子どもが親の機嫌を気にするのは、バウンダリー侵害のサインです〈スクールソーシャルワーカー・鴻巣麻里香さんに聞く〉③

タイトル:「バウンダリーって?」親子に必要な境界線

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保護者が子どもと良好な関係を築く上で大きなヒントになる「バウンダリー」という考え方について説明するスクールソーシャルワーカーの鴻巣麻里香さん=松崎浩一撮影

【第3回】子どもと良い関係を築くために必要な心の境界線「バウンダリー」について、スクールソーシャルワーカーとして中高生やその保護者を支援する鴻巣麻里香さん(45)と考える連載。第1回は、子どもたちが「私は」を主語にして考えられない背景を、第2回は、「なぜ大人は子どものバウンダリーを侵害してしまうのか」を取り上げました。今回は、バウンダリーを侵害を避けるために、どういうことに気をつけるとよいかを考えます。立ち止まるための親側・子ども側のサイン(兆候)はあるのでしょうか。

連載目次【「バウンダリー」って? 親子に必要な境界線】

第1回 子どもの「バウンダリー」侵害していませんか?
第2回 バウンダリー侵害が起きる理由 子どもの不安より親の不安で動いていませんか
第3回 子どもが親の機嫌を気にするのは、バウンダリー侵害のサインです(このページ)
第4回 意見やノーが言えるようになるためには、「聞かれる体験」の積み重ねが必要(近日公開予定)

第3回のポイントは…

  • バウンダリー侵害を避けるために、自分の気持ちに敏感であること
  • 親の不安に対処するために、子どもを動かそうとしない
  • 子どもが親の機嫌を気にするのは、バウンダリー侵害を受けているサイン

子どもの態度や選択にイライラしたら

ー親が子どものバウンダリーの侵害をしないようにするためには、どういうことに気を付けたらよいでしょうか。立ち止まるための、親側・子ども側のサイン(兆候)はありますか?

自分の心の動きにきちんと敏感であることです。

子どもが、親に何かを言ったり、したりしてきたことで、親の気持ちが揺らぐのは正常です。ただ、子どもの態度や選択を見て、親の中に不安、イライラ、もやもや、そわそわ…といったネガティブな心の動きが生まれたら、もうその時点でバウンダリー侵害が起こっています。「本当はこうあるべきなのに、その通りにしない子ども」に対するイライラ・そわそわだからです。

子どもが不機嫌になっていると、親が不機嫌になることもあります。「機嫌よくしていてほしいのに、子どもが機嫌よくしてくれない。なんかやだな。私、なにか悪いことしたかな」と親がイライラ・そわそわした時点で、親と子の境界線はぐちゃぐちゃになっています。子どもの不機嫌に親が引っ張られる必要はありません。

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「親の不安に対処するために、子どもを動かそうとしないで」と話すスクールソーシャルワーカーの鴻巣麻里香さん=松崎浩一撮影

いずれにしても、子どもの態度に対して自分の中で強い心の動きがあった時は、バウンダリー侵害の黄信号が点灯していると考えてください。重要なのは、子どもの話に親の心が動いたとき・反応したときに、「これは私の気持ちなんだ」「これは私の懸念なんだ」「私の不安なんだ」と、自分の中に収まっているかどうかです。

不登校の子の例でいうと、「学校に行かない子どもを見て、私の中に生じている私の不安なんだ」と、「私の」という言葉を付けて自分の中に落とすことができると、バウンダリーを踏み越えるのを防ぐことができます。

そこで、「私の不安にどう対処していく?」となった時に、子どもを動かさないことも大切です。「私が不安だからあなた学校に行ってよ」となったら、これはバウンダリーの侵害です。「学校に行けない子どもの支援」と、「子どもが学校に行かないことで不安になっている親の支援」は別なので、そこは切り離さなければいけません。

子どもが親の機嫌を気にしていないか

ー逆に、子どもの側が、親にバウンダリーを侵害されていることに気付けないこともあるのでしょうか?

