掛け算の順序問題に決着はつくのか?「車が6台。1台に5人乗ると…」6×5か5×6か 文科省に聞いてみた

瀬野由香 (2023年6月3日付 東京新聞朝刊)

本文とは別の小学校に通う男児の掛け算の答案用紙。式を逆に書いて不正解となり、先生から「しきがぎゃくです」と赤字で指摘された

 「娘がテストで掛け算の式が逆だとしてバツになった」。東京都内の女性から東京新聞「ニュースあなた発」にこんな訴えが届いた。掛け算の文章題で答えが合っていても、式の順序が逆だと間違いなのか。その是非を巡っては50年前から論争が続いているが、いまだ決着していない。近年は、採点がSNSで炎上するケースも散見される。学校現場や文部科学省を取材してみると、変化の兆しも見られるが…。

「1つ分の数×幾つ分」…1つ分とは?

 現在小学3年の娘が2年だったとき、算数テストで「車が6台。1台に5人乗ると何人乗れるか」という設問があった。娘の書いた式は「6×5」だった。「6台の車に1人ずつ乗せていくから6人で、それを5回繰り返す」と考えたからだが、バツが付けられた。

 文科省の「小学校学習指導要領解説 算数編」によれば、小2で掛け算を教える際、「1つ分の数×幾つ分」の順で式を立てることになっている。例えば「4人にみかんを3個ずつ配ると何個?」の答えを求める場合、「1つ分=3個」×「幾つ分=4人」となり、順序は「3×4」となる。

 娘の先生も「1台あたり5人」を1つ分の数ととらえて「5×6」だけを正解としたのだ。

70年代から論争 教員にも苦手意識

 「掛け算順序論争」は、1972年の朝日新聞の記事が発端だった。逆順の式をバツとされた小学生の保護者が文部省(当時)などに訴えた。「問題の意味を理解しているのか判断できる」と主張する順序肯定派に対し、否定派は「型通りの指導は考える力を阻害する」などと反論。数学者まで巻き込んで論争が繰り返されてきた。

 「順序が逆だと△にする先生が多い気がする。×にするのをおびえているところはあるかも」と打ち明けるのはある小学校教諭だ。「私の感覚では、周りの先生の半数以上は『小2の掛け算の○付けは嫌だよね』という意識を持っている」と続けた。

アンケートでは83%が「どちらでも」

 一方、別の小学校教員は「(逆順をバツにするなど)機械的に採点する先生もいる。保護者とトラブルになるのは説明不足もあると思う」と強調する。この教員は、保護者会で親にも掛け算の解釈やテストの扱いを説明しているという。

 大手予備校「河合塾」講師の迫田昂輝(さこだこうき)さんが2年前、小学校の教員や塾講師ら100人にSNSでアンケートしたところ、83%が「順番はどちらでもよい」と回答した。迫田さんは「順番にこだわるのは一部の教員だけではないか」とみる。

迫田さんのアンケート結果は教育情報サイトmanaviの記事【先生100人超に聞いた!「かけ算の順序問題」に保護者はどう向き合うべきか?】で詳しく紹介されています。→こちら 

「文科省も順序論争を意識している」

 2020年度から使用されている指導要領解説では、掛け算に関する記述を増やし、「逆順」についても例示した。

 「かけ算には順序があるのか」の著書もある算数史家の高橋誠さんは、掛け算の記述が増えたことに「文科省も順序論争を意識している」と見て取る。

結局どうなの?「先生の判断による」

 しかし、文科省はあくまでも従来の順序が「自然である」としている。担当者に尋ねると、「式の順序を変えるなど計算の工夫はいろいろあっていいが、基本的に式には順序がある。そこはちゃんと教えましょうねということを解説で書いている」。では結局のところ、式を逆に書いたら○なの?×なの? 文科省の見解は「先生の判断によると思います」だった。

 女性は問いかける。「何を一つ分と考えるかは、見方次第で変わる。一つの考え方を押しつける指導は、多様性を重んじる今の時代に逆行していませんか」

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年6月3日

コメント

  • (6台の車に)1人ずつ乗車 ✕5人ずつ乗車=6✕5=30人 逆にしても成立する。
    しろ 男性 50代 
  • 6台に一人ずつ、1台につき5人になるまで座っていくとかんがえれば 6台✕1人/台+6台✕1人/台 +6台✕1人/台+6台✕1人/台 +6台✕1人/台=30人 とも考えられる。 何方でもありだと
    たま 男性 50代