「顧問助産師」導入する企業が増加 体調もキャリアも相談できると社員に好評
24時間以内にメール返信、テレビ電話も
「赤ちゃんが授乳後に吐くのですが、どこが不調なのか分かりません」「子どもを産みたいけれど、今の役職だと難しい」
大阪市の助産師、岸畑聖月(みづき)さん(29)のもとには昼夜を問わず、相談のメールが寄せられる。「顧問助産師」として契約する企業の社員からだ。不妊治療や生理、コロナ禍での出勤の不安、職場の人間関係…。豊富な医学的知識を持つ専門職への信頼は厚く、男性からの相談も多い。
メールは24時間以内に返信。テレビ電話で面談にも応じる。総合病院で働く傍ら、岸畑さんがこうしたサービスを提供する「With Midwife(ウィズ・ミッドワイフ)」(大阪市)を起業したのは2019年11月。勤務先の病院で、妊娠後も忙しくしていて受診が遅れたり、キャリアとの両立に悩んだりする女性を見る機会が多かったのが理由だ。
コロナ禍で「孤立」を訴える母親が増加
働く女性が増える半面、産後に仕事を辞める人は少なくない。2018年の内閣府の報告によると、2010~2014年、第一子出産を機に離職した女性は47%に上る。岸畑さんは「病院や家庭だけでなく、職場での仕事内容なども見てアドバイスする必要がある」と話す。特に、コロナ禍の今は「リモートワークが増えて孤独」「ママ友にも会えない」など孤立を訴える母親たちからの相談も増えている。
現在、顧問助産師として働く人は8人で、大阪や東京の12社と契約を結ぶ。一企業当たり顧問助産師は3人で、契約料は月5万円から。社員の相談に乗ったり、オンラインでセミナーを開いたりしている。
かつては「産婆さん」として、地域で産前産後の女性を支えた助産師。だが、厚生労働省によると2018年末時点で、その85%は病院や診療所で働く。多くの女性にとって助産師のケアを受けられるのは入院中だけだ。4月施行の改正母子保健法では「産後ケア事業」の実施が市区町村の努力義務となるなど、近年、妊娠期から子育て期までの切れ目ない支援の重要性が叫ばれている。「企業と連携することで、子育て中の男性を含め、より多くの人を支援したい」という願いも岸畑さんの背中を押した。
「不安が解消されて仕事に集中できる」
契約企業の一つ、美容・医療用品メーカーのタカラベルモント(大阪市)は昨年12月、福利厚生の一環として顧問助産師を導入した。女性社員による座談会の席で「仕事が多いと不調があっても病院に行きにくい」「育児や健康について相談できる場がない」といった声が上がったのがきっかけだ。4月末までにあった相談は58件。相談者は20~50代と幅広く、男女比はほぼ半数ずつだった。
利用した社員からは「専門家に悩みを聞いてもらえて安心感がある」「不安が解消されて仕事に集中できている」といった感想があった。福利厚生を担当する人事教育部の亀井菜織さんは「出産や心身の状態といったプライベートなことに、会社としてどこまで踏み込んでケアするべきか悩んだ」と明かす。その上で「社員が健康で、長く働けることは会社にとっても重要」と意義を強調する。
助産師とは
妊娠出産時の女性、乳児をケアする専門職。助産師は女性だけで、看護師国家試験と助産師国家試験の両方に合格することが必要。病院や助産所でのケアのほか、市町村の母子保健事業や学校での性教育、更年期の健康相談などにも携わる。厚労省によると2018年末時点で就業者は約3万7000人。
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