家族も「ONE TEAM」 ラグビー元日本代表・田中史朗さんが大事にするコミュニケーション術
キスやハグで子どもたちを溺愛
田中さんは2012年に元バドミントン選手の妻・智美さんと結婚。現在、長女・愛真(えま)さんと長男・真央(まお)くんの2人のお子さんがいます。
-お子さんを溺愛していると聞きました。
「はい。上の娘が10歳で下の息子が7歳ですが、今でもキスやハグをしています」
-娘さんもそろそろ、そういうのを嫌がる年頃ではないですか?
「ハハハ。娘はチュッとした後、手で拭いています(笑)。でも、僕はずっとこれを継続していきたいんです。もし、やめてしまったら、心が離れていくような気がして」
-仲がいいですね。
「海外では何歳になってもキスやハグをしたりするのが当たり前ですから。あと、言いたいことをお互いに言い合う。そういう姿を見て、いいなと思っているので、うちでもそうしたいんです」
田中さんは学生時代にニュージーランドに留学。2013年からは日本人で初めて世界最高峰のプロリーグ「スーパーラグビー」でプレーするなど、海外経験が豊富。そのため、外国人の子育ての良い点を参考にしているそうです。
家族全員、寝るまでリビング
-海外で生活した際、子育ての面で何か気が付いたことはありますか?
「そうですね。海外は親子の距離が近い気がします。例えば、ニュージーランドでは平屋の建物が多くて、物理的に家族の距離が近いというか、いつも一緒に過ごしている印象です。だから、うちもみんなで一緒にリビングにいるんですよ」
-お子さんもですか?
「はい。子どもたちも、寝るとき以外は寝室には行かないですね。もちろん、一緒にいると、けんかもしますが、僕はけんかをしても、いいと思うんです。コミュニケーションってお互いに話をすることでしかできないと思っていますから」
-なるほど。
「僕は『宿題でわからないところはある?』とか『学校では何をしているの?』とか、常に話しかけています。そうすると、常に子どもたちの心が横にあるので、家族としてずっと離れないでいられるんじゃないかなと思います」
よくしゃべるチームほど強い
-ラグビーと家族って、何か共通点はありますか?
「家族もラグビーも、お互いのことがわからなければ、いい関係は築けないですよね。例えば、ラグビーって、意外にピッチでいろいろ話をしているんですよ。状況確認だったり、してほしいプレーだったりを、お互いに」
-以前、「ラグビーは、よくしゃべるチームほど強い」と話していました。
「そうなんですよ。遠慮せず、外国人にも、言いたいことを言って、チームの距離をぎゅっと詰める。人って相手の考えがわかることがすごく大事で。だから、僕は、家族も同じように、お互いに話をすることが一番だと思っています。ラグビーも、家族も『ONE TEAM』ですから」
-普段から智美さんともコミュニケーションはよく取りますか? 田中さんは愛妻家で有名ですが、夫婦円満の秘訣(ひけつ)を教えてください。
「うーん、そうですね。ずっとメールとかラインで連絡を取り合うくらいですかね。単身赴任なので、朝と夜に『おはよう』と『おやすみ』というのは絶対で、他にもちょくちょく…」
周囲が驚くほど妻に連絡
このとき、取材に同席していた所属事務所の柴田耕治社長がひと言。「ちょくちょくではなく、驚くほど、頻繁に連絡していますから」
-そうなんですね! 頻繁にというと、一日に10通とか20通くらいですか?
