子育ても仕事も諦めたくない社員の「両立計画書」 サントリーが職場で共有〈みんなでもっと男性育児・中〉

大野雄一郎 (2025年4月9日付 東京新聞朝刊)
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粉川さん(右)と育休後の働き方について面談する坂本さん=東京都港区で

 育児に注力したいけれど、仕事をないがしろにはしたくない-。子どもができた働きざかりの人の多くが、こんな葛藤を抱えているのではないだろうか。飲料大手のサントリーホールディングス(HD)ではそうした悩みを解消してもらおうと、育休取得を予定している社員全員が「仕事と育児の両立計画書」を作成し、上司と面談を行うようにしている。実際に育休を取得した男性社員を取材した。

頼みたいサポートやキャリアプランを提出

 男性育児の促進を10年以上前から掲げるサントリーHD。2024年には持ち株会社と傘下の1社で男性社員の育休取得率100%を達成した。

 「両立計画書」は、同年3月に導入された育児推進策の一つ。同僚に頼みたいサポートの内容や、子どもの成長に合わせた将来のキャリアプランなどを書く。

図表:サントリーの「両立計画書」のイメージ

 その年の7月に第1子の長女が誕生した外食企業営業担当の坂本周造さん(31)も計画書を提出した上で、1カ月間の育休を取った。

 営業の仕事は従来、社員が個人として得意先と結び付いており、代えが利かず育休が取りにくいとされていた。社内での取得実績も1週間程度がほとんど。それでも坂本さんは「あっという間に成長する子どもとしっかり向き合いたい」と1カ月間の取得を申請した。

育休後も子どもとの時間を持てるように

 ただ、懸念はあった。育休中は仕事の成果が上げられず、競合他社の進出を許す可能性もある。所属長だった粉川裕支店長(現在は別部署に異動)は取得の意向を尊重した上で「しっかり準備して育休に入ろう」と助言。計画を踏まえて着実に業務を引き継ぐため、担当する社外の相手や業務内容を書き出して可視化し、影響を最小限にとどめる努力をした。

 そうして入った育休は「成長を間近で見られたかけがえのない時間だった」と振り返る。寝かしつけ前に長女を2時間抱っこしてあやした苦労など「育休を取らないと分からなかった大変さ」も経験。育休が明けた現在も夜間の仕事を極力減らし、子どもの入浴や寝かしつけをしている。

 育休が取れた背景には、営業という仕事が属人ではなく「チームで行うスタイルに変わってきた」(粉川さん)という働き方の変化も大きかったという。坂本さんは「後輩が取得を考えるときに自分のケースが参考になれば」と話している。

厚労省の復帰支援面談シートも使えます

 育休の計画を文書で残す方法は、労務管理の専門家も勧めている。げんき社会保険労務士事務所(岐阜市)の柳原元気代表(42)は、育休取得者とその上司の間で情報共有ができる「育休復帰支援面談シート」も活用できると紹介。育休前だけでなく育休中や復帰後の面談記録も同じシートに書き込めるようになっており、厚生労働省のホームページから「育休復帰支援面談シート」のPDFファイルをダウンロードできる。

 柳原さんは計画書やシートの利点について「会社と従業員がコミュニケーションを取り続けるのに役立つ。上司の異動などがあっても状況が把握しやすい」と説明。「中小企業などでありがちな『口頭で伝えて終わり』という事態も防げる。会社がこうした機会を提供することで従業員に安心感を与えられるし、育休取得後の生活のイメージもわきやすくなる」と話している。

〈みんなでもっと男性育児〉育児に積極的な男性を指す「イクメン」が新語・流行語大賞に選ばれて15年。社会に浸透しつつある男性の育児や育休の現在地を取材します。

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