長期療養児にスポーツを プロや大学チームに「入団」 仲間と過ごすかけがえのない時間
長期療養が必要な子どもたちがプロチームや大学の体育会に「入団」する活動の輪が広がっている。NPO法人「Being ALIVE Japan」(東京都)がTEAMMATES(チームメイツ)事業として運営するプログラムの一環。子どもたちは仲間として受け入れられ、スポーツに親しむことで、かけがえのない時間を過ごしている。
小5がロッテへ ZOZOマリンで始球式
リリーフカーに乗り、緊張した面持ちを浮かべた。8月28日にZOZOマリンスタジアムで行われた始球式。マウンドに上がったのは、小学5年生の宇都宮幹汰(かんた)君(11)だった。目いっぱい体を使い、ノーバウンドの投球を披露すると、大きな拍手に包まれた。
社会貢献プロジェクト「MARINES LINKS」の活動の一環としてマリーンズに入団した宇都宮幹汰くんが始球式に登場!
幹汰くんは本年度のシーズン終了までチームの一員として活動します!⚾#chibalotte @chibalotte pic.twitter.com/44swXMXMHC— パ・リーグ.com / パーソル パ・リーグTV【公式】 (@PacificleagueTV) August 28, 2022
4歳のころに急性リンパ性白血病を発症した宇都宮君は、プロ野球界で初の受け入れ先となるロッテに6月に「入団」した。幼少期に父としたキャッチボールをきっかけに興味を持った野球。治療中もいつか野球をしてみたいと思いを募らせてきた。
背番号は入団時の年齢にちなんで「10」。室内練習場での投球練習や選手たちとの交流、練習見学などこれまで計5回、活動に臨んだ。「緊張で手が震えていた」という始球式の大役を終えると、ほっとした表情に。「今日の1球のために何回もボールを投げてきた。やっぱり努力って大切」。はつらつと振り返った。
慶大野球部 中2が神宮のマウンドへ
大学野球界では慶大野球部が2018年から参画し、昨年8月から今年6月までは中学2年の国久想仁(くにひさ・そうと)さん(14)をチームの一員として迎え入れた。
成長軟骨に異常がある骨の病気「軟骨無形成症」の治療を続ける国久さんは、定期的にグラウンドを訪れて投球のこつなどを学び、5月末には早慶戦の始球式で神宮球場のマウンドへ。体重移動とボールを投げ上げるポイントを意識した成果が本番で表れ、納得の投球ができた。「教えてもらったことを精いっぱい出し切れた。とてもうれしかった」
親も成長を実感「内面から変われる」
活動中は学生部員の有志が練習メニューを考え、家族への連絡にも対応。4年の谷村雄一郎さんは「活動で気づいたことを報告できるようにしていた」。SNSを通じた広報も担当した4年の水谷昂正(こうせい)さんは「想仁の楽しんでいる様子を伝えていくことが、この活動を広めていくことにつながる」と説明する。
【#國久想仁 君練習参加】
本日、想仁君の5回目の練習を行いました!ピッチングでは、投げる距離もどんどん長くなり、メキメキと上達しています✨
また座学では、野球部の歴史、ポジションや変化球の名前、ポジションによるグローブの違いなどを勉強しました✏️#keiobaseball #tokyobig6 #繋勝 pic.twitter.com/gjUFFw526n
— 慶應義塾体育会野球部【公式】 (@KeiobbcOfficial) October 9, 2021
国久さんは活動を振り返り、「いろいろと僕を元気づけてくれた。毎日勉強を頑張ろうとか、リハビリを頑張ろうとか、そういう気持ちになった」。部員から受けた刺激は大きく、「何事にも努力できるような人に一歩ずつ近づいたかなと思う」と話す。
国久さんの父・勝さん(45)は、「スポーツ以外でも先を見据えて目標を持って動くようになった」と息子の活動前後の変化に目を細める。「子どもたちが自分のできる範囲でスポーツに触れるチャンス。内面から変われるきっかけになる」と事業に参加した意義をかみしめた。
12チームが21人を受け入れ Being ALIVE Japan 北野華子代表の思い
Being ALIVE Japanの北野華子代表(35)は「病気である事実を変えることは難しいけど、子どもたちが少しでも前向きになる治療生活をつくっていきたい」と事業への思いを語る。
自身も療養経験 米国の支援活動に感銘
北野さん自身、5歳から発熱や腹痛で入退院を繰り返し、18歳で診断名が分かるまで長い療養生活を経験した。もともと走ることが好きだったが、最初に制限されたのがスポーツだったといい、「病気になったらスポーツができないという認識が自分の中であった」という。
病気の子どもたちやその家族を心理的に支える資格「チャイルド・ライフ・スペシャリスト」を取得しようと渡米した際、院内で行われる活動や、地域のコミュニティーに戻る支援にスポーツを活用している現場に触れた。「リハビリとはまた違う観点だった。見に行って感銘を受けた」。スポーツを通じて新たな機会や価値観を提供しようと、2015年に団体を立ち上げた。
「入団」に関する事業は日本財団の助成を受けて2017年に開始。Bリーグのアルバルク東京を皮切りにJリーグの湘南ベルマーレやアメリカンフットボールのノジマ相模原ライズなどでも受け入れが進み、8月20日時点で12チーム21人が「入団」を果たした。子どもたちは基本的に自分で目標を立てて活動し、チームに溶け込むようにしている。
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