中学受験で「毒親」にならないために 小説「翼の翼」著者の朝比奈あすかさんに聞く

(2022年7月15日付 東京新聞朝刊)

中学受験に挑む親子の姿がリアルに描かれた著書「翼の翼」(光文社)を手にとる朝比奈あすかさん

 少子化が進む一方で、大都市を中心に過熱する中学受験。子どもがまだ小学生のため、親の関わる度合いも大きいとされる。頑張りどころの夏休みが近づき、子どもを追い詰めていないか。中学受験にのめり込む親のリアルな心情を描いた小説「翼の翼」(光文社)の著者で、経験者でもある朝比奈あすかさん(46)に、親の心理や助言を聞いた。

「本番まで半年」冷静でいられない親

 ―作品では、夏休みの間、小学6年の息子に対する親の言動が「教育虐待」といえるほどエスカレートする様子が描かれています。

 「本番まで半年切った」「苦手科目を克服しなければ」と、夏以降の親の不安や焦りは大きなものです。子どもの中学受験を経験した私も精神的に参りましたし、児童心理学を学んだお母さんでも、動揺し冷静でいられなかったそうです。

作家の朝比奈あすかさん(松陰浩之さん撮影)

 「子どもを導きたい」という愛情と使命感ゆえとは思いますが、いくら懸命になっても「馬を水辺に連れて行けても、水を飲ませることはできない」ということわざの通り、子どもがやる気にならなければ始まりません。この時期、子どもにも漠然とした不安や焦りがあるものです。「ネットにこれやった方がいいと書いてあったよ」などと口出ししても混乱させるだけ。親は余計なことをせず、趣味や仕事で自分の心をなるべく子どもからそらした方がいいかもしれません。


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「脅し」を言われた子はずっと忘れない

 ―親も試されています。

 強い言葉で脅して勉強を強制し、成績が一時的に上がったとしても、親の言動によっては、子どもが劣等感を一生背負ったり、他人との比較でしか自分の価値を確認できなくなったりします。親は「そんなこと言ったかな」と忘れがちですが、言われた側は大人になっても忘れないもの。SNSや書籍などでも「自分が今もつらい思いをしているのは、ひどい言動をした『毒親』のせいだ」と糾弾する声も見かけます。

 「翼の翼」の読者からは「こんな親になってはいけないと思った」「子どもを責めたくなる時の歯止めになった」といった感想が多く寄せられました。少しでも子どもを守れたのなら良かったです。ぜひ模試の結果が出る前などに、主人公の振る舞いを反面教師として読んでみてほしいです。

 ―受験後も親子の関係は続きます。

 目の前の小学生のわが子もいずれ大人になり、世界を広げます。親を一人の人として評価する時、「あの時、親にこんなことを言われた」などと軽蔑されるか。それとも「あの時、自分に任せてくれた」と感謝されるか。半年後の合格という短期利益にこだわるより、子どもに対し恥ずかしくない言動をしておいた方がいいのではないでしょうか。

 現時点の子どもの成績や態度からは、信頼するのは簡単ではないかもしれません。でも、先の先まで見据え、子どもが成長するのを待つのが、人を育てるということなのだと思います。

(松陰浩之さん撮影)

朝比奈(あさひな)あすか

 1976年、東京都生まれ。2006年、「憂鬱なハスビーン」で第49回群像新人文学賞を受賞し小説家デビュー。代表作に「不自由な絆」「人間タワー」「君たちは今が世界(すべて)」など。最新作は、児童養護施設に暮らす高校生を主人公とした青春小説「ななみの海」。

少子化の一方で首都圏の受験率は過去最高に

 首都圏模試センターによると、首都圏の中学受験生は8年連続で増加。昨年度の私立・国立中学入試の受験者総数は推定で5万1100人と過去最多、受験率(小学校卒業予定者数に対する受験者数の割合)も17.3%で過去最高だった。

 公立中高一貫校のみの受験者を合わせると、6万2100人となり、首都圏の小学生の4.7人に1人が受験した計算になる。背景には、変化する大学入試への不安や高校入試を回避したい思いなどがあるとみられる。公立中高一貫校は、愛知県で2025年度から一部県立高校での導入が検討されるなど全国的に増えている。

中学受験の悩みと朝比奈さんへの質問を募集

 東京すくすくはこの夏、朝比奈あすかさんを招き「オンライン講座」を開きます。読者のみなさんからの質問を募り、朝比奈さんに答えていただく予定です。①中学受験に関して悩んでいること ②中学受験をテーマにした「翼の翼」の作者であり、子どもの中学受験の経験者でもある朝比奈あすかさんに聞いてみたいこと、を記事末のコメント欄からぜひお寄せください。

朝比奈さんがみなさんの質問に答えました

【1】志望校はどう選ぶ? 伸び悩んだ時の声かけは?(動画あり)

質問0:小説「翼の翼」の執筆背景と伝えたかったこと
質問1:志望校の選択 気を付ける点は?
質問2:伸び悩んでいる時やダメだった模試後の声かけは?
質問3:「これが出たら危ない」親の言動の目安は?
質問4:お金のかかる中学受験。「元を取りたい」と思ってしまう

【2】他の子と比べるのはなぜ良くない?

質問5:偏差値や順位で他の子とわが子を比較してしまいます
質問6:勉強しない子に怒ってしまう。子どものやる気を出すには?
質問7:共働きでも子どもをサポートできるのか不安です

【3】夫婦仲の悪化を防ぐには? 中学受験を「降りる」とは?

質問8:合格しても入学後のミスマッチが心配です
質問9:中学受験から「降りた」エピソードを教えてください
質問10:中学受験で夫婦仲が悪化しないためには?

【番外編】崩れた親子関係-ある女性の告白

難関校に目標を定めた父が、滑り止めで合格した中学に進んだ私に求めたことは…

コメント

  • 中学受験を経験した者です。 私は正直勉強が好きではありませんでした。しかし親は、私が保育園の頃から勉強ドリルをやらせていました。小学校の低学年から塾に通い、夏休みなどは課題に追われていました。塾だけ
    あらし 男性 30代 
  • 中学二年生の息子がいます。離婚など大人の事情で小学校を二回転校、学校へ行き渋っていたため学習塾に入れたところ県立の中高一貫校受験を勧められ、そのまま受験、滑り止めの私立も含め合格しました。 中学
    たなぼたはなさく 女性 50代