学童保育の基準、自治体任せでいいの? 指導員の基準緩和方針に不安の声
宿題、やりたい遊び…子どもたちの要望にこたえたい
「おかえりー」「手は洗った?」。さいたま市大宮区の東小学童保育所。低学年の子どもたちが帰ってきて、部屋は一気ににぎやかになった。
指導員たちはまず、子どもたちの宿題に付き合う。教科書の音読は一人一人に耳を傾け、計算プリントは丸付けも。「これ教えて」「ねえねえ聞いて」。4、5人の子に1人の指導員が付いていても、引っ張りだこで忙しい。
同学童は1日平均70人ほどが利用。部屋は2つあり、常時9人以上の指導員で目を配る。指導員の佐藤正美さんは「トラブルが起きれば1人はかかりきりになるし、常に全体を見ている人も必要。外遊びがしたい子も、室内でのんびり過ごしたい子もいる。指導員が少なければ『待って』ばかり言うようになり、子どもたちの要望にこたえてあげることができない。この人数は必要です」と話す。
子どもたちの成長支える仕事であることを理解して
「放課後の子どもの居場所がほしい」という地域の声を受けて始まった学童保育。運営形態や規模などが地域でまちまちのため、長く全国一律の基準すらなかった。しかし共働き世帯の増加でニーズは高まり、各地に広がっていった。4年前には、「1カ所(約40人)につき(指導員)2人以上」の配置基準が定められた。うち1人の指導員は保育士などの資格者などで、かつ都道府県の研修を受けた「放課後児童支援員」であることが義務化された。
しかし一部の自治体から、人員確保の難しさなどを理由に要件の緩和を求める声が上がり、国も「地域の実情に合わせて質を担保することも可能」として拘束力のない参考基準とするよう方針を転換した。佐藤さんは「基準がようやくできたことで、より良い研修のあり方を考えるなど、保育の質を考える機運が高まってきたのに」と残念がる。
指導員歴30年の佐藤さん。学校の先生や親には言えない気持ちを学童では話してくれる子がいたり、乱暴な行動が目立っていた子が、指導員たちの適切な関わりによって我慢できるようになったりする姿を見てきた。一方で、待遇の低さなどを理由に指導員の入れ替わりは激しい。「指導員は、子どもたちの成長、発達を支える専門性のある仕事であることを社会に理解してもらい、それに見合った待遇が確保されなければ人手不足は解消できない」と話す。
専門家「基準は学童保育の質を担保するため」
基準緩和の議論は昨年8月、内閣府の地方分権改革有識者会議の専門部会で始まった。全国知事会、全国市長会、全国町村会の地方3団体が「人員確保が難しい」と、基準見直しを求めたのを受けて開いた。
議論では地方の「裁量」を求める声が強調された。これに対し、基準維持を求める全国学童保育連絡協議会は「子どもたちの命と安全を守るため、学童保育の目的や役割を理解しているメンバーで議論すべきだ」と訴えてきた。
4年前の基準策定に関わった淑徳大の柏女霊峰(かしわめれいほう)教授(子ども家庭福祉学)は「基準は、子どもの発達に重要な役割を果たす学童保育の質を担保するために設けた。地方分権の議論とは別のものだ」と指摘。「資格研修を受けるのが難しいなど地域の課題があるなら、そこをどう工夫するかをきちんと議論すべきなのではないか」と苦言を呈する。
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