母語は日本語、母国語は朝鮮語 「朝鮮学校は、日本に住む外国人として芯を持って生きるためにある」〈埼玉朝鮮初中級学校の60年・中〉
片道1時間半以上かけて通学 県外の子も
和やかな夜の食卓を囲む、東松山市の李賢奎(リヒョンギュ)さん(52)一家。中3の次男周衍(チュヨン)さん(15)と小4の長女夏妍(ハヨン)さん(10)は、埼玉朝鮮初中級学校(さいたま市大宮区)へ片道1時間半以上かけて通う。
「乗り継ぎが多くて遅延もあるし川越線が1時間に3本しかないから、寝坊で遅刻しても『電車が遅れた』って言い訳できるんです」。通学で疲れないか聞くと周衍さんはいたずらっぽく否定し、賢奎さんは「そんな理由か!」と笑った。
交通の便がいい大宮にある同校には、茨城県古河市や栃木県小山市など県外から通う子どももいる。李家の子どもたちは地元の保育園に通ったが、父の賢奎さんは同校OB、母の崔●順(チェ・ヘスン)さん(48)も大阪の朝鮮学校出身で、子どもたちを「ごく自然」に通わせた。子どもたちも自然に受け入れるとともに、保育園の時の友だちとは今も仲が良い。世代としては両親が在日3世、子どもたちは4世だ。
「反日教育?」 ママ友の誤解にショック
埼玉朝鮮初中級学校の教育理念は「ウリ(私たち)を学び、身に着けて光らせる」。授業は全て朝鮮語で行い、「国語」は朝鮮語を指す。「朝鮮歴史」「朝鮮地理」があり、音楽や体育では民族音楽や舞踊を学ぶ。どちらも地域のイベントや文化祭などで披露し、交流のツールにもなっている。民族教育は自分たちのルーツやアイデンティティーを大切にするためで、その他の内容は日本の学校とほぼ変わらない。
政治問題などで視点や捉え方が日本と異なる部分もあるが、現在の日本を敵視するような教え方はしていないという。ヘスンさんは以前、夏妍さんを朝鮮学校に進学させることを知ったママ友に「大丈夫なの? 反日教育やってるんでしょ?」と言われて驚いたという。「やっていると思っている人がいたのがびっくりして悲しかった」と振り返る。
周衍さんは「英語以外、全部だるい」と言いつつ、笑顔で学校生活を語り、部活動でサッカーに励む。小学生のころは地域のサッカークラブにも所属していた。夏妍さんは始めたばかりのピアノに夢中で、家でも勉強を欠かさない頑張り屋。将来の夢は周衍さんが海洋学者、夏妍さんはピアニストの昆虫学者。二人とも「世界を知りたい」と目を輝かせる。
地元に貢献しつつ、民族心を胸に生きる
李家の会話は時々、朝鮮語の単語が交じる程度で基本的には全て日本語。テレビも買い物もすべて日本語の環境下で、家庭だけで朝鮮語教育をするのは難しい。翻訳家のヘスンさんが字幕作成のため流している韓流ドラマを見ても、周衍さんは「(出演者が)何を言っているか分からない時がある」という。
ヘスンさんは「母語は完全に日本語、でも母国語は朝鮮語」と表現する。朝鮮人として生きにくい時代だが、自らのルーツを知り、芯を持ってここで生きていくために学校はあると考えている。
自身の兄弟と清掃会社の経営に携わる賢奎さんは「私も子どもたちも朝鮮半島に帰ることはない」と言う。「私も東松山の地元に働いて貢献しながら、朝鮮人ということは忘れずに生きている。日本に住む外国人としてどう生きるか、民族心、アイデンティティーをしっかり持って羽ばたいてほしい」と子どもたちの成長を見守っている。
※●は「慧」の字のヨの中棒が右に突き出る字です
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