はい。日常的にバウンダリーの侵害を受けている子どもにとっては、それが当たり前になっているので、「自分のバウンダリーが侵害されている」となかなか気付けないことが多いです。

「なんとなく苦しいな」「お母さん/お父さんといると、なんか息が詰まる」「なんだかいつもびくびくしてしまう」と感じていても、幼い時からずっとそれが当たり前だと、違和感や「ちょっと心地よくない」という気持ちがあっても、「そんなものなのかな」と流してしまう可能性はあります。

書影「わたしはわたし。あなたじゃない。」

鴻巣麻里香さん著「わたしはわたし。あなたじゃない。 10代の心を守る境界線『バウンダリー』の引き方」(リトルモア)

近著「わたしはわたし。あなたじゃない。」(リトルモア刊)は、そういう子たちに向けて、「それはバウンダリー侵害だからね」と解説したくて作った本でもあるんです。「あなたが当たり前に受け入れているそれ、もしかしたらバウンダリー侵害かもしれないよ」「本当は嫌だったんじゃない?」って。

子どもたちが気付くために一番分かりやすいのは、「親の機嫌、大人の機嫌を気にする自分」です。そんな自分を見つけたとしたら、もう結構バウンダリーを侵害されています。

イラスト

イラスト・横田眞未子

日本は「察して文化」なので、はっきりと言葉にしない。例えば、仕事から帰ってきて、「ああ、今日は仕事でとっても疲れてなんかイライラするんだ」と言葉にする親よりも、ため息をついて、不機嫌そうにドアをバン!と閉めて、話しかけても面倒そうな態度をとる親の方がずっと多いんです。それはつまり、子どもに対して「私は今すごく疲れて不機嫌だから察しなさい」と言っているわけなんです。子どもは察します。

それを繰り返して、「今日はなんか機嫌よさそうかな」「今日は不機嫌だな」「なんかちょっと怖いな」と、親や教師の言葉にならない態度や、立てる物音に対してすごく高いアンテナを張ることになってしまう。大人の機嫌を意識する自分に気付いたら、バウンダリー侵害が起きていると考えてください。

※続く【第4回 意見やノーが言えるようになるためには、「聞かれる体験」の積み重ねが必要】の記事では、子どもの意見を聞くにはどうしたらよいか、そのためには子どもが何歳ごろから意識していくとよいのかを考えます。進路の相談をしてきた子どもや、予期せぬ妊娠に直面した子どもとのやりとりの例も紹介します。「ああ、自分の向き合い方は全然なっていなかったな」と感じるかもしれません。でも大丈夫です。子どもとの会話にすぐに取り入れられそうなヒントもたくさん盛り込んでいます。
子どもが進路や学校の悩みに直面したとき、保護者がどうかかわり、どうサポートするかは悩ましい。保護者のかかわり方によっては、子どもが余計につらい思いをしてしまうこともある。子どもの意見を受け止めることができているか、親の考えを押しつけてはいないか。スクールソーシャルワーカーとして中高生を支える鴻巣麻里香さん(45)は、近著「わたしはわたし。あなたじゃない。

10代の心を守る境界線『バウンダリー』の引き方」(リトルモア刊)で、保護者が子どもと良好な関係を築く上で大きなヒントになる「バウンダリー」という考え方を紹介している。「心を守る境界線」を意味する「バウンダリー」は、「子どもの権利」とも深くかかわる考え方だ。11月20日は1954年に国連が制定し、今年70年を迎える「世界子どもの日」。「子どもの権利条約」は35年前の1989年のこの日、国連総会で採択された。節目の日に合わせ、大人が子どものバウンダリーを侵さないために大切なポイントを考えたい。

鴻巣麻里香(こうのす・まりか)

1979年生まれ。スクールソーシャルワーカー、精神保健福祉士。子ども時代には外国にルーツがあることを理由に差別やいじめを経験する。ソーシャルワーカーとして精神科医療機関に勤務し、東日本大震災の被災者・避難者支援を経て、2015年、非営利団体KAKECOMIを立ち上げ、こども食堂とシェアハウス(シェルター)を運営している。著書に「わたしはわたし。あなたじゃない。 10代の心を守る境界線『バウンダリー』の引き方」(リトルモア)、「思春期のしんどさってなんだろう? あなたと考えたいあなたを苦しめる社会の問題」(平凡社)などがある。

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