で、現実的に子どもを18年間、預かることはできません。一方、元々立ち上げようと思っていた里親支援の活動はスタートしています。NPO法人「子どもリエゾンえひめ」です。

 里親になった後も、子どもの成長や発達とともに、本当の親が誰であるかを知らせることなど壁がいっぱいあります。それを乗り越えるには、継続的な支援が必要ですが、法律上では5年後の継続研修のみで、そのほかは自治体の判断でやることになっています。こども家庭庁が「こどもまんなか」を標榜するなら、この点でも政府の方針をもっと打ち出すべきだと考えています。

共働きでもシングルでも里親になれます

ー里親に関心があっても、手をあげるのに躊躇(ちゅうちょ)している人たちにメッセージはありますか。

 子どもたちは社会みんなで養育しないといけません。子どもにはそれぞれニーズがあって、里親たちはそれぞれのキャパシティーに合わせてやれることをやってほしい。一時的な支援でもいいのです。それが積み重なれば、多くの子どもたちを家庭的な環境で養育できることにつながります。

 大人の1日はあまり変化のないものですが、子どもは発達しながら日々過ごしているので今日は二度と戻ってきません。今は共働きでも、シングルでも里親になれます。まずは相談してみてください。

ー厚労省は2019年に単身者や性的少数者(LGBTQ)を里親から排除しないとあらためて通知しました。

 厚労大臣時代に大阪でゲイカップルが里親登録を認められた時、定例記者会見で質問を受けたのを記憶します。私は「子どもへの愛があれば同性カップルでも、異性カップルでも」との趣旨の返事をしました。

【関連サイト】厚生労働省「塩崎大臣会見概要」(2017年4月7日)

 基本的に大事なのは、人間性であり人物本位、そして、本当は専門性です。同性はダメか、異性でないといけないか、などの質問自体が本質的ではありません。子どもへの愛や思いやりの深さであり、性的指向は関係ないと思います。

◇塩崎さんが里親になったことを、息子で現在は厚生労働政務官を務める彰久さんはどう感じたでしょうか。インタビューでじっくり聞きました。

写真 塩崎彰久 厚生労働政務官

【里親月間】父が里親になり「里兄」となった塩崎彰久厚労政務官 里子に向き合い、豊かな人間関係が生まれた

塩崎恭久(しおざき・やすひさ)

写真 塩崎恭久さん

1950年生まれ。東京大卒業後、1975年に日銀入行。在職中にハーバード大大学院修了。父・塩崎潤元衆院議員の後継者として1993年衆院選で初当選。1995年参院議員に転身、2000年衆院選で復帰。官房長官などを経て、2014年9月~2017年8月まで厚労大臣。2021年10月に衆院議員を引退。故坂本龍一氏とは高校の同級生。

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  • もりまり says:

    40代、未婚、独身です。

    子どもの頃、父の同僚が里親をやっていると聞いて、いつか自分もやってみたいと思いつつ大人になりました。

    いざ社会人になると、短期の契約を繰り返しながら不規則な勤務を続けることになり、里親をやれるとはとても思えないまま歳を取りました。

    6年前から無期雇用になって収入も上がり、多少地域活動に関わる時間が作れるようになりましたが、相変わらず年中無休の不規則な勤務なので、そんな人でも里親ができるならやってみたいです。

    もりまり 女性 40代
  • マルコポーロ says:

    結婚前から里親制度については興味が有りました。隣の区に家庭寮があって見学に行った事があります。私は喘息持ちで直ぐできる事があるわけではないのですが、出来れば何らかの形でお手伝いできる事があれば嬉しいです

    マルコポーロ 女性 70代以上
  • パパ says:

    数十年前、大学生の時、イギリスに留学し、研究テーマに里親制度における人種問題に取り組みました。

    あれから時間は経ちましたが、日本では里親に関する話題がマスコミでもほとんど取り上げられない状況です。文化の違い、子育て、養育環境は違いますが、日本でも里親は大変重要な役割であり、社会全体の課題として注目すべきことだと思います。

    このような記事が拝見でき、改めて学ばせていただきありがとうございました。

    パパ 男性 40代
  • 鹿児島のジジィ says:

    私は養育里親になって8年経過しました。一時保護を含めて5人の子供と生活してきました。

    また子供達と一緒に生活したいのですが中々里子の連絡がありません。実親の承諾が無いと里親に委託出来ない問題を早目に解決出来ないのでしょうか?里親になっても委託出来ない家族がたくさんあり意欲が失われてしまうと思います。

    塩崎さんのような方がどんどん情報発信して国の制度を変えて子供達の明るい未来の為、頑張って貰いたいです。

    鹿児島のジジィ 男性 60代
  • 匿名 says:

    里親制度に関心がありましたが、子育て中であったり経済的な点(仕事をしながら、里親となること)から難しいかなと考えてます。

    週末だけの里親制度があること、里親となることに、年齢や婚姻状況の条件が思ったより少ないことを知りました。今は無理でもいつかできることがあるかもと思いました。

     取材した私たちも「あなたたちも里親登録したら?」と言われました。自分の子育てにも戸惑ってばかりで即答できませんでしたが、いつかできるように、研修ぐらいは受けられるように心に留めたいです。

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