わが子が性的マイノリティーと気付いたら、親が一番の理解者でいられるように 当事者がリーフレットで伝えたいこと

出田阿生 (2025年3月3日付 東京新聞朝刊)
 わが子が性的マイノリティーだと気付いた時、親はどうすればいいか。埼玉県草加市の岩井紀穂(かずほ)さん(54)が、そんな保護者向けのリーフレットを作成した。自身の性自認が男性のトランスジェンダーで、「両親の理解があったからこそ、生き延びられた」と感じるからだ。公共機関や医療現場などに置いてもらい、多くの人に理解を深めてほしいと願う。
写真 リーフレットの一部

リーフレットの一部

支援して実感「親との関係が一番難しい」

 性的マイノリティーの支援事業に携わる岩井さんは、多くの悩み相談を受ける中で「親との関係が一番難しい」と感じた。疎遠になったり、絶縁されたりする人も。その結果、傷つき苦しむ人は多い。性的マイノリティーの自殺未遂率は一般の6~10倍にもなるという。

 一方、岩井さんは「親には恵まれた」。性別に違和感を覚えたのは3歳ごろだが、両親は七五三の時に男の子用のスーツを用意してくれた。20代でトランスジェンダーだと自覚すると、今度は社会の無理解や偏見に直面した。

 毎日のように「男か、女か」と品定めするような視線が突き刺さる。職場では「男性として働いてもいいが、同僚全員にトランスジェンダーだと公表するのが条件」と強制されたことも。仕事を転々としてうつ病になり、自殺未遂を繰り返した。苦しむわが子を受け入れ、見守ってくれる両親が唯一の救いだった。

写真 岩井紀穂さん(右)と母の文子さん

岩井紀穂さん(右)と母の文子さん(岩井さん提供)

 「まず親が子どもを支えてくれたら。そのために新しい命に向き合う時から想定しておいてほしい」と考え、リーフレット作成を思い立った。表紙では「アライ(支援者・味方の意味)ペアレント(親)になろう!」と呼びかける。岩井さんが文章をつくり、産婦人科医や助産師、性教育に詳しい専門家ら計8人に監修してもらった。

告白されたら「教えてくれてありがとう」

 「性別不合」といった基礎知識のほか、妊婦と医師の会話も例示した。おなかの子の性別を聞く親に、医師は「生まれた時に割り当てられた性別が、途中で『違うな…』と思う子がいる」と伝える。子どもに告白された場合は「教えてくれてありがとう」と受け止め、一緒に考えられる親になってほしいと説く。

 「性的マイノリティーであることは、本人の意思や親の育て方とは関係なく、誰のせいでもない」と岩井さん。「大切なのは健やかに誇り高く生きていくこと。幸せの道は限りなくあると伝えたい」。リーフレットは、「VISION! for Transgender」のウェブサイトから読める。医療機関などが申し込めば、送付する。

リーフレットが社会の受け皿になる

◇産婦人科医の藤田圭以子さんの話

 医療活動の中で、外見が男性に見える人が婦人科を受診したり、同性カップルから不妊治療の相談を受けたりしてきた。自分自身の知識が足りないと気付き、9年ほど前から性的マイノリティー当事者の声を聞きながら学んでいる。

 性的指向や性自認は生まれ持った属性で、親の育て方とは関係ない。社会の受け皿がないことが困難を生んでいる原因。親子がより良い人生を送るために大きな支えとなるのが親の理解と支援だ。産婦人科や小児科でもこのリーフレットを活用してほしい。

*藤田さんはリーフレットの監修者で、大阪でジェンダー外来に取り組む。

元記事:東京新聞デジタル 2025年3月3日

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