日本と欧米は男性の家事・育児分担がこんなに違う 「出生率アップの鍵」ハーバード大教授が分析

柚木まり (2023年3月5日付 東京新聞朝刊)

米ハーバード大ライシャワー日本研究所所長のメアリー・ブリントン教授(本人提供)

 日本と米国、スウェーデンの比較研究で、男女間の家事・育児の分担が均等に近い国ほど出生率が高くなる傾向を示すという結果が出た。3カ国で調査した米ハーバード大ライシャワー日本研究所所長のメアリー・ブリントン教授は、男性の育児休業に対する考え方の違いが影響していると分析する。政府が検討している「異次元の少子化対策」では、制度の拡充だけでなく、「男性は仕事、女性は家庭」という意識の変革を後押しする取り組みも焦点になる。

日本は15% 米・スウェーデンの半分以下

 ブリントン氏は経済協力開発機構(OECD)の調査などを基に、男性と女性の家事・育児分担割合を算出。男性の分担割合は日本が約15%で3カ国中、最も低かった。米国は4割近く、スウェーデンは4割を超えた。2020年の出生率はそれぞれ1.33、1.64、1.66で、男性が担う家事や育児の割合が高く、分担が男女間で均等に近いほど、出生率が高い「相関関係」が確認された。

グラフ 3カ国の家事・育児の男女分担割合と出生率

 あわせて3カ国の都市部に暮らす20代から30代の男女80人ずつ、計240人を対象に、2012年と2019~2020年の2度、聞き取り調査を実施。その結果から、家事・育児分担割合に差が出る要因として浮かび上がったのが、育休に対する意識だった。

日本は男性の育休取得に反対する女性も

 男性の育休について、日本は2012年の調査で「職場で受け入れられないだろう」と回答した人が過半数だった。誰がどのように育児の負担を受け入れるべきかという質問でも「母親が退職する」や「母親が勤務時間を減らす」とした回答が過半数を占めた。

 2019~2020年の調査では「取得すべきだ」が8割超となり、意識の変化をうかがわせた。ただ、収入減の影響が大きいことを主な理由に、男性の育休取得に反対する女性もいた。実際、2021年度の日本の育休取得率は男性が約14%、女性が85%超で差が大きい。

「政府は男性の育休取得の義務化を」

 スウェーデンでは「子どもが幼い間は男女とも勤務時間を減らせば良い」との回答が7割超だった。育休取得率は男女とも8割を上回る。育休が法制化されていない米国では、子どもと過ごす時間を確保する方法を聞いたところ、回答の4分の3以上が「男女で仕事と家庭のバランスを考える」という趣旨だった。

 日本は昨年の出生数が統計開始以来初めて80万人を割り、77万人前後まで落ち込む見通しだ。ブリントン氏は本紙のオンライン取材で、男性の長時間労働を当然視する風潮が女性の育児負担の重さにつながっていると指摘。「男性の育児参加に対する社会の理解が醸成されるのを待っている時間はない。政府は男性の育休取得の義務化など、強制力を伴う措置を検討すべきだ」と語った。

メアリー・ブリントン

 1952年米カリフォルニア州生まれ。2003年にハーバード大教授に就任、2018年から日本研究の支援を行うライシャワー日本研究所所長。主な研究テーマはジェンダー不平等や現代日本社会学。日米間の学術交流や相互理解に貢献したとして、2022年旭日中綬章を受章。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年3月5日

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