「いや…。もっと、全然してます(笑)。数えきれないくらい(笑)。でも、僕らはそれが普通なので。だから、一日にメールやラインを一度もしない夫婦もいるって聞いたとき、びっくりしました」
柴田さんによると、本当に仲がいい夫婦で、よく電話もしているとか。例えば、3日間、家にいて、たっぷり話しているのに、仕事で東京に移動したら、東京に着いた瞬間、また、智美さんと電話している姿を見かけたそう。
「僕の電話の履歴、ホンマに妻と柴田さんしかないです(笑)。あと、たまに実家(笑)。妻との電話の内容は主に子どものことです。でも、苦にもならないし、それが当たり前になっていますね」
田中さんが妻の智美さんにプロポーズするとき、智美さんの旧姓(作山)にちなんで、39本のバラを贈ったのは有名な話。ラグビー界ナンバーワンの愛妻家といううわさは間違いなさそうです。
親を代表試合に招待して
-智美さんもヨネックスなどでプレーした元バドミントン選手。まさにスポーツ一家ですね。
「はい。なので、娘はバドミントン、息子はラグビーの日本代表になりたいと言っています。でも、そんなに簡単になれるものではないので、『日本代表は甘いもんじゃないよ、世界にはもっと頑張っている人がいるから、努力しないと』って話はよくしています」
-お子さんが小さい頃から、一緒にトレーニングをしていたと聞きました。
「この間も、息子と一緒に近くの公園を並んで走ったとき、僕が息子を抜くと、息子は負けたくないから、抜き返してくるんです。それで、また僕が抜いて、というのを繰り返すと、息子はあきらめそうになる。そういうときに『日本代表になりたくないの?』って励ますと、また頑張る。子どもの成長する姿を見るのは、うれしいです」
-いつも一緒にトレーニングを?
「基本的には家族4人でやることが多いですかね。僕が家にいるときは、朝、一緒に公園の周りを6キロくらい走ります。遊びでバドミントンやラグビーをやるときもありますよ。『パパはもう日本代表できないから、君たちが日本代表になって、今度はパパとママを試合に招待してね』と話してます」
子どもの話をしているときのうれしそうな様子が、とても印象的でした。
一度きりの人生、やりきろう
田中さんは今年5月に現役を引退。今はNECグリーンロケッツ東葛で(育成年代の)アカデミーコーチをしています。その他にもラグビー教室や講演で、子どもたちの指導をする機会も多いのですが、以前から、子どもたちに言い続けてきた言葉があるそうです。
「小学校や中学校に行って子どもたちに会うとき、僕はよく、『人生は一度きり。後悔しないようにしよう』って、伝えさせてもらっているんです。今思うと、僕自身、素晴らしいラグビー人生だったのですが、同時にいっぱい、後悔もしています。あのとき、こうしておけばよかったとか、もっと走っておけばよかったとか。そういう思いを子どもたちにはしてほしくないんですよね」
スポーツの練習はつらいことが多く、頑張っても結果が出るとは限りません。それでも、プロで17年間プレーした田中さんはこう話します。
「本当に一生懸命、頑張っていたら、もし、そこでだめだったとしても、後でよかったって思えるときがきっときます。自分がやりたいことはしっかりやりきって終わらないと、後悔するよって伝えています」
自分のやりたいことをやりきって終わる。子どもにも大人にも響く言葉だと思いました。
将来の目標は「日本代表ヘッドコーチ(監督)」という田中さん。妻・智美さんとのすてきな関係、子どもたちへの指導法は、私たちの子育ての参考になりそうです。
田中史朗(たなか・ふみあき)
1985年、京都府生まれ。元ラグビー日本代表のスクラムハーフ。伏見工(現京都工学院高校)、京都産業大を経て三洋電機(現パナソニック)に入団。2013年には日本人として初めて世界最高峰の海外リーグ「スーパーラグビー」でプレー。日本代表として11年のニュージーランド大会から19年の日本大会まで3大会連続でW杯に出場。15年のイングランド大会では、歴史的な勝利を挙げた南アフリカ戦で最も活躍した選手の「マン・オブ・ザ・マッチ」に選ばれた。日本代表のキャップ数は「75」。24年5月に現役を引退。現在、宝島社から「こぼした涙の物語」(金子達仁著)が発売中。
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感激してすぐ泣いてしまうふみさんが大好きです。たくさんラインしたり、電話をしたり、ご家族のことを愛しているのがすごくわかりました。
フミさん、長い間、お疲れ様でした。ガッツリ行くラグビースタイルが好きでした。プレーの源は奥さんと家族だったんすね。うちもコミュニケーションを取って仲のいい家族=チームワンを目指します!