子育てを学ぶ機会がないのは事故のもと 誰もが抱える虐待リスク 就学時健診で保護者が声かけを練習

就学時健診の待ち時間を使って開かれる講座=岐阜県海津市の石津小学校で
「早く」「ちゃんとして」は伝わらない
「ぐずぐずしていないで早く食べなさい」「ちゃんとお風呂に入って」。昨年9月、岐阜県海津市の石津小学校で開かれた子育て支援講座。講師を務めた一般社団法人「青少年養育支援センター陽氣会(ようきかい)」(名古屋市)の松岡恵子さん(46)が、よくある怒り方を紹介した。その後、10歳未満の子は抽象的な表現の理解が難しいことを挙げ、「早くって何分? 子どもに伝わっていないこともある」と指摘した。
一般的に子育て講座は希望制で、関心のある人しか参加しない。だが、海津市では、全6小学校で入学を控えた子どもの保護者ほぼ全員に受講してもらっている。ほとんどの学校が就学時健診に合わせ開き、保護者の待ち時間を使う。
2024年度は、同法人が開発し名古屋市の児童相談所でも導入する虐待の再発防止プログラムの一部を基に、全校の内容を統一した。石津小では、参加者はグループに分かれ、あいまいな表現を具体的なものにする練習に挑戦。「早く食べなさい」を「時計の長い針が10にいくまでにごちそうさまをしようね」などと言い換えた。
受講した保護者の女性(47)は「イライラして大人の都合で大きな声を出していた」と振り返った。名古屋市の児相でもプログラムを担当する松岡さんは「保護者と面会すると、『ちゃんとしつけなければ』と責任感が強い人も多い。虐待は誰にでも起こり得る」と話す。
法人の代表理事で、虐待の被害を受けた子どもたちの里親でもある杉江健二さん(56)は、子育てを自動車運転に例え、「講座などで学ぶ機会がないのは、運転方法を習わず走っているようなもの。それでは事故が起きる」と指摘。海津市のように「虐待してしまう前にみんなが学べる機会が必要」と訴える。
暴力・暴言を置き換えれば子どもは回復
虐待は身体的虐待、性的虐待、ネグレクト(育児放棄)、心理的虐待の四つに分類され、回数が少なくても、子どもの脳機能などに影響があるとされる。
加害者への対処法を考える際には、「大きく二つの層に分けて考えるべきだ」と、東海学園大の佐々木大樹准教授(臨床心理学)は話す。暴力に違和感があり、問題と感じている第1層と、暴力が染み付いている重度の第2層だ。
第1層は、集団全体に働きかけ予防する「ポピュレーションアプローチ」で対応できるとし、しつけがいきすぎて第2層に移ることを防ぐことにも有効だという。暴力や暴言を別の方法に置き換える手法が適切で、「子どもたちは安全を感じられるようになれば、回復していく」と説く。
一方、「第2層は予防的支援は届きづらい」と佐々木さん。暴力を止めるために介入した上で、保護者の考えや関わり方を変えていく、一体的な「暴力を手放す支援」を提案する。
ただ、現状の第2層支援では、児童相談所が子どもを保護者から引き離すことと、保護者に変容を促す取り組みの双方を担う。児相の心理職などを経験し、今は愛知県内外の児相で助言や研修を担当する佐々木さんは「司法が治療命令を出すなどして暴力を止めた上で、児相が保護者支援に取り組むといった制度が必要だ」とも指摘する。
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