子育てのため政界引退の寺田学さん「共働きで両立は難しい」 夫婦そろって国会議員、小6の一人息子の内面に向き合いたい

木谷孝洋、坂田奈央 (2025年11月4日付 東京新聞朝刊)
 夫婦そろって国会議員を務める寺田学衆院議員(49)=立憲民主党=が、次期衆院選への不出馬と政界引退を表明した。育ち盛りの小学6年生で一人っ子の長男と過ごす時間を優先し、妻・寺田静参院議員(50)=無所属=の活動を支える決断だ。「僕が身を引く」と語るその背景には、共働きと子育ての現実がある。寺田学さんに、今回の決断に至った思いを聞いた。
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長男(中)とともに写真に収まる寺田学衆院議員(右)と寺田静参院議員=2019年7月撮影、寺田学事務所提供

寺田学(てらた・まなぶ) 

 1976年、秋田県横手市生まれ。中央大学を卒業後、三菱商事に入社。2003年の衆院選に秋田1区から立候補し、初当選。現在7期目。民主党・菅直人政権で首相補佐官を務め、東京電力福島第1原発事故対応などを担当した。ライフワークは教育の多様化、性犯罪の撲滅、音楽の振興。コロナ禍では音楽・エンターテインメント業界への支援に取り組んだ。父は元秋田県知事で参院議員も務めた寺田典城(すけしろ)氏。

寺田静(てらた・しずか) 

 1975年、秋田県横手市生まれ。早稲田大学を卒業後、寺田学衆院議員などの秘書を務めた。2009年に学氏と結婚。2019年の参院選で秋田選挙区に立候補し、初当選。2025年7月の参院選で再選し、現在2期目。

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育児や政界引退を決めた経緯などについて話す立憲民主党の寺田学衆院議員=衆院第一議員会館で(池田まみ撮影)

子どもが成長するにつれ、両立が難しく

ー9月19日、ご自身のウェブサイトに「私自身の今後について」という文章を掲載し、政界引退を表明しました。

ここ2年くらい、議員活動と子育ての両立が難しいと感じていました。今回の判断は、コロナ禍が明け、夫婦の地元・秋田でのイベントが元に戻り始めた2022年か2023年ごろから考えていたことです。

(静さんが初当選した)6年前は両立できるだろうと思っていました。しかし、子どもが成長するにつれて、親としての役割も変わってきます。

小学校の低学年までは、子どもの安全をどう確保するかということが親としての最大の役割でしたが、高学年になり、子どもにも人間関係ができたり、スポーツや文化に関心が出てきたりすると、子どもの内面に向き合わないといけないという思いが強くなりました。

学校のコミュニティーの中では、楽しいことだけじゃなくて、つらいこともたくさんあります。それをどう支えるか、子どもと一緒に乗り越えていけるかという新しいステージに入っていると感じました。

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育児や政界引退を決めた経緯などについて話す立憲民主党の寺田学衆院議員=衆院第一議員会館で(池田まみ撮影)

家族で全員で過ごせるのは週1ぐらい

ー家事・育児の分担はどのようにやっていますか。また、どんな場面で議員活動との両面が難しいと感じますか。

家のことは、基本的には「気づいた方がやる」という感じです。私が掃除や洗濯、食後の食器洗い、子どもの習い事や身の回りの世話をやり、妻が買い物や食事、学校との連絡事項をやることが多いです。

両立が難しいと感じるのは、例えば子どもの体調不良で予定がすべて崩れてしまうときです。

家族全員で過ごせる時間は週に1日程度しか確保できません。さらに週末は、地元での活動が入ってくる。子どものケアをしながら、夫婦で地元活動を続けるのは不可能だと感じるようになりました。

「あなたの代わりはいない」と妻を説得

ー学さんの方が議員を続けるという選択肢はなかったのですか。

夫婦で議員活動を続けるのは無理だという共通認識を持ったとき、妻は「自分が身を引きたい」と言ってきました。

しかし、国会にはまだまだ女性議員は少なく、秋田県選出では妻ただ1人です。妻は社会的養護や障害福祉など、光の当たらない分野にも取り組んでいます。「あなたの役割は代わりがいないから、あなたがやるべきだ」と説得しました。

妻が7月の参院選で落選していれば当然、私が続けることになりましたが、幸いにして当選できたので、「では僕が引く」ということになりました。

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2022年6月、子育てしながらの議員活動についてインタビューに答える寺田静参院議員。横に飾ってあるのは息子が幼稚園の時に書いたヒマワリの絵=参院議員会館で(由木直子撮影)

女性がキャリアを諦める背景に賃金格差

ー子育てと共働きの両立に悩むカップルは少なくありません。多くの場合、女性がキャリアを断念したり、遅らせたりすることが多い中、学さんが議員を辞めることは社会への問題提起でもあるのでしょうか。

私自身は特殊なケースであり、社会全体へのインパクトを考えたわけではありません。誰かのせいで議員を辞めるわけではないし、自分のライフステージの中での能動的な判断です。

誰かの仕事を優先するために誰かがキャリアを諦めるというのは、決して望ましい形ではありません。夫婦のどちらもキャリアを重ねていく中で、育児などのケアの部分を経済的にも物理的にも支える仕組みが大事だと思います。

ただ、同じ悩みを抱えている人たちからは好意的な反応があったことは意外でした。

女性がキャリアを諦めざるを得ない背景には、社会的な慣習であるとともに、男女の賃金格差が大きいと思います。やはり稼いでいる方が仕事を続けるという判断になりがちです。そういう意味でも賃金格差はなくしていくべきです。

ケアワークを丸投げできる人が有利に

ー27歳で初当選し、議員生活は通算20年になりました。政治家であることと、家庭人であることの両立についてどう感じますか。

以前より両立が難しくなってきていると感じます。

最近では地元活動に加え、SNS対策などの運動量が増え、時間と体がより求められるようになっています。有権者も「まめに顔を出す人」を評価する風潮が根強く、フットワークの軽さが求められています。

有権者には地元のイベントで顔を見たとか握手をしたとかではなくて、その政治家がどういう政策について何を考えているかをもっと見てほしいと思います。時間に余裕がある人、ケアワークを誰かに丸投げできる人が有利になっているのが現状です。

ー子育てが一段落したら、政治の世界に戻ってくる考えはありますか。

戻る気は全くありません。議員を辞めた後は、妻の運転手や役所とのやりとりなど、自分の経験を生かして議員活動をサポートしたい。当然、思春期を迎えた子どもの内面と向き合うための時間を最優先します。

地元での活動を十分にできずに、後ろめたい気持ちはありましたが、今回の判断をしたことで少し肩の荷が下りたというのが正直なところです。

妻にはこれからの6年間、自分ができること、やらないといけないと思うことを気兼ねなくやってほしい。それが、私にとっても楽しみです。

国会議員が自身の子育てを振り返り、子ども関連の政策を考える東京すくすくのリレーコラム「超党派ママパパ議連 本音で話しちゃう!」では、2022年7月に寺田静香参院議員が登場しています。

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寺田静参院議員(前編) 子育ての苦労こそが、政治家としての価値になる

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寺田静参院議員(後編) 政治の世界に女性を増やすには、男性の家庭進出を

元記事:東京新聞デジタル 2025年11月4日

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